プロローグ ~境界線~
大歓声が響き渡る。
背中が冷たい。震える手を無理やり抑え込もうと気をやるが、それでも尚、止まる気配はない。
目の前の男が剣の柄に手を置くと、音も時間も、全てが止まったような錯覚に陥る。
この距離はすでに、恐らくギリギリ相手の間合いである。だが、こちらの間合いには程遠い。
静まり返ったフィールドに剣を構え、相手の呼吸一つ見落とすまいと、全神経を集中させる。
相手の左足が動くと同時に、後ろに飛び退いた。
しかし、間合いは一瞬で埋まり、男は剣を抜き―――
「っ!?」
男はバランスを崩し、右膝を着く。
男の足元に氷の花が咲いている。俺の手に握られた魔剣・『零の氷刃』が青白く光る。
剣先を男に突き出すと、男の右腕に突き刺さる。傷口の周りが凍り付く。
わあぁぁぁ!うおおおぉ!と歓声が沸く。
「シッ!!」
ここが勝機と見て、追撃する。
が、横に放った剣撃は虚しく空を切る。
「……なるほどな」
真後ろから声がした。直後、左足に激痛が走る。
不気味なほどに赤黒い剣が、脹脛を貫通し、地面にまで突き刺さっている。
「キサマに魔剣の使い方を見せてやろう」
男は腰から一本の脇差を抜く。
(……いや、脇差よりは長いか?)
瞬間、とてつもない魔力が、とてつもないスピードで溢れ出していく。先ほどまでのプレッシャーがまるで子供騙しだったかのように。
気迫に圧され、意識をしっかり持たなければ、指一本まともに動かせない程だ。
「ぐっ!くうぅ!」
意を決して、刺さった脇差を引き抜く。痛みで額に大粒の脂汗が浮かび上がる。
引き抜いた脇差が、パキンと高い音を上げて割れた。地面に落ちた刀身が、更にパキパキと砕け散る。
(……ッッ!?引き抜いただけで割れた……?いや、剣の魔力は残っている……?違う!魔力が辺り一面に散布されているのか!)
我に返り、辺りを見渡す。
左足を引きずりながらもとっさに身構える。目の前の男は無防備に立っていた。
あれだけ沸いていた観客の声はおろか、ここは闘技場ですらなくなっていた。
そこにあるのはただ、地面に刺さった無数の剣や斧、割れた盾に、首の無い女神の装飾が付いた杖。
(何が起こった?ここはどこだ?この無数の武器は?)
壊れている武器や防具にまで、全てに魔力が溢れている。
訳も分からず、辺りを見渡す。
「魔剣の『完全固有結界』だ」
無表情で、男――<剣聖>ザクス・クレイルはそう言った。
安全な距離は、もはやどこにもありそうに無かった。
皆様、はじめまして!
まずはご覧いただいたことに感謝を。
貴重なお時間をいただきまして、本当にありがとうございます。
お話を作ること自体が初めてなので、このボタンを押せば投稿されるのか・・・!と、すごく緊張しました!
次回から、しっかりと主人公の物語がスタートします。
ちゃんと名前も出るので、気になってくれた方は、また覗いてくださるととても嬉しいです。
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