迷宮逆攻略
ボスラッシュを終えた私は、ダンジョンの中を進む。出口を目指して。
道中魔物が襲ってくるけど、軽く処理できる。魔法を使う必要もない。ちょうどいいので、魔術の練習台にしてる。ボスラッシュを経験した私には、素材がよってきてるぐらいにしか感じないからね。これが肉食動物なら、食料の調達にもなっただろうけど。いや、そんなに食べれないか。
ちなみに、倒した魔物は全部亜空間に放り込んでいる。いちいち解体なんてしてられないよ。亜空間に入れておけば、腐る心配もない。必要なときに必要なだけ出せばいいから、無駄がないしね。
それから、魔物の討伐だけじゃなく、植物や鉱物の採取も行っている。鉱物は、めぼしいものを根こそぎ取りつくししてるけど、植物は10分の1程度残すようにしている。取りつくしたら、もう生えてこないかもしれないからね。
それにしても、ほんとにダンジョンというのは、宝の山だね。本に載ってた希少素材がたくさんあるよ。
その一つに、魔化金属というものがある。魔素濃度が高い場所にある金属が、長い年月の末に変質したもの、それが魔化金属。ここら近辺には、そんな魔化金属を大量に含んだ魔鉱石がゴロゴロしている。そのほとんどは、魔化金属の中では比較的流通量の多い、魔鉄を含んだ魔鉄鉱石だろう。
魔鉄は、とても優秀な金属だ。加工しにくいのが多少難点ではあるものの、鉄と変わらない重量で、その何倍も頑丈という性質を持つ。
魔素と極めて高い親和性を誇り、魔術や魔法の触媒としても優秀。
魔化金属の中では、比較的多く流通しているとはいえ、魔鉄は貴重な鉱物素材だ。
もちろん採れるだけ採っておく。
植物素材の方も、かなりの収穫があった。
生命力の強い雑草が、濃い魔素を長くあびることで突然変異した魔草。それが大量に生えていた。
その種類は様々。突然変異して見ためが変わったため、もとの種はわからない。けれど、その性質を調べることで、どのような変異を遂げたのかを推測することができる。
毒を探知する魔術でれば、強い毒性を持つ毒草がみつかった。おそらくもともとは、そこまで強い毒を持つわけではなかったのだろう。しかし変異の過程で、そういう性質を得たと考えられる。
それから葉を破くと、ゆっくりとだけど再生する草がある。これも変異の果てに、強い再生能力を得るに至ったのだろう。
こういう魔草は、傷口に当てるだけでも修復力を高めてくれる。しかし錬金術を用いれば、骨折すら数秒で治す、強力な回復薬へと昇華させることができる。
まあ私には必要ないというか、効果がないのだけれど。
他にも、色んな魔草があった。頑丈な魔草。乾燥に強い魔草。毒草の毒にも、色々な種類があった。
ついつい色々検証しちゃったよ。それじゃあ、そろそろ進もうかな。
洞窟を探索すること、1ヶ月。
私は未だに、ダンジョンの中にいる。別に、魔物に苦戦しているというわけではない。
はっきり言って、雑魚ばかりだから。二日目からは魔術も使わず、素手や足で対処している。あ、たまに仕込み刃も使うね。
これはまあ、訓練だ。魔法や魔術だけに頼っていたら、いつか足元を掬われそうだから。そのため私は、最も得意な武器である、魔法と魔術を使わずに戦う練習をしてるわけだ。魔法も魔術も使えない私なんて、精精ボスラッシュ後半のボスと同じくらいの強さしかない。それでも、どの魔物も私に傷一つつけられない。まあ当たり前か。竜の骨に傷をつけることが可能な魔物が、そうそういてたまるかという話だ。
じゃあ迷ったのか?と聞かれれば、答えは否!
完全記憶を持つ私が、迷うなどありえない。それに時空魔法を使えば、広範囲の空間をかなりの精度で認識できる。最深部や、ボス部屋なんかは、一種の隔離空間だったから、扉一枚隔てただけで精度がかなり落ちて、三枚でほぼ完全に遮断されていた。けどここは、核からも離れているしそこまでじゃない。多少は妨害されるけど、それでも半径七キロは認識できている。
そして空間を認識できているということは、そこに空間転移が可能だということ。壁なんてあってないようなものだね。
さらに言えばこのダンジョン、端から端まで一キロもない。つまり、いつでも脱出が可能。
そんな私が、なんで一月もダンジョンから出ていないのか?
理由の一つに、鉱物や植物の採取採掘がある。次いつ手に入るかわからない。そのため、採れるだけ採っておこうと、ダンジョンの全てを回った。時間はかかったけど、大量の素材が手にはいった。
それから、知的好奇心が刺激されたから、というのもある。本で読むのと、実際に見るのではやっぱり違う。そこで色々検証をしたくなってしまった。
魔鉄がどこまで頑丈なのか。草はどんな形や性質をしているのか。魔草で作った毒や薬の効力は、どの程度のものなのか。魔物はどんな生態をしているのか。
脅威となるものが何もないのをいいことに、それらを調べることに夢中になってしまった。
その過程で、毒や薬を量産した。これまで錬金術で、魔草を扱ったことがなかったせいかもしれない。より効力を上げようとしたり、混ぜ合わせて違う効果を発揮させようとしたり、かなり凝ってしまった。まあ、いい練習になったよ。
あ、そうそう。魔鉱石からとれた魔化金属で、私の体をまた改造した。
魔鉱石からとれた魔化金属は、予想通りそのほとんどが魔鉄だった。しかし極少量ながら、他の金属も含まれていた。その一つが、金だ。まあ塊にしても、片手におさまるくらいの量しかないけど。けど、体全部を金にするならともかく、今回は合金にする予定だ。今手元にある量でも、十文足りる。
まず、魔鉄に炭素を適量混ぜて魔鋼にする。魔鋼というのは、魔鉄より硬く粘り強い。ちょうど鉄と鋼の関係と同じだね。
できた魔鋼と、少量の金を合成。すると、少量しか金を使っていないにも関わらず、黄金に輝く金属が完成。
これは、『金輝鋼』。魔鉄にある一定の割合で炭素を混ぜて作った魔鋼に、金を一定の割合で合成することで作ることができる。金輝鋼は、鉄より軽いのに魔鋼より遥かに頑丈という、とんでもないものなのだ。
これだけじゃない。次に、銀と亜鉛、さらに白竜の魔石と骨、そして私の体の欠片を合成。ちなみに魔石というのは、魔物の体内にできる石のようなもの。魔力の塊みたいなもので、色んな使い道がある。今回は、錬金術の素材にした。それで、できた物質はなんと、透明だった。これの名前は『金合銀』という。
金合銀は本来、銀と亜鉛と魔石を合成するだけで作ることができる。じゃあなぜ、白竜の骨と私の欠片も合成したのか?
それは金合銀が持つ、ある特殊な性質のため。その性質とは、金輝鋼の合成だ。
金輝鋼は、軽くて丈夫なとても優秀な金属だけど、錬金術の合成や融合を受け付けないという欠点がある。さらに、何か別の金属と混ぜて合金にしたとしても、その金属を拒絶して、逆に強度が下がることになる。溶接なんてもちろん不可能。だから基本的に、純粋な金輝鋼の状態でしか使えない。
しかし、全く方々が無いわけじゃない。それが金合銀を使う方法。金合銀は、唯一金輝鋼と混ぜることができる物質。そして、合成過程で入れた本来必要の無い物質と金輝鋼を合成してくれる、素晴らしい物質なのだ!
ということで、金輝鋼と融合させた金合銀を、体の内側に融合させてはる。少し分厚いメッキみたいだね。ちなみにこれで、すぐに合成が終わるわけじゃない。長い年月をかけて、ゆっくりと合成していく。満遍なく融合させたり表にはらなかったのは、そのため。金合銀自体はそんなに頑丈じゃないし、合成途中のところは脆くなるからね。何年も待つのはともかく、その間紙装甲になるのは嫌だ。
それから、目や髪なんかにも、専用の金合銀をつけていく。もちろん目えないところにね?
そういやぁ、完全に合成し終わるまでどれくらいかかるのかな?合成した素材によって、かなり変わるらしいからなぁ。
少しでも早く終わるように、素材と相性のいい白竜と白アラクネの魔石使ったけど、どうなんだろう?。
まあ、気長に待てばいいか。300年も生きてるんだし、いまさら数十年くらいすぐでしょ。