強敵とボスラッシュ
次の部屋に繋がる扉を、これまた裂空破斬でぶっ壊してくぐる。
そしたら、まあ白かった。
本来は白竜の空間みたいな、だだっ広いだけのシンプルな空間なんだろうけど、ここの主によってかなりリフォームされてる。
そこは、巨大な蜘蛛の巣だった。しかも、大多数の人が蜘蛛の巣と聞いてイメージする、網のようなあれじゃない。太さや粘性が様々な糸が縦横無尽に張り巡らされている。
例えるなら、ジャングルジムが近いかな。
そしてこの巣の主は…いた。
その蜘蛛は、予想に反して小さかった。まあそれでも人間の大人ぐらいはあるんだけどね。あの白竜を見た後だと、小さく感じる。
それからその蜘蛛は、ただの蜘蛛じゃなかった。いやまあ、こんなところでボスやってる上に人ぐらいの大きさしてるわけだから、ただの蜘蛛なわけ無いんだけど。そうじゃなくて、その姿。蜘蛛の頭の部分から、人の上半身のようなものがはえている。俗に言う、アラクネだ。
そのアラクネは、この巣を形成している糸のように真っ白だった。そして、隠れて私の隙を伺っている。でも残念。私の目は特別製。魔力もうまく隠してるけど、熱までは隠せてない。
そこに向かって裂空破斬!
はい終わ…て、うおっ!避けた!
ほんと白竜といい白アラクネといい、どういう察知能力と反応速度してんの。ちょっとぐらい一発で決めさせてくれてもいいと思うんだ。裂空破斬、一応必殺技よ?
その白アラクネは今、私を中心に円を描くように移動してる。時たま糸がとんでくるけど、それは小規模の裂空破斬で細切れにした後、風の魔術で散らしてる。
さてどうしようかなぁ。裂空破斬を放っても避けられちゃうだろうし。と思ってたら、いきなりこっちに向かってきた。
チャンス!と思って裂空破斬を撃つと、今度は掻き消された!て、このアラクネ闇属性持ちだ!闇魔法には、空間に作用するものや、魔法の効果を打ち消すものがある。感覚的に、空間に作用する方だと思う。それより問題は、下半身の蜘蛛が前足を振りかぶって、その鋭い爪で私を切り裂こうとしていること。しかも空間に作用する闇魔法を纏わした状態で。やばい!と思って重力ではじき返したら…
──スパッ──
──ゴトッ──
私の首が落ちた。
え、嘘…って思ったね。
何がおきたかというと、そもそも蜘蛛の前足での攻撃はブラフだった。そして本命が、後ろから迫る超極細の糸での首チョンパだったってわけ。
でも、いくら超極細で切断力抜群の糸でも、白竜の骨で強化した私の首は、そうそう切れるものじゃない。じゃあなんで切れたのかというと、その糸の片端を、アラクネの上半身の方が手で持ってたんだ。それを私が、蜘蛛の攻撃を防ぐんじゃなくて、重力でぶっ飛ばしちゃったのがいけなかった。大型トラックが、ビルの10階ぐらいから落ちたような力が、私の首にかかった切れ味抜群の超極細の糸に集中。そのままスパッといったわけ。
…不幸な事故だったよ。
ちなみにそのふっとんだ白アラクネは、ふっとんだ先でのびてるうちに、裂空破斬で首を落とした。…借りは返したぜ(キリッ)。
にしても強かった。まさか強化してそうそうに、首を落とされることになるとは思わなかったよ。
単純な戦闘能力なら、たぶん白竜の方が高いと思う。けど、私にとって厄介なのは、間違いなく白アラクネの方だ。
まず、空間に作用する闇魔法。おそらく近距離限定とはいえ、空間に干渉できなきゃ防げない魔法が使えるのは強い。それに私の得意技である裂空破斬を、避けれる上に防げるわけだ。勘弁してほしい。そして、頑丈な竜の骨を合成した私の体を、断ち切る程切れ味抜群の糸。さらにそれらを巧妙に使う頭。
はっきり言って、厄介極まりない。
唯一弱点をあげるとすれば、力が弱くて紙装甲だってことかな?
それだけ聞くと、すごく弱く聞こえるね。
さて、これだけの強敵。倒したんだから、それなりの見返りがほしいものだね。まあ、この白アラクネの蜘蛛の糸は、かなり優秀な素材だろうし、それだけでも倒したかいはあったかな。
それでも剥ぎ取りはするけどね。
調べてみると、ほとんどの素材が白竜に劣ることがわかった。まあそりゃそうだ。けれど、白竜に並ぶ収穫もあった。その一つは、もちろん糸。しかしそれ以上に、糸になる前の粘液が手にはいったことがうれしい。下半身の蜘蛛の腹を調べると、糸のもととなる粘液が、たくさんつまった袋を見つけた。この粘液を加工すれば、様々な上質な糸が作れる。
というわけで、さっそく体の改造を始めよう。
今回は髪などの体毛、それからもちろん服の改造だよ。
まずは髪から。粘液を合成していく。続けて眉、最後に睫毛も同じようにして完成。
次は服。こっちも糸を合成して…完成。
鏡の魔術で見てみる。髪に艶が増し、より白く綺麗になった。眉や睫毛も同様。
服はなんというか、高級感が追加された。とても柔らかく、輝いてみえる。
とてもいい出来映えになって良かったよ。
それにしても今回は、色んな意味で得るものがあったなぁ。
私はどこか、戦いというものをなめてる節があった。戦いは、必ずしも強い方が勝つとは限らない。格上相手でも、駆け引き次第でいくらでも勝ちを拾えるんだとわかった。それを教えてくれたあの白アラクネには、感謝しないとね。
さて、それじゃあこの空間の糸とか諸々を回収したら、次に行こうか。
次の扉の先にも、ボスっぽい魔物の反応がある。これはしばらく、ボスラッシュが続くかんじかな?
でも、私に負けるつもりは毛頭ない。
私はもう、油断するつもりはないよ!
これからは、相手が格上のつもりで挑もう。常に最悪を考えて、何が来ても対処できるようにする。
きっと私には、それができるはず。
それじゃあ行こう。
そして私は、毎度の如く次の扉を抉じ開け、次のボス部屋に足を踏み入れる。
そこにいたのは、人間一人余裕で丸呑みにできるだろう大きな蛇。その大蛇が、部屋の中央で塒を巻いている。
相手を確認したところで、ここは安定の開幕ブッパ!
裂空破斬!
さあ、この大蛇はどうでる!?
ズバッ!
「・・・」
大蛇は、裂空破斬をまともに受けて切り裂かれた。塒を巻いていたため、ぶつ切りにしたような感じになった。
…なんとも呆気ない。
呆気なさすぎて、本当に勝ったのか疑った程だ。
どこかに隠れてることを疑って、部屋中探し回ったり。幻術の類にかかったことを疑って、解呪の魔術なんかを使ったりと、まあ色々やったよ。
結局、どれも徒労に終わったんだけどね。
あんなに覚悟を決めたような感じで入ってきたのに、苦戦どころか一瞬で終わっちゃったよ。
いや、まあいいんだけどね?
楽に勝てるなら、それに越したことはないわけだし。
ただなんとなく釈然としないだけでね。
まあ、気を取り直して、次に行こう。次は強敵かもしれないからね!
しかし、私の期待に反して、その後白竜や白アラクネのような強敵は表れなかった。
そして、七体目のボスを倒したところで、ボスラッシュは終わりを迎えた。
はっきり言って苦戦らしい苦戦どころか、傷一つ負ってない。最後の二体なんて、魔法使わずに魔術で倒したからね。それでも楽勝なのにはかわりなかったけど。
でもその難易度に反して、手にはいった素材は優秀なものばかり。さすがに白竜や、白アラクネの糸以上のものはないけれど、勝るとも劣らない素材がほとんど。
ほんと、ボロ儲けだったよ…。
いやいいんだよ?いいんだけどさ?
もうちょっとこう、達成感がほしかったというかなんという
か…。
反省を生かしたかったというか…
はい、贅沢言ってすみません!
楽に安全に稼げたのに文句を言ったらバチがあたる!
反省なんて、これからいくらでも生かせられるだろうからね。