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生水だめ絶対

 ひととおり見て気づいたことがある。

 そう、食料がない!そのうえ、外に出る手段もないから、てにいれることもできない。水があるから、一週間ぐらいは、なんとか大丈夫だと思う。けれど、一月もすれば餓死しちゃう。

 前の家主は、いったいどうやって暮らしてたんだろう。

 そこまで考えて、気づいた。あの最後に見た部屋って、元は農園だったんじゃない?床が土なのは、野菜なんかを植えて、育てるためだったのだとしたら?

 天井が岩なのも、元は日光を取り入れるために天井なんて無かったんじゃない?それが、長い年月のうちに埋まってしまったのだとしたら?

 あの広間の扉が開かないのも、埋まってるからだとしたら?


 考えれば考えるほど、それは当たっているような気がしてくる。あの骨だって、すごい年月が経ってる気がした。人間の死体は、土に埋めれば3年で骨になるらしい。でも、あそこはベットの上だ。肉を分解してくれるバクテリアなんて、ほとんどいないはず。つまり、空気中のバクテリアや酸化、後は風化に経年劣化もかな?とにかく、あそこまで綺麗な白骨死体になるまでに、途方もない年月が経ってるはずだ。具体的な年数はわからないけどね。

 背筋を、何か冷たい物が駆け巡るような感じがした。

 もし、もしだ。私の予想が当たっているなら、私は、とんでもないところに来てしまったことになる。

 食料がなく、人も来ない地中深く。そんなところに、異世界転移なんて非常識な現象で来てしまったのだとしたら?それはもう、詰み以外の、なにものでもないだろう。






「だぁー!悩んでいても仕方ない!とにかく行動あるのみ!」


 そうだよ!そんなの考えたって仕方ない。そもそも、まだ完全にそうと決まったわけでもない。むしろわかんないしことだらけだ。食料だって、探せばあるかもしれない。少なくとも水はあるわけだし、今日明日すぐにでも死ぬわけじゃない。お腹はすごいすくだろうけどね!。タイムリミットは、30日。もしくはもっと短い。とにかくそれまでに、食料を見つけるか、外に出る手段を見つける。誰がこのまま黙って死んでやるもんですか!

 そうと決まればとにかく探索!まずは書庫に行こう。




「…読めない。」

 そう、字が読めない。書庫に来たはいいものの、肝心の本の内容がわからない。どれも、私の知らない字が使われてる。少なくとも、私は全く見たことない。もちろん日本語じゃあないし、英語や中国語でもない。

 しかもよく見ると、全ての本が同じ字で書かれているわけじゃないみたい。私が見た感じだと、三種類の文字が使われてる。

 まずは、アラビア文字みたいなグネグネした文字。次にヒエログリフのような、何かを象ったであろう文字。象形文字って言うんだっけ?。それから点と直線だけで構成された、不思議な文字。楔形文字が近いかな?


 もしこれがドッキリだったなら、用意した人は大変だっただろうなぁ。まあその前に、この宙に浮かんでる光球を、現代科学で作れるのかという問題があるけどね。これ、触ろうとしてもすり抜けちゃうんだよ。熱くもないしね。

 とにかく、書庫での情報収集は失敗。はあぁ、時間を無駄にしたなぁ。いやいや、ネガティブになっちゃだめ!そう、ここは少しでもポジティブに考えるんだ!異世界転移した可能性が上がったと考えれば!…だめじゃん。えっと、そうだ、文字が読めないことがわかった。うんそれでいいじゃん。

 切り替えていこう!


 と、ここで喉がだいぶ渇いてきたので、水を飲むことにする。少し暑くなってきて、汗もかいてるしね。というわけで、例の広間の祭壇にやってきた。水路でも良かったけど、湧き立ての方がなんとなく良く思えて。あと、水路の横によつん這いになって飲むのが、嫌だったというのもある。

 なんとなく手を合わせて、礼拝してみる。なんかそうしないと、バチがあたりそうで…。ほんとに祭壇かどうかもわかんないんだけどね!まあ、いいでしょう!飲もう!

 手で水を掬…えない。人形の手だと、どうしても隙間ができて掬えない。仕方ない、直接口をつけるか。

 棚田みたいな構造で、そこを水が流れてる。その、貯まってる内の一つに、口をつける。美味しい。なにこの水、すごい美味しいよ!それともそれだけ、私の喉が渇いていたんだろうか。


 その後、喉を潤した私は、各部屋を探索したけど、食べ物は見つからなかった。

 時計がないから時間がわからないけど、眠くなってきたところで、今日の探索は修了することにした。それでどこで寝ようかと考えて、私と一緒に連れてこられた、あの椅子で寝ることにした。ここにある唯一の寝具であるベットは、骸骨がいるし、床で寝たくはない。消去法でこれしかなかった。これまでも、あの椅子に座ったまま昼寝とかしてたし、たぶん大丈夫でしょう。

 ほんとは、この人形を脱ぎたかったんだけど、背中と腰のネジは、専用の機械がないとはずせない。ネジをはずせないと、胴体がはずせなくて、その胴体が四肢と頭のパーツをおさえてる。つまり、ネジをはずせないと、この人形は全く脱げないのだ。

 汗もかいてて、ラバースーツが気持ち悪いけど、仕方ない。あと、排泄も専用の器具で、股のところにある蓋を開けないとできない。でも幸い、便意も尿意も感じない。汗をかいたおかげかな?


 今日はほんとに衝撃的なことがあった。まあ、なんとか明日からも頑張ろう。









 次の日、私の目覚めは最悪だった。

 まず、頭が痛い。ガンガンする。そして暑い。というか熱っぽい。なんか、39度の熱が出たときの感じに似てる。何より、お腹が痛い。生理はまだ先のはず。なんで?

 寝起きな上に、痛くて働かない頭で必死に考える。そして、食あたりという言葉が浮かぶ。でも、変なものを食べた記憶は…いやまてよ。まさか、昨日飲んだ水!?ああ!そうだよ、あの水が安全だなんて保証はなかったんだ。むしろ危険な可能性の方が高いじゃんか!

 煮沸消毒もしてないのに、そのまま飲んじゃったよ。

 後悔しても、お腹の痛みはどうにもならない。今はとにかく、休もう。風邪をひいてるかもしれなしい、横になった方がいいかも。でも、どこに?どこかいいところはないか、探すために立ち上がろうとして、ふらつく。床にへたりこんでしまった。

 そのまま、床に仰向けに寝ころぶ。もう、ここでいいや。立ち上がる力も、考える元気もない。私はまた、眠ってしまった。


 次に起きたとき、腹痛はだいぶおさまったけど、頭痛と熱っぽさはおさまるどころか、ひどくなっている気がした。後、おなかがすいた。でも、相変わらず立ち上がれそうにない。

 ああ私、このまま死ぬのかなぁなんて思ってしまった。そしてまた、眠りにつく。


 そんなことが何度か続いた。どれくらい時間が経ったのかは、わからない。ほんの数十分かもしれないし、数時間かもしれない。もしかすると、一日中そうしていたのかも。

 あるとき、物音で目が覚めた。目を開けると、驚いた。あのデッサン人形がすぐ近くにいたから。最初に見たときと同じように、箒で掃き掃除してる。


「食べ物…」


 気づくと私は、ひどくかすれた声で、デッサン人形に食べ物を求めてた。ほとんど無意識だったよ。それぐらい、お腹がすいてたんだ。でも、デッサン人形は相変わらず、何の反応も示さない。

 わかってたことだけど、落胆は大きい。とにかく、お腹がすきすぎてる。喉もかわいてる。そのせいで、さっきもあんなかすれた声になっちゃったしね。

 ああ、頭が痛い。体が熱い。お腹がすいた。喉が渇いた。そんなことを思っても、どうにもならない。立つことも儘ならない。

 誰か、助けて。なんでもいいから、食べ物がほしい。水をのみたい。人形の中から、渇望する。


 そんなことを考えていると、ふとあるものが目に入った。それは、豪華な台座の上に置かれた、不気味に光る卵形の石。

 それを見て、私はどういうわけか、美味しそうなんて思ってしまった。

 そして私は、どうにかしてそれを食べたいと思った。仰向けから、寝返りをうってうつ伏せになる。そして、よつん這いでその石に近づいて、左手をのばす。石を掴んだところで、力が抜けて、床に倒れこんでしまった。でも、石は手に持ってる。口に運ぼうとして…

 ──コツン──

 人形の口に当たった。


「ぁ」


 絶望のどん底に落とされたような声が出た。そうだった。私は人形の中で、その人形の口はあくまで呼吸用。物を食べるようには作ってない。

 人形みたいになりたいなんて思ったのが、間違いだったのかな。そんなことを思ってしまう。人形に入ったりしなければ、これを食べられたのに。そもそももしかすると、人形に入らなければ、こんなところにこなかったかもしれない。

 …いや、違う。私が人間だからだめなんだ。人形なら、飢えない。渇かない。死なない。私が、人形だったなら。

 そんなことをこのときの私は、本気で思っていた。

 そして、手の中の石をみて、人形の手が目に入る。綺麗な手。

 そしてちょうどそのとき、あのデッサン人形が、その近くを通った。それを見て私は、あんな風に自由に動ける人形になりたいと思った。そして、デッサン人形に嫉妬して、こんなところで死にそうになってる自分が惨めになった。悔しくて悔しくて、八つ当たりで、左手に持った石を、床に叩きつけた。


 ───カッ───


 その瞬間、石は砕け、眩い光を放つ。私は強烈な光に包まれながら、意識を失った。


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