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大森林

 ダンジョンを進む。今度こそ、出口を目指して。

 いやあ、さすがにそろそろ出ようと思ってね。十文調査もできたし。やっぱり錬金術を極めるためには、自分で実際に調べることが大事だね。本に書いてた通りだよ。


 襲ってくる魔物は、手首から出した短剣で斬り殺す。あ、そうそう。この手首に仕込んでる短剣もリニューアルした。純魔鋼製だよ!今は、魔物の処理ついでにならしてる。超音波振動使わなくても、ちゃんと斬れるようになったよ!今までは、魔法か魔術で補助しないとすぐに折れてたからね。出口付近はともかく、奥の方だと全く切れなかったよ。使うたんびに刃こぼれしたり、刃がつぶれたりするんだもん。もう打撃攻撃だよ。まあすぐに魔法で直せるから、よかったけど。

 でももうそんな、剣で斬ったのにバットで撲ったみたいになるという、なんかこれじゃない感がすごいことにはならない!

 ククク、今宵の魔鋼剣は血に飢えておるわ!

 あ、ちなみに返り血は、浴びたそばから不朽魔法で除去してます。この魔法、浄化みたいなこともできるからすごく便利。どんなしつこい汚れも綺麗に落ちるから、服が汚れることもそんなに気にしなくていい。


 にしても、私の近接戦闘もなかなか様になってきたんじゃない?フィジカルのゴリ押しだけど。まあそれは仕方ない。格闘技なんて習ったことないしね。自己流ならこんなもんでしょ。


 あ、出口だ。

 ずっとどこにあるかは把握してたけど、出るのはこれが初めて。外の様子だって、魔法ごしに認識してたけど、直接見てはいなかった。

 だからかな?すごく感動した。

 そこに広がっていたのは、どこまでも続く広大な森。この出口は、そこそこ高い山の中腹あたりにあるから、森の様子がよく見える。そこには、様々な生き物の営みが見てとれる。この大自然の雄大さは、筆舌に尽くしがたい。引きこもってたこの六百年はもちろん、前世でもこんな景色は見たことない。


 世界にはこんなにも、綺麗なものがあるんだ。

 そして私は、世界に飛び込むように、大きな一歩を踏み出した。








 はしゃぎすぎた。

 木々の間を、全力で走り回った。思いっきり跳んだり跳ねたり。忍者みたいに、木から木へと跳び移ったり。久しぶりの外に、気持ちが昂っちゃったよ。

 落ち着いてきたところを襲ってきた、魔物の頭をサマーソルトキックで粉砕。ふっ、他愛ない。…ダメだ、まだ収まってない。


 今度こそ落ち着いた。さて、これからどうしようか。どうやらこの森、すごく広いみたい。私の空間魔法の感知は、ダンジョンから出た今、半径9キロを精確に感知している。集中すればその倍はいける。

 そしてこの森は、少なくともそれぐらいの広さはある。私の感知範囲に、文明らしきものは見あたらない。

 まあ、人間と会ったとして、それでどうするという話ではあるけれど。私を、人間と同じように見てくれる人は、少ないだろうからね。

 まあ、この森の調査をする感じでいいか。ダンジョンにはない発見があるだろうしね。気がすむまで調べつくそう。

 さあ!未知が私を待っている!








 十年経った。

 私はいまだに、森の中にいる。この十年間で、この森のこともだいぶわかってきた。まずこの森。めっちゃ広い。なんせアマゾンと同じくらい広いからね。

 もう調べがいがあるのなんの!本でも見たことない動植物がたくさん!スカイフイッシュやツチノコ、走る茸に帯電アロエなどなど!あ、もちろん名称は、見ためや性質から私が勝手につけた名前です。分かりやすいでしょ?

 洞窟では見なかった、植物系魔物もたくさんいた。動く木、トレントもたくさん生えてる。あ、走る茸と帯電アロエは魔物じゃないよ?あれはそういう植物なんだ。

 魔物と動植物の違いが何かと言われると、実はけっこう曖昧なんだよね。まあ強いていうなら、強さかな。それも一概には言えないんだけどね。


 生態系の調査もしてみたけど、なかなか面白かった。

 普通なら生産者と呼ばれ、動物に搾取されるだけのはずの植物達が、動物と対等にわたりあっているのがすごい。まあそんなのは、トレントみたいな一部の魔物ぐらいだけどね。ほとんどの植物は、走る茸みたいに逃げたり、帯電アロエみたいに武装したりして、簡単には捕食されないようにするのが精精。…精精とは?


 それから、動物もなかなか面白かった。どの種も、独自の方法で生き抜いている。

 人より大きな蜘蛛は、森の一画に群れで大きな巣を作っている。

 透明な蛇は、音や熱までも消して獲物に襲いかかる。

 空を舞う鳥は、急加速で天敵から逃れたり獲物を仕留めたりする。

 まさに弱肉強食。

 そして何より、この森の生態系の頂点。なんと三体もいる。いや、しかいないって言った方がいいのかな?地球ならありえないからね。

 でもまあこの世界なら、一騎当千の化け物とか珍しくないみたいだし。むしろ自然なんだろうね。


 とにかく、たった一体で他の生き物を蹂躙できる化け物が、この森には三体もいるわけ。

 簡単に説明すると、でかい狼と、でかい蜥蜴と、でかい猪だね。

 とにかくどいつもでかくて堅くて力強い。

 どれくらい強いかというと、魔法を封印した私と引き分ける(タメをはる)ぐらい。時空魔法使えば一撃なんだろうけどね。白アラクネや白竜程は、強くなくてよかった。


 そうそう、あの洞窟以外にも、ダンジョンを見つけた。それも二つも!もちろん調査したとも。ついでに攻略したね。

 でも、あんまり目新しい発見はなかったかな?片方はあの洞窟とそう変わらない環境だったし、もう一方も、踏んだ瞬間水を吸収してくる苔ぐらいかな?あのダンジョン、めっちゃ乾燥してたもんね。動物系の魔物は一体もいなくて、ゴーレムや乾燥に強い植物系魔物しかいなかった。

 そうそう、ゴーレムは、野生にもいる。ダンジョンみたいに、魔素の濃い場所には自然に発生することもあるらしい。

 というかむしろ、魔法生物のゴーレムは、魔物のゴーレムを土魔法で模倣したのが始まりらしいけど。

 それからこの森、海岸線に接してた。崖だったけど。川を辿ってたら見つけた。

 海洋生物の調査もしたよ。森と同じかそれ以上の未知があった。


 で、そんな大自然の恵みから、どんなものが作れるのか、日夜研究していたおかげで、私の錬金術も一つ上に登れた気がする。

 毒や薬の在庫もまた一段と増えたよ。


 なかなか充実した十年間だった。


 今日も今日とて森の探索。十年もこの森にいるけど、未だに未知の発見は絶えない。日夜驚きの連続だよ。透明な蛇が、音も熱も消して襲いかかって来たけど、常時発動してる空間認識魔法で感知。引き抜いた剣で切り裂いて終わり。死骸は亜空間へ収納。

 今のは、ちょくちょく見る魔物だね。特に海の反対側、内陸側でよく見かけるかな。潮風が苦手なのかもしれない。

 今は、森の内陸側の浅いところを探索してるから、まあいるだろうね。

 ちなみに今使った剣は、手首の仕込み刃じゃない。

 もう少しちゃんとした、手に持つ用の剣。新しく作ったんだ。

 刃渡り90センチぐらいの、いわゆるロングソードってやつかな。よく知らないんだけどね。魔鋼と鋼を、1:4ぐらいで混ぜてるからかなり頑丈。超振動の術式も刻んでるから、たいていのものは斬れる。私みたいな素人には、もったいない剣だよ。まあ使うけどね。


 森の境界には、大きな山脈が二つある。

 (イコール)を横にずらしたような形にならんでいて、内陸側と森をほぼ分け隔てている。

 山脈のむこう側にも、森は広がっているけど、こっちの森とはだいぶ様子が違う。簡単に言うと、平凡。摩訶不思議な植物もない。吠え声で、大木を木端微塵にする熊もいない。魔物もいるにはいるけど、弱い。

 広さもそんなにじゃない。山脈の麓から、反対側の切れ目まで、20キロぐらいしかない。まあ、山脈に沿うように広がってて、横に長いから、かなりひろいんだけどね。こっちの森に比べるとどうしてもね。それに、今の私の空間感知が、最大40キロまでいけるようになったから、森の中から近くの村の様子まで把握できる。それで余計に小さく感じるのかも。

 そうそう村があったんだよ。しかもちゃんと人間の。

 けど、だからどうしたってかんじだけどね。言葉も通じないだろうし、そもそも種族が違う。それにまずありえないけど、もし万が一言葉が通じて受け入れられたとして、なんか私にいいことあるか?ということ。特に無くない?

 あの村の人達、かなり質素な暮らしをしてるようだし、まともな魔術を使える人がいるようにも見えない。つまり交流しても得るものがあるとは思えない。むしろ面倒なことの方が多そう。

 そう考えると、特に興味がなくなった。もともと私は、一人で黙々と人形作ってたような人間だからね。作品を誉められるのは好きだったけど。精々そのぐらい。人との交流は苦手なんだよ。

 というわけで、放置してる。むこう側の森に、特に興味をそそるものが無いのもある。わざわざ山脈を越えたり、迂回して行こうとも思えないしね。

 だから今まで、特に触れて来なかったんだけど、今日はなんとなく、行ってみようと思った。この森を調査し始めて、ちょうど10年だったからなのかもしれない。そのときいた場所がたまたま、二つの山脈の間という、二つの森の行来がしやすい場所の近くだったのもよかった。

 ただなんとなく、私はこのとき、見に行こうと思った。


 この行動が、後の私の運命を大きく変えることになるとは、このときの私には、知るよしもない。












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