プロローグ
あけまして、おめでとうございます。
今年も、よろしくお願いいたします。
ということで、新作を発表しました!
色々新作の案があったんですけど、これにしました。
よかったら、読んでみてください。
十日程、毎日更新しますが、その後は月に一度書くかどうかになると思います。
今年から、受験生になるんで。その辺は、ご容赦ください。
「ふう。ようやくできたよ~。」
私は田村亜子。ただのしがない人形作家だよ。
とある街の、大通りから外れた横道の、少し奥まった処に、ひっそりとお店を構えてる。
普段は、インターネットで注文を受注して、配送することがほとんど。でも、たまに直接来てくれるお客さんもいるんだ。この界隈で私は、まあそこそこ有名だ。知る人ぞ知るってやつ?
小さなころから人形が好きで、よく人形で遊んでいた私は、自分で理想の人形を生みだしてみたくて、この職業を目指した。美大で、彫刻や粘土細工なんかを学んだ後、とある人形作家に弟子入り。3年程修行して、ようやく自分の店を持つことができた。
この仕事を初めてから、もう15年以上経つ。私も立派なアラフォーだね。最初はなかなか売れなくて、材料費の捻出にも苦労したなぁ。師匠が自分の店にも、私の作品を置いてくれたから、わりと早く自分の客を持てるようになって、ほんとに師匠には、頭が上がらないよ。
ちなみに、私はビスクドールや球体関節人形などの、洋人形を主に扱っている。
アニメキャラのフィギュアや、雛人形なんかは、依頼があれば作る感じ。他には、簡単な絡繰り人形なんかも作るよ。さすがに凝ったのは無理だけど、腕や首を振るぐらいのは作れる。後、簡単なギミックを仕込んだりもできる。
そんな私が、だいぶ前から趣味で制作していた人形が、今完成した。外見は、普通の球体関節人形。違うのは、その構造。なんとこの人形、私が着れるようになっているのだ!
はっきり言って、私は美人じゃない。ブスではない…とは思うにけどね。そんな私は、ある日思ったんだ。人形みたいに可愛くなりたい、ってね。
そこで作ったのが、この人形。きれいな白髪に、パッチリとした大きな碧眼。通った鼻筋。小ぶりな可愛い口。白磁の肌に、黄金比の体。少女から大人へと変わる、その瞬間を抜き取ったような容姿。まさしく美少女だ。我ながら、いいできだと思うよ。身長は、約161センチと、私より約3センチ上。
さて、さっそくだけど着てみよう。この子を着るために、毎朝ランニングして、体を引き締めたんだ。入ってもらわないとこまる。…入るよね?
さっそく着よう、と思ったけど、その前に風呂に入る。できるだけ人形は汚したくない。トイレにも、とりあえずいっておく。こんなものかな。
それじゃあまずは、ラバースーツで全身を被う。あ、でも口や鼻、目のところは出るようになってるし、耳のとこは細かな穴がいくつかあいてる。これで私の体を、より細くするとともに、皮膚や髪を挟まないようにする。人形が、私の汗なんかで汚れるのも防げるしね。
準備が整ったところで、人形のパーツを、四肢の先の方から順に着けていって、次に頭を着けたら、人形の髪をいったん、邪魔にならないように布でまとめて、そして胴体を着ける。最後に、専用に作った機械を使って、背中にあるネジを止めて、髪を下ろす。良かった、ピッタリだよ。
ガラスの目は、多少青みがかってはいるけど、ちゃんと見える。
壁に立てかけてある、大きめの鏡を見てみると、そこには、美少女な球体関節人形が、全裸で立っていた。その裸体は、女性的な曲線を描き、白磁の肌と相まって、とても美しい。
手を振ってみる。鏡の中の美少女人形も手を振る。次に歩いてみる。鏡の中の美少女人形も歩く。…可愛い。と、それはおいといて、うん、激しい動きをしない限りは、大丈夫そう。
呼吸も、普段よりは息苦しいけど、それはラバースーツの、締めつけのせいだね。人形の口は、少し開けてるから、問題ない。
それじゃあ、ひととおりチェックが終わったところで、ドレスを着よう。私が手に取ったのは、全体的にピンクと白で、フリフリのたくさんついた、ロリータ服。系統は、甘ロリかな?ちなみに、これも自作。ロリータ服作りの腕なら、本職の方にもひけをとらないと自負している。
まあそんなことはおいといて、田村亜子には、絶対似合わないであろうこの服も、美少女人形には、とてつもなく似合う。
ドレスを着て、椅子に座って、鏡を見てみる。天使がいる。いや、女神かな?まあいいや。とにかく、どこの御姫様ですか?みたいな超絶美少女な人形がいる。この子は誰だ?私だ!
…ふう。ちょっとはしゃぎすぎた。
それにしても、ほんとに可愛い。間違いなく今の私の、最高傑作。我ながらよく頑張ったと、誉めてあげたい。うーん!抱き締めたい!あ、脱げばいいのか。でも、しばらくは着ていよう。脱ぐのも着るのも、そこそこたいへんだしね。
そうだ、名前を決めないと。何がいいかなぁ。まあ、ゆっくり決めればいいや。
じゃあ今から、何しようか。時計を見ると、夜中の10時。ありゃりゃ、けっこう時間外たってたなぁ。どうしよっか、晩ごはん食べ忘れたなぁ。めんどくさいし、栄養ドリンクとエナジーゼリーでいいや。それなら、人形を脱がなくても、小さな口からストローを入れれば、飲めるからね。
さて、ほんとに何しようか。いつもなら、スマホでネット小説を読むか、人形作りをするんだけど、スマホは人形の手じゃ操作できないし、人形作りも、まだなれない人形の手じゃ、手を出す気になれない。せっかく作ったこの人形を、その日に壊したりしたら、目も当てられない。それに、なんか今はすごくやりきった感じで、作業をする気になれないというのもある。
もういっそのこと寝てしまおうか。…うん、そうしよう。それがいい。きっとそうだ!
そう私は結論付けると、とある部屋に向かう。そこは、とてもメルヘンチックな、女の子っぽい部屋。家具らしい家具は、天蓋付きベットぐらい。他は、いくつもの人形でうまってる。間違っても、アラフォーのオバチャンが寝るような部屋ではない。
ここは、私が人形製作の合間に作った部屋。この人形を着た時、ここで寝ようと思って、作った部屋。こんな可愛い子を、普段私が使ってる布団で、寝かせるわけにはいかない。
もちろん、普段の私は、こんな部屋で寝てるわけじゃ無いよ?ほんとだよ?
さて、それじゃあ、寝ましょうか。
おやすみ~。
着れる人形を作ってから、一年が過ぎた。
あの人形は、今でも着てる。
というか、作ってから着ない日なんて、無かったんじゃないかな?
食べる時、風呂に入る時以外はずっと着てるしね。
そういえば、初めて着て寝た次の日、朝起きると、体が痛くなったんだよねぇ。
それで、背中や肩や腰なんかに、薄いクッションを付けたり、トイレのたびに脱ぐのがめんどくさくなって、ラバースーツと人形を改造して、排泄のための穴を作ったりもした。
その排泄の仕方が、最初は少し恥ずかしかったけど、慣れればそうでもない。
他には、着るようになって、一月たったころだったかな?ちょっと太っちゃって、ヤバイ!と思って、お風呂に入る前に腹筋背筋、そしてヨガをやるようになった。お人形を着られなくなるのは、絶対に嫌だからね。
お店を開けてる時は、人形のふりをして、椅子に座ってじっとしてる時がある。今もそうしてるんだけどね。初見の人だと、すごく驚いてくれる。
そういやぁ、一度、人形を盗もうとした人がいたなぁ。しかも、よりによって私を。まあ、わからなくもないよ?。他の人形達は、ちゃんと盗難対策してる上に、それがわかるようになってるからね。これでも私の店舗兼家の防犯設備は、ばっちりなのです!まあそんな中で、明らかに他の人形達より高そうなのに、ろくに盗難対策されてないように見える私を選ぶのは、仕方ないのかも。しかも、人通りの無い場所にある店舗で、他に客どころか、店番もいない。狙われても仕方ない。でも、私なんだよなぁ。持ち上げようとしてる時に、さも今眠りから覚めたように振る舞って、「どうしましたか?」て言ってね。いやぁあの泥棒(未遂)さん。すんごく驚いてたね。無理もないけどね。なんせ、ただの人形だと思ってたのが、中に人が入ってたんだもの。あの人が一番、驚いてくれたんじゃないかな?写真を撮れなかったのが、残念だったよ。慌てて逃げてっちゃったからね。
そんなことがあったせいか、今でも人形のふりはやめられない。まあ、基本的に、奥で作業してるんだけども。週に一回はやるね。
そうそう、しばらく練習したら、人形に入ったままで作業できるようになった。というか今では、人形に入った状態の方が、上手いかもしれない。いや、ほんと冗談じゃなくてね?
そのうち、人形から全く出なくなりそう。今までだって、一週間人形から出なかったこともある。風呂に入らず、ご飯も栄養ドリンクやゼリー飲料で済ましてね。一週間で、さすがに体が痒くなって、風呂に入ったけど。
やっぱり、どうしても人間は食べなきゃいけない。そして、食べれば出さなきゃいけない。それがとても煩わしい。美味しいものを食べるのは、別に嫌じゃない。けど私は、食欲よりも優先したいものがあるから。
いっそのこと、本当に人形になれたらなぁ。人形を作って、自分ともども着飾って。他の煩わしいことなんて気にせずに。そんな生活ができたらなぁ。
そんなことを考えていたのが、悪かったのかもしれない。気づくと私は、見知らぬ場所にいた。