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トレジャー・イン・ミラー  作者: 月川 来瀬
第1章 夢と現実と異世界と
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第4話 "少女"レイア

おかしい。絶対におかしい。彼女は死んだはず。まさか。


「ウソだろ……」


「何? なんか言った? というか、まるで死んだ人が生き返ったかのような目で私を見ないでくれる?」


彼女は青色の長い髪を風に仰がせ、その青い瞳を細めてそう言った。


「私のヨルちゃんに何か用?」


なんてこった。まさか、こいつは死んでから俺みたいにここに転生したというのか。


「なんだよ、俺を覚えてないのか? 俺だよ俺! お前、こんな所にいたのか!お前も俺と同じく転生してここにーー、」


「私の話は無視? ていうか、誰? 君、私の事知ってるの?」


知ってるも何も、幼馴染ではないか。ちょっとばかり会っていないから照れ隠しでそんなことを言っているのだろう。もしくは、年月が経ち、成長したから確信が持てずにいるのか。


「誤魔化すなよ、俺だよ、レイ! 幼馴染だったろ?」


少女はそれを聞いて、なにか少し考えた後で、


「ごめんなんだけど、覚えてないみたい」


彼女は、自分のことであるにもかかわらず、他人事のような口調で言った後、こう続けた。


「私ね、記憶喪失だったの、昔の話だけどね」


ますます意味がわからない。死んだと思っていた幼馴染が、自分も死んで転生先で再び姿を現したと思えば、俺と同じ記憶喪失だと。


だとしたら、死んだら絶対に記憶喪失になるものなのか? 彼女の場合、名前だけでなく、記憶の全てを。


そもそも、彼女は俺の幼馴染で間違いないのか?俺は名前を覚えていない。相手も自分のことを覚えていない。

もう、確かめる方法が、見つからない。


ーーもしかすると、名前を聞いたら思い出すかもしれない。漫画では、記憶喪失になった時、体に染み付いた経験や体験を体自身が覚えている。そして、名前を聞いた途端、全てを思い出した、なんてパターンをよく見た。


「あんまり知らない人に自分のことをべらべら喋るなってよくおじさんに言われてたんだけど、まずかったかな? まあ大丈夫よね、ヨルちゃん」


「ホッホー」


「なあ、お前、名前は?」


自分を会話の外に置いて『ヨルちゃん』と話し出す彼女に少し勇気を出して、聞いてみた。


「あ、ごめんね、自己紹介しなくっちゃだね、私はレイア! 君は?」


レイア、レイア、レイアーー、


思い出せない。やはり、所詮は漫画。人が考えたものなど実際にはありえないのか。通用しないのか。


本来なら旅の仲間にして自分の盾にしてやりたいが、こんないかにも重要人物っぽい、プラスアルファで幼馴染だったかもしれない少女、レイアは冒険には連れていけそうにない。


「ちょっと! 聞いてる!? 君は人の話を聞けない病か何かにかかってるの!?」


「あ、わり、聞いてなかった」


レイアは顔を赤くしながらぷんすかと言いたげな様子でもう一度質問した。


「だーかーら! き! み! 君の名前だよ! 君の名前はなんですか!」


「レイ」


「ーーえ? レ、レイ!? ちょっと!真似しないでよ!」


「は!?真似!?するわけねぇだろ!」


「ふふっ、じょーうだんだよっ!」


彼女は悪気のない様子で、しかし悪戯に笑いながらそういった。


昔もそうだった。幼馴染のあの子は、いつも意地悪なことを言う。かと思えば、優しくしたり、笑って誤魔化したり。


そんな昔の映像と、今のやり取りが頭の中で交差した。

見た目も中身もそっくり。しかし絶対に合っているという確信も持てない。どうすればいいんだ。

このモヤモヤする気持ちを一旦端に起き、本題を取り出すことにした。


「ていうか、そのフクロウ野郎が俺になんかしやがったんだよ!」


昨晩、フクロウはレイを船の中に招き入れ、紫色の光みたいなものを浴びせて、催眠状態にした。


「何って?」


「なんか、光みたいなやつだよ!紫色の輪っかの光!」


絶望的な語彙力に自分で呆れそうになるが、そうとしか説明ができない。


「あー、多分、それは魔術!」


「魔術!?」


なんだと。フクロウごときが魔術を。俺でさえ使ったことがないのに。異世界では、魔術は亜人が使い、獣人やそれ以外は物理的な手段で攻撃するのがふつうであろう。


全く異世界知識が役割を果たさない。なんてことだ。想定外。


「ヨルちゃんは、1つだけ魔術が使えるの!催眠術!」


こんな動物でも使えるのか。魔法を。ということは、この魔法は下位魔法。ランクでいうとFランク辺りか、そこらへん。つまり、誰でも使える魔法ということだ。


試しに手を振りあげたり、力を入れたり、念じてみたりした。しかし、なんの光も出てこない。


「俺は、こんなフクロウ野郎に負けたのか……」


異世界知識の問題ならなんでも答えられる、この俺が。


頭脳だけでは生きていけないということか。

運命様、辛辣ですね。


「ぷ。ぷふふ。あはっ」


そんなレイの様子を見て、レイアは耐えきれず、笑い声を漏らした。


「なんだよ! 笑うな! 何がおかしい!」


「だって、面白いんだもん、ぷーくすくす」


なんてむかつく野郎だ、青色の腰まで届く長い髪、広い草原と青い空が似合うと言った感想が1番想像がつくだろう。そんな彼女は、一丁前に美少女であるのに、見た目の印象を玉砕して内面が勝る。


黙っていればかわいいとは誰が考えた言葉か。まさに彼女のために作られた言葉。


「ね!君、うちおいでよ、君とゆっくりお話したい!」


よっぽど気に入られたのか、彼女の家に誘われた。


もしこれがギャルゲーならば脈ありだろうが、今いるのは異世界。大抵この場合は、イベントが起こる前置き。


どうせ近くでモンスターがわいているから退治してきてとかそんなことだろう。装備買って行かなきゃな。


でもお金ないな、どうしよう。近くの森でアイテムでも集めて売れば多少お金になるだろう。そもそもお金はなんだろう。貨幣?紙幣?金貨とか銀貨とかそういうのだろうか。


そんな妄想をしながら、彼女の後を追って歩く。ふと先程の彼女の発言を思い出した。


「レイ」


「え?何?」


「俺はレイだ」


「知ってるけど?」


「俺は『君』じゃない、レイって呼べ」


さっきからずっと彼女は君、君、と呼んでいた。幼馴染はレイ、と呼んでくれていた。少しでも、過去と現実にズレがないように、照らし合わせるようにしていきたい。この頼れるものの何も無い世界で、自分の心にゆとりを少しでも持たせて、安心できるように。


「だったら、レイも私のことレイアって呼んでね? レイとレイアってなんか、双子みたいだね!」


そんなことをいいながら、上機嫌に、先程より少しばかりテンポよく、軽やかに歩いていった。


そんな彼女に、レイアに並んで、レイは彼女の自宅を目指した。

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