第3話 月の光と希望の光
今やるべきこと、それは会話できる誰かを探してこの世界の情報を集めること。
この廃屋には美少女どころか、人さえいなかった。
この家屋以外になにか周りにあるかといわれれば、特に何もない。さて、どうする。
「とりあえず近くに小さな村があるはずだ、そこへ行こう」
ゲームや漫画で身につけた異世界知識を元に、根拠のない地図を頭に思い浮かべ、木々をかき分けて前に進む。
この手のRPGでは、まず近くに村がある。そしてそこで装備を揃えて、次は少し大きめの都市へ。そこでの問題を解決してーー、
というような流れであろう。だったらそれを自分に置き換えた時、まず向かうべきは村。村で食べ物、装備、仲間を集めていざ出陣。
そんな思い通りにいくはずはないと思うが、大まかな流れに沿って行けば、間違いはないだろう。
そんなことを思いながら歩くこと30分。
「クソ、次は川かよ」
森を抜けたと思ったら今度は大きめの川。
しかも先を見ても川ばかり。
仕方なく、その川を沿って、下流の方へ降りてみることにした。川があるということは、必然と村がその近くにある可能性は高くなる。なぜなら便利であるから。
レイの異世界知識によると、大概の異世界は中世風の世界。そこには、車やバイクなどの機械的移動手段はない。すると、生活する上で必要不可欠の資源といえば、水である。この世界の住民が水のいらないゾンビなどのアンデット系でない限り、この世界も例に漏れないと言えるだろう。
つまり、この川を下って行けば、何かしら村やら集落やら人が住んでいるところがあるはずだ。
そしてそれから小一時間。
「ーーーーーー」
ない。ないないないないないない。
「なんでねぇんだよ!?」
レイのもつ異世界知識はどうやら的外れらしい。
「あーめんどくせえ」
まだ転生して2時間ほどしか経っていないが、色々なことが起こりすぎて、疲労が出てきた。
それも仕方ない。今まで1日の半分は寝ていたから。
いや、もっと寝ていたかもしれない。
よし、寝よう。
いつもの考えに行き着くと、どこか寝られる所はないか探した。
周りを見渡すと、運良く小さな洞窟らしきものが見えた。
ひとつ不安なのは、その洞窟の中にモンスターやら魔獣やら怪物やらがいないかという事だ。
そんなものに姿を見られてしまえば最後、丸呑みにされ、彼らの細胞の一部になるだろう。
運が悪ければ骨身を砕かれ、最も苦しい死に方をするかもしれない。冗談じゃない。慎重に覗こう。
石を洞窟に向かって1つ投げる。しかし、浅いのか、音は響いてこなかった。
恐る恐る覗いてみると、そこには何もいなかった。
よし、ここで一息つこう。寝ればいい考えも浮かぶかもしれない。
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ホーホーと、声が聞こえる。鳴き声が。フクロウみたいな声が。
目を覚まし、外に出ると、辺りは日が沈んで間もない頃のようだ。
川の表面には夜空に浮かぶ月が揺られ、街灯や家の明かりのない大地を、その光が妖しく照らしている。
「ホーホー、ホッホー」
1羽のフクロウが、月の光を浴びて怪しい輝きを放つ双眸でこちらになにか話しかけているようだった。
「この世界にもフクロウはいるのか」
レイが自分に気づいたと認識した後で、フクロウはこっちについてこい、とでも言いたげな様子で飛び去って行った。それに慌てて、
「なんだ?ついてこいって言ってんのか?」
追いかけるように走って川をまっすぐ下っていく。そして、しばらくして、海に着いた。
「はぁ、はぁ、な、何がしてぇんだこいつ……」
今までろくに運動もしてこなかったレイの肺はたった数百メートル軽く走るだけで悲鳴をあげる。
その痛みを我慢しながらとりあえずついて行くと、その先に小さな港と、家が2軒、船が1隻あった。
「おお! 家じゃん!」
これで情報が手に入る。ようやくスタートラインにたったような気持ちで家に入ろうとーー、
「ホッホー」
フクロウはそこじゃないと言いたげな様子で、レイを止めた。
「なんだよ、ついて来いって?」
フクロウは港に停まる1隻の船の中へ入っていった。
まぁ、家は後で行けばいいか。減るもんじゃないし。
フクロウがここまで案内してくれたのだから、あちらの要望にも応える義務がレイにはある。
「お邪魔しまーす」
誰もいない船の船首から奥へ進んで行くと、船内へと続く梯子のようなものを見つけた。操縦室らしき所は鍵がかかっていたが、その扉の手前の梯子を伝って降りていくと、フクロウはひとつの椅子の上にとまっていた。
「なんかあんのか?」
フクロウにその言葉が通じるはずもなく、ただただそこにとまっていた。
「なんもねぇならでるぞ」
何も無いなら用はないと、そう言って梯子を登ろうとしたその時。
上からこちらに向けて、紫色の光が照らされた。
「な!? な、なんだこれ?」
訳がわからず、梯子から手を離す。
上に誰かいた様子もなく、状況的にこのフクロウが、
怪しい。あや、し、いーー。
そこでレイの意識は途切れた。
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波に揺られるような感覚と、モーターが回転する音、人が話す声を聞き、ゆっくりと意識を覚醒させる。
徐々に視界の焦点があっていきーー、
「ここはーー」
意識が最後、途切れた場所。そう、船の中。明るい日が船内を照らしていた。
幸い、誰にも気づかれてはいないようだ。こんな所見られたら、何をされるか分からない。とりあえず船が泊まるまで隠れておいて、人の気配がなくなったらこっそり出よう。
そう計画を立てながら、昨日のことを思い出す。
「くそ、あのフクロウ野郎はどこいった?」
あの鳥、焼いて食ってしまいたい。
そう彼が思った次の瞬間、船はエンジンが止まり、人が出ていく音が聞こえた。
「よし、今のうちだ」
人と鉢合わせにならぬように、こっそりと抜け出す。
昨日までの気持ちとはうって変わり、今は人に会いたくないと思うのだから、人生何語起こるかわからないとはよく言ったものだ。
そろりそろりと船を後にし、改めて周りを見渡すとーー、
そこは異世界と呼ぶに相応しいほど、非現実的で、魔法的で、ファンタジー的な世界だった。
街並みひとつとっても、地球の比にならないほど澄み切った空気、青い空、中世を思わせる雰囲気。
綺麗な花々、爽やかなそよ風、元気な小鳥、フクロウ。
ーーフクロウ。
「おい! お前! 待て!!」
バレたと言わんばかりに急いで飛び立っていくフクロウ。
それを追いかけていく。
フクロウは空を軽々と飛んでいくのに対し、こちらは人々の間をくぐり抜けて追いかけるという物理的ディスアドバンテージ。
「く、そ……!」
ようやく人混みを抜け、前を見ると、1人の長い青色の髪の少女の肩に、フクロウはとまっていた。
「おい、あの、ちょっとそこの女の子!」
その肩のフクロウを焼かせろと言おうし、顔を覗くとーー、
「ーーえ?」
その少女はレイが昔失った幼馴染に瓜二つの容姿をもつ美少女だった。