第2話 不可解な記憶喪失
「よし、まずは情報収集からだな、誰かいねぇかな亜人みたいなやつら」
そう、大体異世界に何かしらの理由でやってきた主人公は、混乱し、パニック状態に陥る。それはタブーだ。そんなことをしている間にモンスターがやってきて食われてゲームオーバーだ。
今1番大事なのは情報収集であり、なぜここに来たのか、誰がここに連れてきたのか、目的はなんなのかなどを知ることである。
それを知るためには、まず会話できる人、亜人やら獣人やらにあって、この世界のことを知る必要がある。
「誰もいねぇじゃねぇか、つーかなんで森の中に転生させんだよ」
この異世界に招き入れた誰かしらは随分意地汚いやつなのだろう。だが、一般的に異世界に地球人を呼ぶのは天使の輪っかや羽の生えた美少女だ。
何かしら問題があって、助けを求めるためにとかそんな理由で呼んだのだから、火急の用だったのだろう、仕方がない。心の広い伝説の勇者レイ様が助けに向かおうではないか。
森の中を15分くらいは彷徨い歩いただろうか。少し開けた空間がそこにあった。
そこには、木でできた建物がぽつんと建っていた。
「お、誰かいるか? まさかのここで美少女登場か?」
美少女への期待を胸に、ホコリや蜘蛛の巣がこびりついている扉を開けて、中を覗く。
そして、辺りを見回すと、古びた机、たくさんの本が転がっていた。奥に扉があったので、その扉を開くと、そこにはーー、
「だれもいねぇのかい」
誰かが住んでいたのか、古びたベッドと、朽ちた衣服があるくらいで、誰もいなかった。
見た目からだいたい予想はついていたが。
もはやこんな廃屋みたいな所に美少女住んでいたとしたら、この世界はわかっていない。美少女の尊さを。
陰キャレベル99の俺様がどれほど美少女を尊敬していることか。その美少女をボロ屋に閉じ込めようとすることなどあれば黙っちゃいない。
俺の幼馴染ーー、といっても今は死んでしまったが、彼女もアニメや漫画、芸能人にも劣らぬ可愛さだった。
可愛さだったんだ。ーーでも、今はいない。
俺を庇って。黒服の、マスクをした、刃物ーー、果物ナイフのようなものを持った男が、通り魔が、俺目がけて声を荒らげながら走ってきた。
それを、彼女が庇ったのだ。
その後彼女をすぐに病院へ連れていった。
ーー彼女は、彼女だけは、俺を友達だと思ってくれた。親友だと、言ってくれた。今まで誰にも相手にされず、
空気ぐらいに思われてきた俺を。
ーーなのに、なくした。
これからどうやって生きていけばいい。父は俺が生まれた日に死んだ。母は毎日身を粉にして働いた。
誰を頼ればいい。誰と生きればいい。
今まで彼女と生きてきたのに。彼女、彼女、彼女。
ーー彼女の名前は、名前はーー、名前は。
名前がーー、思い出せない。
昨日まで、死ぬ前まで覚えていたのに。生きてこうと思える、唯一の希望の光だったのに。大切な人の名前なのに。なのに、ーーなぜ、なぜ、なぜ、なぜ、何故、何故、何故、何故何故何故何故何故何故ーー。
ーー父の名前も、思い出せない思い出せるのは顔だけ。ーーそうか。
「ーー事故ったときに頭やられたのか」
心当たりはある。あの、ここに転生する前、あの瞬間、あの時。
あれだ。でも、記憶喪失ってこんなにところどころなもんなのか。普通は一定の期間分の記憶全てが無くなるんじゃないのか?
まあ、記憶喪失になったことがないから分からないのだが。
とりあえずこの問題は後まわしにして、今やるべき事、最優先事項を再確認しよう。
ーー心なしか、幼馴染の声が聞こえたように感じた。