表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

if白雪姫 幸福の鐘

作者: 北本みや

明るい結末バージョンです。






*******



 むかしむかしあるところに美しいお妃さまと、継子である白雪姫という可愛らしい女の子がおりました。

 美しいこのお妃さま、実は魔法使いでした。

 自分の美しさに絶対の自信を持っていたお妃さま。

 しかしある日魔法の鏡に白雪姫が自分より美しなったことを告げられ悔しい思いをしていたところ、王様にまで白雪姫の方が美しくなってきたなどと言われ怒っていました。

 そしてついには白雪姫を城から追い出してしまったのです。

 王様はたいそう嘆き、怒り、お妃さまと喧嘩をしてしまいました。

 こんな状態です、白雪姫が目の届かないところに行ってもお妃さまの心はちっとも晴れませんでした。

 更には、追い出されて途方に暮れているかと思いきや、白雪姫は小人たちと仲良く楽しく幸せそうに暮らしていると知ったから悔しさはとどまるところを知りません。

 少しくらい辛い思いをすればいい、お妃さまは苛立ちを抑えきれません。

 ある日とうとうお妃さまは、少し懲らしめてやろうと、しびれ毒の入った林檎を作り白雪姫に食べさせようと目論見ました。


 出来上がったしびれ毒入りの怪しく艶めく真っ赤な林檎を見てお妃さまは鋭く笑い、お城を後にしました。




 森の奥、小人が出かけていたある日、その小さな小屋の扉がノックされました。

 白雪姫が扉を開けると黒いローブに身を包み、籠いっぱいに林檎を入れた老婆が立っていました。

「お嬢さん、林檎おひとついかがかな」

 白雪姫の元にやってきたその老婆は気のいい笑顔で籠から真っ赤な林檎をひとつ差し出しました。

 雪のように白く透き通る肌の長く美しい手でそっと林檎を受け取る白雪姫を見て、老婆の目が一瞬鋭く細められます。

 そう、この老婆は白雪姫の継母であるお妃さまが魔法で化けた姿なのです。


「……ごめんなさい、おばあさん。せっかくだけどこの林檎は食べられません」

 白雪姫の美しい瞳が悲しげに長い睫毛に伏せられました。

 長く細い白雪姫の指が林檎をするりとなぞります。

「どっ、どうしてだい? とっても美味しいよ」

「私、林檎嫌いなんです」

 にべもない予想外の返事にお妃さまは大慌て。

 申し訳なさげに突き返された林檎を前に、必死に良いところを訴えます。

「ほら、こんなに真っ赤で艶々していて 」

 陽の光に反射させればきらきらと輝いているようにさえ見える立派な林檎です。

 しかし、白雪姫の顔は憂うばかり。

「そもそも、この林檎まだ食べていないのにどうして美味しいと断言できるのかしら?」

「っ! お、同じ木からなっている他の林檎がものすごく甘かったから!」

「だけどこの個体が必ず美味しいという保障はないわ。同じ木からでも美味しくないものができることだってあるでしょう?」

 可愛らしい口調で正論で反撃してくる白雪姫がだんだんと小憎らしく見えてきます。

 しかし、ここで諦めてなるものかとお妃さまは何とか言いくるめる方法はないかと思案します。

「……それに、この林檎まだ洗ってもいないわ」

 ぽつりと呟いた白雪姫の言葉をお妃さまは聞き逃しませんでした。

 付け入る隙を見つけた! と心の中で拳を握り締めぱっと顔を上げます。

 もちろん人の好い笑顔も忘れずに。

「では、私が洗ってあげましょう。洗い場をお借りしても?」

 ずずずい、と身を乗り出してくるお妃さまを見て白雪姫は少し困った顔をしましたが、やがて、どうぞ、とお妃さまを中に招き入れました。

 小人たちは出かけていたので、家の中には二人きりです。

 白雪姫は洗い場に案内をしてから、小人さんたちは知らない人が家にいたら困るかしら、と今更ながらに思いました。

 そんな白雪姫の思案も知らず、お妃さまはうきうきと林檎を丁寧に丁寧に洗っています。

 洗い終わったところで、水滴できらきらと輝く真っ赤な林檎を見てなんて美味しそうなんだろうと誇らしげに笑みました。

 これならきっと白雪姫も食べるに違いない、自信たっぷりに振り向くと想像していた表情と違って白雪姫は憂い顔のまま。

「……私、皮のままなんて食べられないわ」

「じゃ、じゃあ剥いてあげましょう! 包丁をお借りしますよ」

 目的達成まであと一歩、お妃さまは器用に林檎の皮をするすると剥いていきました。

 踊るように剥かれていく皮の中からはより一層瑞々しく映る林檎が現れます。

 今度こそ間違いなく食べるはず!

 お妃さまは自身たっぷりに振り向きましたが、またもや白雪姫は渋い顔。

「……こんなに大きな果物にかぶりつくなんてできないわ」

「ひ、一口サイズに切ってあげましょう!」

 だんだんと食べる気になってきている、そう思うとお妃さまの気持ちもはやります。

 お妃さまは白雪姫の司愛らしい口に合うよう、林檎を食べやすい大きさに切り分けました。

 お皿に盛られた林檎からはつんと甘酸っぱい香りが漂っていて舌なめずりしそうなほど美味しそうです。

 これならいくらなんでも食べるはず!

 しかしそれでも白雪姫の顔は晴れません。

「手づかみなんてしたことないわ」

 お妃さまは一瞬拳をワナッとふるわせましたが、表情には出さず……いえ 、多少引きつっていたかもしれませんが、何とか笑顔のままフォークを探してお皿に添えました。

 銀色のフォークがきらりと光ります。

 これ以上もう渋る理由はないだろう、と勝利の確信にも似た気持ちで口端をあげ笑いましたが、まさかの白雪姫の言葉が降ってきます。

「そもそも私林檎の食べ方がわからないの」

 ため息と共に困り果てた表情の白雪姫に、思わず額に手を当てお妃さまは呆れ返ります。

 林檎の食べ方って何だい!

 そんな心の中の怒号は声にはせず、何とか笑顔を絶やさないようできる限り優しく優しくお妃さまは言いました。

「普通に食べるだけだよ、何も特別なことなんていらない」

 いいからさっさとお食べ! と、内心焦りながら促すものの白雪姫は葛藤の表情で林檎の皿とにらめっこしたままです。

「……普通、って何かしら、私は林檎を食べたことがない、私にとっては林檎を食すということはまさに未知の世界なの。

 未知の世界のことは、例え世間では当たり前だったとしても私にはその普通すらわからないわ」

「ああもうじれったいね、特殊なことなんて何もないったら! 他のものと同じようにこうやって食べるんだよ!」

 ついにお妃さまは焦れてしまい、乱暴な口調をあらわにしながら、自分の口にその林檎を放り込みました。

 果実を噛み砕くと、林檎特有の味が口いっぱいに広がります。

 甘みと酸味と、それから指先の痺れと……。

「ほら、しゃりしゃりして甘く、て……っ!?」

 飲み込んでから我に変えったお妃さまは顔面蒼白です。

 食べてしまった、食べてしまった!

 普通の林檎ではないこの林檎を!

 焦るお妃さまをよそに、痺れは確実にじわじわと全身に広がっていきます。

 白雪姫はそんなお妃さまの様子にしばらくぽかんとしていましたが、やがて我にかえるとおろおろし始めました。

 しかしどうすることもできずやがてお妃さまは倒れてしまいました。

 思ったより毒が強すぎた……お妃さまは薄れていく意識の中で思いましたが時すでに遅しです。


 白雪姫が途方に暮れていると小人たちが帰ってきました。

 知らない老婆が家の中で倒れているのを見てみんなびっくり仰天です。

 白雪姫に事の顛末を聞いても、そもそもしびれ毒の入った林檎なんて思いつかないので、何が何だかわかりません。

「と、とにかく一度外の空気を吸ってもらったらどうだろう」

「呼吸困難なのかもしれないね!」

「新鮮な空気を!」

「おー!」

 謎の一致団結をして、白雪姫と小人たちはお妃さまを抱え上げどうにか外へ連れ出しました。

 しかし意識朦朧としたままのお妃さまは変わりません。

 するとそこへ偶然どこかの王子様が通りかかりました。

 異常なこの事態に王子様は馬から降りて白雪姫たちに何があったのか尋ねました、が、やはり何が何だかわかりません。

 おろおろする人が増えただけのこの様に、突然お妃さまの体から湯気が上がりました。

 みんながびっくりして見守る中、お妃さまの姿が老婆から元の美しい婦人の姿に変わっていきます。

 瀕死の状態になってお妃さまの魔力が弱まってしまったのです。

「お義母さま!」

 まさか林檎売りの老婆がお妃さまだとは露ほども思っていなかった白雪姫は、その姿をみて驚きました。

 そしてもう一人目を見開いて驚いたのは、王子様でした。

 お妃さまの顔をじっと見つめるとぽつりと一言。

「う、美しい……」

 確かにお妃さまは美しいご婦人でしたが、白雪姫を目の前に彼女より他に目を奪われる人物は非常に稀有でした。

 しかし、王子様は年下よりも年上の女性を好む嗜好にあったのです。

 そしてお妃さまはまさに王子様のどストライクゾーンだったのです。

 王子様はすぐさまお妃さまを抱え馬に跨りました。

「このご婦人は我が城にてすぐに解毒薬で手当てしよう!」

 王子様はそう宣言して、有無を言わさずお妃さまを連れて去って行ってしまいました。




 やがて、この国の王様とお妃さまが離縁し、どこかの国で若き王子と美しい婦人の結婚が行われたそうです。



 そして二人はいつまでも仲睦まじく暮らしたそうです。

 

元々考えていた結末版も。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ