③朱希→ 『目覚めの朝』
肌寒さを覚えて、俺は意識を覚醒させた。低温に支配されて、全身には力が入らず、手先の感覚は麻痺している。まるで自分の身体が自分のもののように、錯覚してしまう。
首筋をなでるくすぐったい春草と、全身に感じる土の固い感触。
その違和感を肌に感じ、俺はふと目を開く。
きらきらと星が瞬く夜空。
一面の草原。
辺りを照らす月明かり。
そして、ぽつん、と一人の寝転んでいる俺の姿。
―――そうか
自分がいるこの場所は、“あの丘”なんだと、俺は強く実感する。
でも俺は、この光景を信じられないでいた。
さっきまで俺は、自分の部屋のベットの中で眠りについていたはずだったのに。
どうしてここにいるのだろう。
俺は、草むらから身を起こす。
すると、ひとりでに、目元の窪みに溜まった透明の液体が、行き先を見つけたように、一筋の軌跡を描いてこぼれた。
―――あれ? どうして俺は泣いているんだ……
なぜ泣いているのか、何に泣いているのか。
必死に思い出そうとしても、どうしてもわからない。自分でもわけがわからず涙が溢れ出てくる。
ただ、何かを失ったという喪失感と、胸の中に残っている温もりが、漠然と俺の中に残っていた。