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本業がなかなかに忙しくて、筆が思うように進んでません。
貧乏暇なしってヤツですな…。
1ー1、1ー2も含めて、話が矛盾する場所や間違えていた専門用語の使い方を訂正してあります。
あと、オリジナルで作者が作った専門用語なども有りますので、ご承知おきの上お楽しみ下さい。
行動を開始してから、十分経過。
この間に装備を整えてブリーフィングを済まさなくてはならない。
出動前や移動中にブリーフィングができるSATやSITと、俺が所属する遊撃隊の大きな違いはそこにある。
この出動、少しイヤな予感がする。
なんというか…。規模が小さ過ぎる。ただそれだけだが、違和感を感じる。
でも、それは今は考えない。俺たちは俺たちの任務がある。
十五階までエレベーターで移動し、そこから非常階段を使用して移動する班とエスカレーターを使用して突入する班に別れる。今回の案件では「アーチャー」、「セイバー」、「アサシン」の三班が稼働している。
セイバーは階段から、我々アーチャーはエスカレーターから。
個人的には階段が良かった。本当に非常階段なので日常は使用されることなく閉鎖されているし、ホテル宿泊客の避難も済んでいるので十八階まで移動するのも大して苦にならない。
それに対してエスカレーターは電源を落とされているので動くわけもなく、上がるのにも音が出やすいので細心の注意が必要になる。さらには吹き抜けに面しているから移動途中で対象に気取られたら、そこで銃撃戦になりかねない。吹き抜けのエスカレーターなんて遮蔽物も無く、恰好の標的になるだけだ。
俺たちが十八階に繋がるエスカレーターに到着した時点でビルの照明電源は全て遮断される。直前まで目標にはコソ泥作業に集中していただきたいと願う。
しかし、優秀な部下や相棒に恵まれた俺は果報者だと言える。
この困難な移動であっても音も無く移動することが出来るのは、日頃の過酷な訓練を耐え抜き、それを確実に身につけている高い技術を持つこの頼もしい仲間たちのおかげだ。
追々語ることも出てくると思うが…。こういう隠密行動においては、アーチャーは他の班に比べて長けている。それ故に第一班になっている。
「アーチャー1より全サーバント及びアベンジャーに告げる。ポイントKに到着した。目標は目視出来ず。各班の状況を報せよ。送れ」
「こちらセイバー1。ポイントZに到着。現場にて所轄警察官より引き継ぎ完了。送れ」
「こちらアサシン1。ポイントAにて待機中。送れ」
間を置くことなく、サーバントから順次素早い返信が返る。
「アベンジャーより全サーバントへ。位置確認しました。現状、グループA及びグループBは依然として二手に分かれています。また、目標の通信を傍受。目標のリーダーはグループBのBー2と推察します。これを以降はCと呼称し対応一で願います。現在地はポイントT。その他の対象は対応三の許可が出ています。よろし?」
最新の情報と対応方法がアベンジャーより伝えられる。
「こちらアーチャー1。了解した。送れ」
「こちらセイバー1。同じく了解した。送れ」
「こちらアサシン1。了解した。送れ」
通信を送り、その回答を聴きながら自分の班の班員に指示を出す。ここでは無言でだ。全て手信号で送る。
それを見て全員が暗視ゴーグルのスイッチを入れる。
「こちらキャスター、聖杯は満たされた。繰り返す聖杯は満たされた」
小暮隊長からの通信が入る。言い忘れたが、隊長のコールネームは「キャスター」だ。
その合図とともに、アーチャー5こと川野がエスカレーターの真ん前にある銀行の店舗ドアを吹き飛ばし、アーチャー6こと寺川がランチャーで内部にスモーク弾を発射する。
同時にセイバーのキーマンが非常階段のドアを吹き飛ばす。
川野と寺川もアーチャーでは「キーマン」という立ち位置にいる。その役割は、前述のようにスモーク弾を発射したり、ショットガンでドアの蝶番を吹き飛ばす。つまり、ドアを開ける役割だから「キーマン」なのだ。
一瞬の間を置いて、独特の発射音とともに周囲のガラス戸が粉々に砕けた。
目標であるグループAの抵抗とも言えるが、小さな反撃だ。
この抵抗は想定内なので、アーチャー3の大森とアーチャー4の山口が前面に出てシールドで防御している。通常よりも分厚いポリカーボネイトのシールドだがAK47の破壊力にどこまで耐えられるか?しかし、跳ね返した弾丸はひしゃげて転がっている。どうやら目標はフルメタルジャケットを使用してるわけではないようだ。
いつも思うのだが、このAK47として知られるカラシニコフやら暴力団御用達だったトカレフやら…、なぜ某国で生産された兵器はそんな破壊力や殺傷能力を持つ必要があるのか?疑問に思わずにはいられない。
でも、どんなに破壊力の高い兵器を持っていても、それを扱う訓練をまともに受けていない学生テロ如きにそんなに手を焼くことはない。
ヨシキとアイコンタクトを送り合い、小銃(SG551)の弾丸をフルメタルジャケットに装填し直し、セイフティーセレクターをセーフからオートに切り替え姿勢を整える。もうすぐだ。
数秒の間を置くことなく、その時は来た。
目標からの銃声が止まる。弾切れだ。訓練を受けていなければ再装填に十数秒以上掛かることもある。
訓練を受けている俺たちが狙いを定めて射撃を実行するには十分過ぎる時間だ。
スモークで目潰ししていても、対象の位置は先程の銃撃の発射炎の位置で分かっている。これも訓練を受けた人間と、そうでない者の違いだ。俺たちは一度発砲した場所に数秒も止まることはしない。
撹乱することも知らない「ど素人」を相手にやり過ぎと批判を受けるかも知れないが、テロ学生さんたちの人生は、ここで終わることになる。せっかく大学まで進学させてくれた親に対してその親不孝を詫びるとともに、テロリストに身を貶すような自分の行いを大いに反省して次の人生では立派な人間になっていただこう。
立ち上がった一瞬で狙っていた位置に照準を定めてグリップに取り付けたドットサイトのスイッチを中指で押す。
その先に目標のシルエットを捉えると同時に引き金を絞る。
ヨシキと俺の小銃はほぼ同時に火を吹くが、それぞれ一発だけだ。
声を上げる間も無く、目標二人は沈黙する。
SG551 SWATの命中精度と信頼性は自動小銃の中でもズバ抜けて高い(と、俺は思っている)。
同時に店舗内に進行。俺とヨシキはその場に残り、川野と寺川は各部屋の索敵に向かう。
稀にだが、自分だけステルスで身を隠した不届きなテロリストの監視役がいたりするからだ。
しかし、この案件はその類いではなさそうだ。
奥から二人の「クリア!」という声が何度も聞こえる。
大森と山口は外に出てポイントKに戻っている。ここから先の行動で必要になるからだ。
転がっているグループAの二人のうち、自分が倒した学生を見る。学生だけにまだ若い。年齢は二十歳ってところだろう。俺が放った弾丸はキレイに眉間を撃ち抜いていた。弾丸をフルメタルジャケットにしたのはこのためだ。ソフトポイントだと顔面が潰れて、彼らの親でさえも見るに耐えかねる状態になるだろう。
射殺し彼らの人生を強制終了させたのに都合よく聞こえるかも知れないが、これは鑑識の身元確認を容易にするというだけではなく、彼らの家族へのせめてもの慰めだ。
俺は自分の恋人のことを思い浮かべた。
彼女も少し前までは彼らと同じように大学に通う学生だった。
ただし、彼女は声優という仕事をしながら大学に通う真面目な学生であったが、この若者たちはそうではなかった。それだけのことだ。
それだけのことだが、大きな違いだ。人生というのはちょっとした事で全てが変わってしまう。その縮図みたいなもんだ。彼女は中学生の頃から声優として活動していたからか若いのにとても芯が強い。ご両親からの言いつけもしっかり守る躾の行き届いた女性なので、道を踏み外すことはなかった。
そして今は…。
俺の妻になるための花嫁修行をしながら仕事もバリバリこなしている。
俺は彼女にも自分の正式な所属を伝えていない。俺の両親ももちろん知らない。
所属を秘匿する必要がある以上、家族であろうが恋人であろうが言わない。言ってはならない。
それはヨシキも同じことだ。奥さんに正式な所属を明かしてない。また俺と同じ所属に戻ってパートナーを組むことになった。程度にしか話していないらしい。
俺はこの班の責任者だ。ヨシキに万一のことがあればヨシキの奥さんや両親に伝えるのは、俺の役割になる。それと同様に、ヨシキはこの班の次席責任者だ。だから俺が死ねば彼女や俺の両親にそのことを伝える役割を負うことになる。
そんなことにならないことを願わずにはいられない。
「アベンジャーより全サーバントへ。グループAはアーチャーが排除。完全に沈黙。なお、Cは逃走。予定通り移動中」
つまり、数秒で俺たちの背後を通ることになるので、俺たちはそれを『ポイントA』と呼称するエレベーターホールに誘導する。
小銃の弾丸は既にソフトポイントに戻してあるので、店内の遮蔽物に身を隠して待機する。Cはセイバーや大森と山口に追い込まれてここに飛び込んで来ることも考えられるので、それを阻止しつつこの店舗の先にあるポイントAに行ってもらう。
本来は少ない弾丸で対象を仕留めることが警察官の本分だが、当てないように威嚇射撃しつつこちらの思惑通りに移動してもらう。
セイバーがCを射殺しなかったのも、もちろん予定通りだ。身柄を確保して背後関係を吐いてもらう必要があるからだが、確保するまでが対応一だ。そこから先は公安や外事警察のお仕事。俺たちの知ったこっちゃないが、連中の取調べは相当に厳しいらしい。取調べられる立場にはなりたくないもんだ。
「西側!細川!無事か!?」
と言いながら飛び込んで来たのは、Cだ。こいつも若い。恐らくは二十ニ〜三歳といった感じだ。
そうか。この学生たちは西側と細川という苗字なのか。
その苗字を知ったところでどっちがどっちなのか知る由も無いし、知る気も無いければ同情する気もない。
「もうおらへんで」
そう返事をしてやったら、言葉にならない何かを喚きながら辺り構わず発砲して来やがった。弾を撃ち尽くさせることが狙いだから構わないけどな。
周辺の什器を弾き飛ばし破壊し尽くす勢いで撃ってるが…
なんだ?とっくに三十発近く撃ってるはずなのに、全然止まらない。
こちらへの銃撃が途切れる一瞬で観察すると、ドラムマガジンが装着されていることが分かった。
その事をヨシキに手信号で伝えると、ヨシキも目視で確認する。
ヨシキと手信号で交信する。内容は
俺 『俺が銃を破壊するから、陽動してくれ』
ヨシキ『了解した』
その内容通り、間隙を突いてヨシキが小銃をフルオートにして応射する。
しかし、当てない。
負傷させる程度ならまだしも、死亡させてしまうとこの作戦は失敗となって、全ては水の泡だ。
その間に俺は武器を小銃からウォーリア(拳銃)にスイッチする。破壊力が高く取り回しが良いからだ。
ヨシキが上手くCが俺に銃身の横っ腹を俺に見せる状況に持って行ってくれた。
ヨシキが作り出してくれた瞬間を逃さず、二発発砲する。この速射能力の高さもこの拳銃のポイントだ。
放った弾丸は狙い通り、CのAK47を粉々に破壊する。
Cは完全に破壊された銃を放り出して、店舗を飛び出し逃走を開始した。
「アーチャー1よりアサシンへ。客が向かった。丁重にもてなせ。送れ」
ポイントAで待機しているアサシンのサーバントに無線を飛ばす。
「アサシン1よりアーチャー1。了解しました。全サーバントに告げる。退避せよ。繰り返す退避せよ」
その場で目を閉じ、耳を塞ぐ。それも、かなりしっかりと。
バン!バン!
と、激しい光と音が伝わってくる。
エレベーターシャフトの中で待機していたアサシンがスタングレネードを使用したのだ。
「ああああああっ!目が…目が…!」
叫びながらCが床を転がっている。それをシャフトから出て来たアサシンのサーバントがMP5を構えて取り囲んでいる。目が見えないだけではなく、しばらくは耳も聞こえないと思うよ。
この勝負、俺たちの勝ちだ。負けることは有り得ないとされてる勝負だけどな。
「キャスターより全サーバント。状況を報告せよ」
小暮隊長からの無線が飛んでくる。
それぞれが順番に返答するが、第一班の班長である俺は最後だ。セイバーにガラスの破片での軽傷者は出たものの、それ以上の損害は出ていないことを確認する。
負傷者が出たのは遺憾だが、任務は完遂した。
前述のように、俺たちの仕事はここまで。俺たちに捜査権は無いから、後のことは丸投げだ。
『任務、終わったよ』
『今夜もお仕事お疲れ様!』
『ゆみちもお疲れ様!もう家には着いた?』
『うん。今帰り着いたよ〜。明日の朝は早いから、今日は早々にお風呂に入って寝るよ』
『ええなぁ〜。一緒に入りたい!』
『エッチ!!!!!!』
『癒しを求めてるだけやん!』
『じゃあ…、明日、お家に着いたら一緒に入ろうね?』
パトカーに戻って彼女とそんなやり取りをしていたところ
「やっさん。終わった直後に悪いんやけど、もう一件頼むわ」
小暮隊長に声を掛けられる。
相変わらずやる気の無さそうな声だが、いつに無く緊迫してるのがわかる。
やはり、こっちは囮だった。感じていた違和感は本物だった。
ランサー、ライダー、ルーラー、ギルガメッシュの四班をどこにでも移動できる場所で待機させておいたのは正解だったな。
「すぐに向かいます」
言いながら、ヨシキと共にパトカーに乗り込む。
「移動一号より遊撃隊移動各局へ。ランサーたちがお困りのご様子やから、パーティーに飛び入り参加しに行くぞ!」
ヨシキが無線で告げている。
その隙に…
『もう一件お仕事やわ。ゆっくり休んでな。おやすみ!』
『うん!明日が待ち遠しいな!おやすみなさい!』
『俺も待ち遠しい』
『ひできち、愛してる』
『俺も愛してる!』
というやり取りも済ませておく。
明日に備えて今夜は仮眠を取りたかったけど、長い夜になりそうだ。