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題名やサブタイトルをコロコロ変えてすみません。
なんか、納得行くのが見つからなくて…。
今以て、題名については悩んでます。
遅くなりましたが、追加をしました。
「遊撃隊移動一号より指令部。2301時臨場。2302時より着手とする。以上」
ヨシキが作戦指令室に現場到着を報告する。
専門用語になるが、現場に到着することを「臨場」と言う。
同じように「着手」というのは、作戦行動を行うことを意味する。
俺たちは日常から私服で勤務しているわけではないが、かといって通常警察官と同じ服装で勤務しているわけでもない。俺たちが日常的に着用しているのはいるのは、機動隊と同じ服装。つまりは「出動服」と呼ばれる制服で勤務に臨んでいる。
しかしながら、その出動服には「大阪府警 第三機動隊」の紋章が付いているだけで、遊撃隊を示すバッジ類は一切取り付けられていない。
なぜ、せっかく秘匿性の高い専用の覆面パトカーを用意しているのに、私服で仕事をしていないのか?
ごく簡単な理由である。
俺たちは刑事ではないからだ。
容疑者、被疑者、現行犯を逮捕する権利は有るが、捜査権は有していない。
俺たちの仕事は、制圧。そして救助。これに尽きる。
そして、テロも凶悪事件も発生していない時には、交通警察や方面隊(地域によっては自動車警ら隊とも呼称されるね)のお手伝い。これで一日が終わってくれることをいつも願っているが、叶えられたことは少ない。
パトカーを出来るだけ野次馬の目に触れない場所に移動させる。
これにもちゃんと意味はあるが、追々説明して行こう。
結局のところ、俺たち遊撃隊の面々は隣接する一般利用客用の駐車場に陣取る事になった。
移動した先で俺たちの長である隊長殿と合流する。
我らが特殊機動遊撃隊第1小隊の隊長殿、小暮謙一警部補のご登場。
一人一人に挨拶をされ、軽く飄々とした表情で返事をしながら、俺とヨシキの元に歩み寄ってくる。
気付かないフリをしながら、トランクを開ける。中にはトランクスペースの半分を潰している巨大なジュラルミンボックスが固定設置されていて、俺とヨシキが管理する12桁のコードが無ければ蓋は開かないという厳重な電子ロックが取り付けられている。
拳銃と警棒は常に身につけている。鉄鉢(鉄ヘルメット)は後部座席に置いてあるが、それ以外の装備は全てこの中だ。
内容としては、拳銃用の予備弾薬。機関拳銃用(H&K社製 MP5A5)が二挺。自動小銃(SIG社製SG551SWAT)が二挺。と、それぞれの弾薬などが収められている。
なので、必要以上とも言えそうなほどの厳重なロックを施しているわけだ。
俺は迷わずSG551を手に取り、タクティカルライトやドットサイトのチェックを行う。
「やっさん…。今回のコレ、どう思うよ」
小暮隊長は俺に尋ねてくる。
「どうもこうも…。上手くトラップに掛かったおバカってとこですか?」
実際のところ、俺たちはこの事態を予想はしていた。していたので、いろんな銀行の目立つ支店や、お金をたくさん保管してそうな支店に罠を張り巡らせていた。
その中でも、俺とヨシキが一番掛かって欲しくなかった罠が、この「あべのハルカス」なのだ。
火災警報器が鳴り響いてるビルでエレベーターはちょっと…。
ましてや、停止しようとするフロアが、まさにその火災報知器が鳴っちゃってるフロアだし。
エレベーターが到着するや、待ち構えていた犯人たちに蜂の巣にされるなんてシャレにもならんしね。
「もう少し低層階のビルで、事を起こしてもらいたかったもんですね」
「それは捕まえた時に本人たちに言っちゃってよ」
俺の肩をポンポンと叩きながら、去って行く小暮隊長。
あ…。この時点でやはり突入するのは、俺たちの班だってことに決定してるのね。
俺たちの班は、総勢六名で構成されている。
この六名だが、任務中は本名で呼ばれることは無い。
まず、特殊機動遊撃隊は三交代勤務であり、それぞれに「一係」、「二係」、「三係」と呼称される。
俺たちが所属するのは、「二係」。
係だが、任務中は「二係」とは呼称されない。
そして、それぞれの係の中には「班」がある。この班も作戦行動が行われている間は
「アーチャー」、「セイバー」、「ライダー」、「アサシン」、「ランサー」、「ギルガメッシュ」などと呼称される。
例えば、俺の場合だと…。俺は第二係第一班の班長。という役割を与えられている。
なので、俺は現場では「アーチャー1(ワン)」と呼ばれる。
ヨシキがアーチャー2。俺の班は六名編成なのでアーチャー6までが存在する事になる。
ちなみに、作戦(状況)と取り仕切る指令本部は「アベンジャー」と呼称される
また、個別にコールされるときは「アベンジャーよりアーチャー1へ」となるわけだが、全員に対してのコールの場合は「アベンジャーより各サーバントへ」というようにコールが飛ぶ。この「アベンジャー」には十名の女性オペレーターが常駐していて、監視カメラや熱源探知などのモニターを行い、俺たちサーバントにターゲットの位置を報せてくれる。どうでも良い事だが、このオペレーターたちの声が痺れるほど可愛い。どうやら俺は声フェチだったらしい。という事実に、遊撃隊に所属してから気付いた。
いや、重度の声フェチである事は否めない事実とも言えるな。
そう言えば、前の嫁の声には全然そそられた記憶が無い。うん。エッチの時の喘ぎ声にさえも興奮しなかったな。よくもまぁ、そんなんで十年以上も付き合って来れたもんだと、自分に感心してしまう。
また話が逸れたので、元に戻そう。
拳銃は常にレッグホルスターに収めているが、弾丸の数と予備弾倉の確認を行う。コレは各パートナー、俺の場合だとヨシキと互いの拳銃や予備弾倉をチェックし合う。それと同時に装備品のチェックも行う。防弾アーマーにも綻びが無いか、問題無く装備されているかを確認するためでもある。命懸けの現場ではあるけれども俺たちは命を捨てに行っているわけではない。生きて帰るために必要不可欠な作業だ。
ヨシキとお互いの拳銃を交換する。前述した弾薬の確認を行うためだ。ヨシキと俺は基本的には同じ拳銃を使用している。「キンバー カスタム2 ウォーリア」が俺の拳銃。コルト1911をベースにカスタムされた四十五口径ACP弾を使用する、通称『ハンドキャノン』と呼ばれるほどに強力なマンストッッピングパワーを誇る。ピカティニーレールを装備しているので、俺はそこにシュアファイアを装着している。
ヨシキの拳銃は同じキンバー社製ので、基本的には同じだが俺の「ウォーリア」とは少し仕様が違い、「ストライク」と呼ばれるモデルになる。拳銃としての性能にさほど違いはないが、ストライクはウォーリアと違い、サープレッサー(消音器)を取り付けることが出来ない。その代わり、マズル(銃口)部分にスパイクが取り付けられていて、その部分でターゲットを殴る(いや、『抉る』が正しい表現かもしれない)事や、自動車のフロントガラスさえも突き破ることが可能となっている。
ヨシキの装填弾数十三発とセーフティーを確認し、同じように確認を終えたヨシキとお互いの拳銃を手渡し合う。
「お前のストライクって、いつ見ても凶悪な見た目やな。とても法執行官が使用する拳銃には見えんわ」
「そうか?俺の目にはお前のウォーリアの方が暗殺者っぽくて、陰湿なイメージに映るけど?」
お互いの拳銃を罵り合う。これは飽きもしないいつもの光景だ。
そう言いながら太もものレッグホルスターに拳銃を収め直し、フェイスマスクを装着して夜間用シューティングゴーグルを掛ける。これで俺たちの顔は誰からも見られることはない。
遊撃隊という部隊はかなりの隠蔽体質だ。俺たちが遊撃隊の隊員である事は府警本部内部でもごく一部の人間しか知らない。その人員の詳細は極秘として扱われている。
とは言え、専用の覆面車に乗ってる姿を見られたらすぐにバレるので、この極秘扱いが何処まで通じているのかは些かの疑問が残るのも、また事実なのだが…。
ヨシキとともにメインウエポンのSG551を手に隊長の待つ指揮車両に向かう。
小暮隊長。この人だけは俺たちと違い顔を隠す事はない。場合によってはマスコミの前にも顔を出す。
続々と集まってくる隊員たちを目に「さてさて、始めますかね…」と指揮車両のランドクルーザーのボンネットからずり落ちるように地面に降り立ち、踵でタバコを揉み消す小暮隊長。いつも飄々としていて、やる気があるのか無いのかもサッパリわからない。作戦を説明するのは俺かヨシキに放り出すのはいつものことだが、行動を開始すると性格が一変する。どう説明すれば良いのか俺の持つボキャブラリーでは説明しきれないのだが、口調は変わらないが、懐の奥に潜ませた研ぎ澄まされた刃が牙を剥く。そんな感じなのだ。
「ほな、アーチャー1。説明頼むよ」と言いながら、ブリーフィングを行うモニター車に乗り込んでいく。
やっぱりだ…。やっぱり俺に振ってきたよ。この人は…。
それに続きながら俺たちもモニター車に乗り込む。
「では、これよりブリーフィングを開始する。まずは概要をアベンジャーに説明してもらう。各員聞き漏らすな。アベンジャー、概要を送れ」
…そうだよ。俺もアベンジャーに丸投げしましたよ。
簡単にだが、概要を説明する。
2245時(言ってしまえば、午後十時四十五分)あべのハルカス十八階金融フロアより侵入者警報が発報。
同時刻に火災警報も作動。
同ビル警備会社の警備員がモニターで確認を試みるが、画面は砂嵐状態。この時点で警察へ通報。
ビル外部より同フロアを目視するも、煙や火の類は確認できず。
同フロア北側の階段室からの侵入警報後、ドアの開閉はなく、俺が飛ばした指示通りにエレベーターは停止階を限定し、ホテルフロアから避難する宿泊客のみの移動に稼働する。
それと同時に所轄の天王寺警察署の警察官が宿泊客や利用者の避難を誘導しながら、同ビル地下から二十五階までの出入口を全て封鎖。
警察官を三名ずつ配備。警察官の到着までは同ビル警備員が警戒していたが、十八階からの出入り者は皆無。
熱源感知では、四名の人間が中にいる。
二名ずつの二組に分かれて銀行と証券会社の支店内部に侵入していることがわかっている。
それぞれを「グループA」と「グループB」と呼称する。
発砲などは発生していないが、AK47と思われる火器を所持してる模様。
火災警報は侵入の際に用いられた炸薬の熱に反応したと思われる。
職員は既に全員が退社済みであり、人質と思われる熱源は感知していない。
ここまでがこの事案の概要だ。
詰まる所、俺たちは突入してこの四名を制圧し現行犯逮捕することが任務だ。
所持している武器からして、資金集め目的のテロリストグループの下っ端だろう。
最近じゃ、平和ボケしていた日本でもこんなテロ事案が多発するようになっており高度経済成長期の学生運動の如く、暇を持て余した学生がテロ活動に参加していることも多いのだが、今の学生テロリストたちはゲームの世界で勧誘されてゲームの中で訓練を受け、実戦経験も犯罪を犯している実感も持たないままにゲーム感覚で人殺しを含んだこのようなテロ活動に手を染めてしまうことが多いから、始末が悪い。
俺が学生だった頃は、まだインターネットが普及して一般家庭にも広まり始めた直後だったし、スマホやタブレットなんて販売はおろか、開発さえされていなかったと思う。携帯電話にカメラが付いて驚いていたくらいだし。
そう思うと、今の学生が簡単にテロリストに勧誘されてしまうのも可笑しくないと思えなくもない。
しかし、どういう理由があろうともコレは立派な犯罪だ。
「やってはならないことをしたら、お仕置きされる」
それを身を以て教えてやろうじゃないか。
ブリーフィングを終えて、各サーバントに告げる。
「今回は屋内戦や。弾丸はソフトポイントを使う。フルメタルジャケットは許可するまで使用するな。跳弾に当たって殉職なんてまっぴらやし、俺はそんな理由で部下が二階級特進なんて認めへんからな」
基本的に、警察組織は貫通力の低いソフトポイント弾を使用している。
人質救助という任務があるため、フルメタルジャケットでターゲットを撃ち、その弾丸が貫通して後ろにいた人質に当たったりしたらシャレにならないからだ。
それと、屋内での銃撃戦が想定される場合、フルメタルジャケットだと鉄骨に当たって跳ね返ってくることも有り得る。その弾丸がピンボールのように跳ね回ることを「跳弾」と呼ぶのだが、何処に飛んでいくか予想もつかないので、鉄骨に当たるとその場で潰れるソフトポイント弾を使うのが一般的だ。
ただし、昔と違い状況によっては警察でもフルメタルジャケットを使用することもある。
自衛隊や軍隊ではフルメタルジャケットを使用するのが当然であり、警察はソフトポイントを使うのが当たり前だったのだが、様々な事案が発生する昨今では、警察もフルメタルジャケットを使用することも有るので、俺たちの部隊では、必ず予備弾倉一つ分のフルメタルジャケットを携行している。
遊撃隊の場合、拳銃の予備弾倉だとソフトポイントがステンレス製。フルメタルジャケットはスチール製。
機関拳銃や自動小銃用の予備弾倉ではフルメタルジャケットの予備弾倉にはブルーのテープを巻きつけて、それぞれに区別するようにルールを徹底している。
全員の装備を改めて確認。問題無し。
「さてさて、行きますかね。班長さん」
「行きましょうか。副長さん」
ヨシキと拳を合わせる。突撃前の何時もの挨拶だ。
と。
アーマージャケットのサイドポケットに入れていた私用のスマートフォンが震える。
当然のことだが、マナーモードだ。
状況の途中で携帯が鳴って殉職なんて、シャレにならないどころではなく、それだけでニュースになってしまいそうな不祥事だからな。
しかし、携帯電話を保持したまま任務に就くのは、最近ではごく普通だ。
さすがに無用の長電話は禁止だが、家族や恋人、友人と話すことは禁止していない。
無線や警察専用携帯電話(通称Pフォン)が不測の事態で使えなくなった時に役立つ事もあるので、むしろ私用電話を所持していることは奨励している。簡易の追跡装置としても使えるしね。
ポケットからスマホを取り出すと、LINEのバナーが表示されていた。
「お仕事、終わったよ。これからタクシーで帰るね」
送信者名は『ゆみち』。
俺の恋人だ。
世の中で彼女のことを『ゆみち』と呼ぶのは俺だけだ。
俺だけがそう呼ぶことを許されている。
遠距離恋愛であるが故に、毎日動きがあるごとにメールを送り合うようにしてる。
「明日の朝、ひできちと一週間ぶりに会える!すごく楽しみ!!」
続けざまにメールが届く。
…ちなみに、俺のことを『ひできち』と呼ぶことを許可しているのも、彼女だけだ。
なので、俺はすぐに
「任務中。終わったらすぐに連絡する」
とだけ、返信する。
そうしたら
「ご武運を!」
と一言だけ返信が届く。
この後、俺が連絡するまでは彼女からのメールは来ない。
それが決まりとなっている。
ヨシキが横から俺のスマホを覗き込む。
「お。ユミカちゃんからか?」
「そうや」
「ラブラブでよろしいねぇ」
「やかましい」
これも、いつもの光景だ。
「行くぞ!野郎ども!!絶対に死ぬことは許さんからな!全員必ず戻れ!!」
俺の一言と仲間たちの雄叫びとも言える返事と同時に、突入を開始する。
さぁ、今夜のパーティーを始めようやないか。