岩手 後編
マルコがニシノに向き直った。
「勝負しても構いませんが、コースはこっちが指定したい」
するとニシノは、ふっふーん、なるほどね、と口の中でつぶやいた。
「……いいわ。 ただし、こっちの条件も飲んでもらおうかしら。 開始時刻は深夜にして、スピードの制限は設けない。 いい?」
……!
こっちの意図を読んでやがる。
ところが、マルコはそれでいい、と言った。
俺たちは近場の旅館、丹野に予約を入れ、0時になるまで時間を潰すことにした。
丸中から車で2分のところにあり、見た目は黄色い2階建ての建物だ。
6畳の部屋に通され、マルコとそこで打ち合わせをする。
「出来るだけコーナーを増やした方がいい。 ランボルギーニは横幅があるから、EKワゴンより曲がる際の半径が大きくなる」
……そういうことか。
性能で劣る分、こっちは小回りが利く。
マルコは、スマホで地図を出し、升目状になっている地帯を拡大した。
「交差点を、右、左、左、左、右、右、右、右、とすれば、スタートで抜かれても、クランクで巻き返せる」
「了解」
時刻は23時55分。
既にニシノの車が路肩に止まっている。
「コース決まった?」
「ああ、スマホで教えるから、こっちに来てくれ」
マルコがコースを伝えたのを確認し、俺はゆっくりと開始線の前に車をつけた。
車の性能のハンデを考慮し、俺が外側を陣取る。
向かいと合わせて2車線だが、この時間、他の車は一切走っていない。
開始まで後20秒。
隣のランボルギーニがエンジンをふかす。
グオオオオン! という獣が唸るような重低音だ。
後、5,4,3,2,1……
「らあっ!」
アクセルを全開で踏み込む。
スタートはほぼ同時だったが、全く伸びが違う。
即座に抜かれてしまった。
「……想定内だっての!」
交差点を右、左と曲がる。
ここで、予定通り2台は平行した。
内側を陣取っているのは俺で、ここから左3回で一気に差をつける。
開いた距離は10メーター。
ラスト4回のコーナーで、更に20メーターの差をつける。
最後の直線で、俺はあることに気が付いた。
「……オイッ!」
ゴールまでの直線距離はおよそ200メートル。
この車の最高速度が時速100キロだとすると、かかる時間は7秒だ。
対するランボルギーニは時速300キロは出る。
かかる時間は2,4秒。
少なくとも、400メートルの差がついてなければ厳しい。
「……」
EKワゴンだから、負けるのは仕方ない?
……ふざけんな!
EKワゴンで勝って、完膚なきまでに叩きのめしてやる。
俺は、ロックを解除して思い切り扉を蹴った。




