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希望を紡ぐ物語巻末

 二ヶ月前、俺はここにこんな気持ちで立つことになるとは微塵も思わなかった。


「行っちまうんだな。ゴルドンさん」

「あぁ、これでも我が輩は国の王。民が待っておる」


「そっか……」


 寂しくなるな。とは言えなかった。

 そんなのはただの俺のワガママだ。


 魔王が倒れて平和になったため、召喚契約が解除された。その結果、この世界に呼び出された勇者指導官達がちらほらと元の世界へと帰り始めた。

 ゴルドンもその中の一人という訳だ。


 というか、ゴルドンさん相手に寂しくなるなんて、本当に思ってもみなかったな。


「寂しくなるな。宗一殿。お主ほどの筋肉の持ち主はそうおらぬよ。後でシエラに聞いたが、リコ嬢の封印魔法に突っ込んででも魔王を止めて、時間を稼いだとか」

「大げさだって。でも、そうだな。俺もゴルドンさんみたいに良い人はなかなか知らないよ」


「心残りは宗一殿に負け越したということだが、今度は勝てるように筋肉を鍛えてくる。いつの日か再戦しよう」


 そんな日が本当に来るかどうかは分からない。

 でも、ゴルドンさんはいつものように握手を求めてきた。

 その手を俺も握り返して、いつものように笑って返す。


「次も俺が勝つさ」

「ふっ、そうこなくては。ではな。宗一殿」


「あぁ、また会いましょう。ゴルドンさん」


 握手を放すとゴルドンさんは転移陣の上に乗った。

 もう、数秒したらきっとこの世界からは跡形も無く消える。


「ゴルドンの旦那ぁぁぁぁ!」


 そんな最後の時に、シエラが部屋に飛び込んできた。


「あたい! もっと筋肉つけます! それでいつの日か、ゴルドンの旦那に勝ちます! だから! だから! また私と戦って下さい!」

「シエラアアアア! この大馬鹿者がぁああああああ!」


「ひっ!?」

「当たり前のことを言うな! 当然だろう! 弱くなってたらまた鍛え直してやるから覚悟しろ!」

「はいっ!」


 シエラの返事にゴルドンは人懐こい笑顔を見せると、青い光に消えていった。


「行っちまったな」

「はい……」


「意外とあっけないもんだな……」

「……はい」


 シエラは聞いてこない。

 きっと一番聞きたいことは別にあるんだろう。


「俺は……まだ帰れないよ。あの後、レンカとまだろくに会えてないから」


 魔王を倒したレンカは王様とともに各地を巡って、戦いが終わったことを報告している。

 シエラが先に帰ってきたのは、今日ゴルドンが立ち去ることを聞いたからだそうだ。


「あぁ、レンカなら多分そろそろ帰ってくると思うっすよ?」

「え? なんで? 凱旋旅行中じゃないのか?」


「今日はお休みなので、多分そろそろリコと一緒に――」


 シエラの言葉の途中で扉がバン! と開かれた。


「ゴルドンさんは!?」


 レンカが息を切らせて飛び込んできた。


「行っちゃった。旦那らしい別れだったよ」

「そっか……。あ! 先生!」


 そして、俺に気付いたレンカは俺の前に立って、ビシッと姿勢を正した。


「おかえりレンカ」

「ただいまです。といっても、抜け出してきただけなので、またリコちゃんの転移魔法で戻らないといけないんですけどね」


「大変だな。希望を紡ぐ物語の主人公は」

「や、やめてくださいよ。恥ずかしいです。というか先生、本当にあれ本にするつもりなんですか!?」


「そりゃ、そうだ。愛弟子の活躍した英雄譚なんだから、当然だろ」


 俺がまだ帰らない理由は、レンカの活躍をまとめていたからだった。

 レンカの生まれた故郷の話しや、他の勇者候補生の話や、指導官からみたレンカの印象など、色々な情報を集めていた。


 レンカについていきたかったが、その間に帰ってしまう人が多すぎたんだ。


「でも、今回はその話がしたいんじゃないんだろ?」

「はい。お願いがあります先生」


「闘技場でするか?」

「いえ、いつもの倉庫小屋の前が良いです。先生とはいつもそこだったので」


 俺達のやりとりにシエラは疑問符を浮かべている。


「宗一の旦那、何するんすか?」

「卒業試験……かな?」


 もうこの学園の目的は果たされてしまったけど、かなり突発的で、事故的な目的の達せられ方だったので、綺麗に区切りはつけてあげたい。


「それと、採用試験かもしれませんよ?」

「へ?」


 さすがに採用試験は俺も予想外だった。


「どういうこと?」

「えへへ、内緒です。まずは私の卒業試験からですから」


「ん? うん」


 俺も少しだけ意味が分からないまま、レンカとともに暮らす小屋の前に出向いた。

 そして、お互いに何も言わないまま、木の剣を抜いた。


「卒業試験って模擬戦っすか!?」

「うん。シエラ審判頼む」


 シエラに審判を頼んだ俺は真っ直ぐレンカを見つめた。


 最初のおどおどしていた雰囲気も、自信の無さから無理した様子もない。

 自信が溢れ出ていて、落ち着いた笑顔を見せている。


 さすが、戦王レンカと名乗っただけはあるなぁ。


 思わず俺は笑っていた。強くするって言ったし、強くなるって言ったけど、まさかこんな速く、レンカが世界を救った英雄になったなんてな。


「レンカが最初の方に言った言葉覚えてるか? 失望していないかって」

「あはは……覚えています。今思うと恥ずかしいですね」


「強くなったな。俺の言葉を証明した所じゃ無くて、俺の言葉を超えて、結果を残したよ。本当によく頑張った」

「先生が私を信じてくれたからです。落ちこぼレンカだった私を見捨てずに、見てろと言ってくれた先生のおかげです」


「今じゃ、戦王レンカだもんな」

「もー、先生は意地悪です。そんなこと言ったら、先生だって職業的には戦王じゃないですか」


「魔王を倒したのはレンカだからさ」


 懐かしさでフッと笑ってしまったけど、そろそろ本気にならないといけない。

 本気で勝つ様々な想像をしなければ、レンカには勝てない。


「卒業試験の合格条件はただ一つ。俺に一撃入れること」

「簡単なように聞こえて、一番難しいですよね」


「これでもレンカの先生だからな」


 先生としてまだ負けたくは無い。

 別に理由なんてない。ただの意地だ。

 レンカの先生として、レンカよりも強くありたいだけのプライドだ。


「分かりました。なら、私からも伝言があります」

「ん?」


「これからも魔物が出没しますし、脅威にさらされている国はたくさんあります。そこで、王様はこの学院を開放して、人を守る勇者を育てる学校にしたいみたいです。そこの先生になりませんか? 他の地域や国の人に採用試験を受けて貰ったのですが、今の所合格者がいなくて」

「採用試験の内容は?」


「私に一本入れることです」

「ぷっ! あははは!」


「た、確かに先生相手にあまりにも緩い条件だと思いますけど、そんな笑わなくても!?」

「いんや、違うよ。そうじゃない」


 そんなこと出来る人間がどれだけいるんだよ?


 仮にも魔王を倒した勇者、戦王レンカだぜ?


 育てた俺ですら、レンカから一本綺麗に取るのはもう難しいぞ。

 今じゃステータスはオールSになって、ますます手がつけられないんだからさ。


 そんな相手に一本取ることが採用試験の合格条件だなんて、あの王様もメチャクチャ言ってくれる。

 よっぽど日本の就職活動の面接の方が楽なんじゃないか?


「難しい試験を告げられて、あまりの無理難題に笑っちまったんだよ。今までのどんな相手より戦い方を考えるのが難しい」

「えへへ……。私は先生の弟子ですから」


 そして俺はそんなレンカの師匠だ。


「もちろんレンカは手加減をしてくれないんだろ?」

「先生だってしてくれないんですよね?」


「真剣に戦わないと、レンカには届かないからな」

「私も真剣に戦わないと先生には届きませんから」


 お互いの目を見て、俺達は同時に笑った。

 そして俺達はシエラの合図を待たずに、全く同じタイミングで地面を蹴った。


「俺の想像する最強で!」

「私の想像する最強が!」


「レンカ! お前を!」

「先生の背中を!」


「超える!」

「超えて並びます!」


 俺達の声と剣の音が重なった。

 その後、俺がどうなったかって?

 それはまた今度話すよ。だって、このお話は希望を紡ぐ少女の物語なのだから。

お楽しみ頂きありがとうございました

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