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希望を紡ぐ物語

 身体が熱い。先生と初めて一緒に戦えることが嬉しくて、ドキドキする。

 シエラちゃんとリコちゃんもいてくれる。

 ゴルドンさんとエルマさんが私達の代わりに、ガンドとかいう偽物の戦王を食い止めてくれている。

 みんなが私の力になってくれている。


「レンカ、俺もさっき言い忘れていたことがあるんだ」

「何ですか?」


「俺はレンカを信じてる。レンカの努力と真っ直ぐな所を信じてる。レンカの手に入れた仲間を信じてる。だから、思いっきり俺の前を行けっ!」

「はいっ!」


 私の前に先生はいない。

 少し前の私なら、何をすれば良いのか分からなくなっていたと思う。

 強い人を前にして、不安で押しつぶされていたと思う。それで目の前が真っ暗になっていただろう。


 それが、今度は世界を滅ぼした伝説の魔王が相手なんだから、怖くて仕方無いはず。


 でも、全然怖くない。どうやったら勝てるかって考えばかりが浮かんでくる。

 先生は私の後ろで背中を守ってくれている。

 そんな私の前にはシエラちゃんがいる。隣にはリコちゃんがいる。

 それだけで、私は何が相手でも勝てる気がした。


「先生! 背中はお願いします!」


 だから、私はひたすら前を向いて、真っ直ぐ進むんだ!


「シエラちゃん私に合わせてください! リコちゃん大技をお願いします!」

「おうさ!」

「ん、任された」


 シエラちゃんと同時に飛び出し、左右に分かれた。

 魔王に狙いは絞らせない。どっちが狙われても、その隙を片方が突く。

 どっち? 私かシエラちゃんかそれともリコちゃんか、誰に来る?


「あくまでも刃向かうというのなら容赦はせぬ!」


 狙いは私の方! 魔王が剣を振りかぶって私に向かってくる。

 なら、人形と一緒に全力で受け止めてシエラちゃんに任せる!


「レンカ! そのまま突っ込め!」


 先生が私の前に飛び出し、そのまま魔王へと突っ込んだ。

 剣と剣がぶつかり、甲高い音ともに火花が飛び散る。

 先生が止めてくれた僅かな時間を、絶対にムダにしない! するもんか!


「シエラちゃん今です!」

「いくぜレンカ!」


 私は跳躍し先生の背中を超える。シエラちゃんは姿勢を低くしてハンマーを振り始めた。

 いつかは喧嘩した原因になったけど、今では私達の連携技だよ。


 先生だってこの技に挟まれたら、逃げるしか無いんだから!


「「Xクラッシュ!」」


 私とシエラちゃんのかけ声で先生がその場から下がり、私の刃が魔王の首を、シエラちゃんのハンマーが魔王の腹を襲う。

 爆発のような耳をつんざく音がした。


「この俺に傷をつけようなど百年早いわっ!」

「っ!? 止められた!?」


 私の刀も、シエラちゃんのハンマーも片手で受け止められた。


「ぬおおおおおお!」


 そして、そのまま私達は左右に弾き飛ばされた。

 あの灰色の皮膚が金属みたいに硬いんだ。私は僅かに傷をつけられただけだし、シエラちゃんですら、少し凹ませられただけ。


 物理攻撃はかなり効きづらいのかも。


 なら、魔法はどうだ!


「フレアボール!」

「遅いわ!」


 私の放った魔法が魔王に避けられて後ろへ飛んで行く。

 あんなに硬い上に速い。


 遠距離から魔法を当てるのは難しそうだ。


「受け取ったよレンカ!」


 なら、近距離からぶつければ良い。

 私の魔法をシエラちゃんのハンマーが受けて、炎を帯びる。

 三人で特訓した時に、連携技だって磨いたんだ!


「レンカ!」

「先生!」


 そして、私の後ろから先生の声がした。

 先生ならきっとこうする。だから、私は刀を上げて待つ。


「ライトニングボルト!」

「受け取りました!」


 先生の魔法を刃で受け取り、シエラちゃんともう一度合わせる。


「雷切り!」


 私は雷を帯びた閃光のような一撃を魔王に放った。

 そして、シエラちゃんも。


「バーンプレス!」


 炎の塊を鉄塊とともに魔王に叩き込んだ。


「ちぃっ! こざかしい!」


 また腕に防がれたけど、今度は効いた。

 さっきは弾かれた刃が通っている。

 これなら、私達でも倒せる!

 もう一撃、今度はあの首に叩き込んで終わらせるんだ!


「雷切――」

「吹き荒れろ! 我が暗黒の炎よ!」


「きゃっ!?」


 魔王から出た黒い風が私の身体を吹き飛ばし、全身に痛みがはしった。

 あっつー……。さっきのは闘気による魔法かな?

 でも、ちょっとやられたけど、これで魔法は効くって分かった。


 だから、今度はもっと強力な魔法を叩き込む!


「シエラちゃん!」

「あいよ!」


 赤い宝石を握った私を見て、シエラちゃんも赤い宝石を取り出した。


「「ドラグフレア!」」


 竜の炎で暗黒の炎を吹き飛ばす。

 そして、そのまま焼き尽くすんだ!


「ぬるいわ! この俺に竜の炎など火遊びにもならん!」


 魔王の叫び声で黒い炎が私達の竜の炎を弾き飛ばす。

 黒い炎を脱いだ魔王の身体に、私とシエラちゃんの炎は傷一つつけられなかった。


 強い。私達の攻撃がほとんど効かない。


 戦王様はよくこんな魔王相手に勝てたなぁ。


 でも、勝てたんだもんね。なら、私が諦めるには速すぎるよね?


「この光は!? ぐあああああああ!?」


 魔王が私達の前で突然光に包まれた。 

 だって、私達の狙いは最初からこれだったんだから。


「レンカ、シエラ、良い時間稼ぎだった。後は任せて。塵一つ残さない。エレメンタルエンド!」


 リコちゃんの頼もしい声が聞こえる。

 私は一人じゃ無い。頼れる仲間がいるんだ。私が届かなくても、仲間が届いて勝てれば良いんだ。


 魔王を飲み込んだ光が空間を削っていて、周りの瓦礫や土煙を吸い込んでいく。


 膨大な魔力が一箇所に留まっているせいで、空間が歪んでいるんだ。

 水が低いところに落ちるように、リコちゃんの魔力が空間に歪みをつくって、全てを飲み込む光を生み出した。

 あれがエレメンタルエンド。って、よく考えれば、あんなのを私は試験の試合で食らいかけたんだ……。リコちゃんと戦っていた時って実はかなり危なかったのかもなぁ。


 私とシエラちゃんはリコちゃんのエレメンタルエンドに賭けていたけど、こんなに上手く行ってくれて良かった。


「ぬおおおおお! 許さぬぞおおおおお!」

「空間を引き裂いた!?」


 世界を歪める光が割れて、中から魔王の灰色の腕が伸びてくる。

 あんな魔法を食らっても生きているなんて、一体どんな身体してるの!?


 あっ、でも、無傷では無いみたい。


 伸びてきた腕が血まみれだ。

 このまま光の中に押さえ込めれば、倒せるかも知れないけど、一体どうやって押さえ込めば?


 あの手を人形乱操ソウルジャックで押しとどめようにも、私がエレメントエンドに巻き込まれて、押しつぶされちゃう。

 何か手段は無いのかな? と思っていたら――。


「そのまま朽ち果てろ! アルゴノード!」

「先生!?」


 先生が伸びてきた魔王の手を掴み止めていた。


 強引に力でねじ伏せに行ける力ではないはず。あ、先生に糸はついていない。


 人形乱操ソウルジャックで無理矢理押し込もうとしているんだ。


 でも、エレメンタルエンドの真正面で魔王の腕を受け止めているせいで、先生の身体に真空の刃で傷が刻まれ出した。


 何やってるの先生!? そんなことしたら、先生が危ないよ!?


「レンカ! 想像しろ! お前が考える魔王を倒すための方法を! 俺がお前の最強の想像を完成させる時間を作る! やっぱり対異界の勇者結界のせいか人形乱操の効果が薄い!」

「人間風情があああああ!」


 血まみれの腕から黒い炎が放出され、先生を飲み込む。


「レンカ! 信じてるぞ!」


 先生の笑顔が黒い炎にかき消された。

 ダメ! 先生が死んじゃう! なんでこんな無茶なことをするの!?


「宗一の旦那あああああ!」

「宗一先生!?」


 シエラちゃんとリコちゃんまで心配かけて!

 私が――私が先生を助けるんだ!


「リコちゃん! エレメンタルエンドをもう一度お願いします!」

「でも、今ここで使ったら宗一先生を巻き込む! それに魔力を溜める時間が無いし、私の魔力密度はあれで限界――」


「信じています! リコちゃん! シエラちゃん!」


 無茶を言っていることは百も承知だ。

 でも、ここでやらないと、先生が死んじゃう。

 私の大好きな先生がいなくなったら、魔王がいなくなっても、私は嬉しくないよ!


 そう思ったら私の足は止まらなかった。私の妄想が止まらなかった。私の腕が止まらなかった。


「うおおおおおおりゃあああああ!」

「レンカ!? お前何をやって!?」


 私は先生が掴む腕ではなく、エレメンタルエンドの輝きに剣を突き刺した。


 大切な人が傷ついているのを止められなくて、何が戦王の生まれ変わりだよ。


 このまま先生を犠牲に魔王を倒せても、私は自分を誇れない。


 でも、今だけは勇気が少しでも欲しいから、私はその生まれ変わりを使ってこの状況を打開する。


 戦王の魂が私に宿っていなくても良い。


 私は戦王レンカを演じるんだ!


「私の名は戦王レンカ! 全ての武と魔を束ね、魔王を滅する者なり!」


 私がエレメンタルエンドの光を切り裂き、先生と魔王を破壊の光から解き放った。


「バカな!? この短期間の間に覚醒めざめただと!?」

「私が紡ぐのは想い! 皆の想いが私を通して力になる!」


「殺してやるっ! 戦王めえええ!」


 魔王が私の顔に向かって手を伸ばしてくる。

 その手に私は刀を突きさすと、魔王の腕が捻れて千切れた。


「なっ!?」

「その刃は大賢者リコの想いを繋いだもの!」


「ぬおおおおお!?」


 エレメンタルエンドの魔力残渣が刀を通じて、魔王の体内に流れ込んだ。


「レンカー! あたいの力も受け取れ!」


 シエラちゃんからハンマーが私に向かって投擲された。


「この力はクロガネの戦士、シエラの想いを受けたもの!」


 そのハンマーを受け取って、私は先生が掴んでいた魔王の残された腕を叩き折った。


「小娘がアアアア! 調子に乗るなアアアアア!」


 魔王の腕が再生した。

 そっか。再生能力まで持ってるんだ。


 どうすれば勝てるんだろう? どんな想像がこの魔王を倒せるんだろう?


 分からない。でも、歩みを止めることも、考えを止めることもしない!

 その答えが見つかるまでは――。


「何度蘇ろうと、私の前に立つ限り、何度だって貴様を滅する! アルゴノード!」


 私は魔王の身体に向かってハンマーを振り抜いて、魔王を弾き飛ばした。


「レンカ! 無理だよ! 七英雄でも封印したのが精一杯だったんだから! 私の魔力だけじゃ足りない!」

「リコ! 七英雄は魔王を封じた者達の称号! 私達はまだ誰も魔王を封じたことがない。私も含めてここに英雄は一人もいない! でも、ここにいる誰もが英雄になれる! 諦めるな! 私達はまだ生きている! 諦めない意思がある限り、私達は英雄候補だ!」


 先代が何を考えたのかは分からない。

 でも、私が戦王ならきっとそういう。私の想像する最強の私ならきっとそう言ってくれる!

 そして、私の先生もまだ諦めていない。


「リコ! お前はまだ伸びる! いくらでも強くなる! その限界はこんなところじゃない! お前はまだ今の自分の限界をしっただけだ! その先の自分を想像するんだリコ! お前は一人じゃない! レンカとシエラと俺もいる!」


 先生の言う通りだ。私達はまだ訓練を始めたばかりなんだ。

 まだまだ強くなれる。今、この一瞬でも、強くなれる。

 私達を強くしてくれる人がたくさんいるのだから!


「よくぞ言ったレンカ嬢! 宗一殿! その心の筋肉の輝き! 人を導く光とならん! ガンドは我が輩らが封じた! 後は魔王のみ! 我が輩の筋肉の疼き! 轟き! 輝きを全てお主に捧げよう!」


 どこからともなく、ゴルドンさんの声が聞こえる。


「筋肉で魔法が撃てたら苦労しないわ。リコ! あなたなら制御出来るはずよ。私の魔法も全て貴方が相殺して、魔力として受け取りなさい!」


 エルマさんの声も聞こえる。


「リコ! 俺達の力もレンカと宗一先生のために、魔法に変えてくれ! どうすれば良い!?」


 他の先生や生徒達が次々にリコに声をかける。


「あんたとは馬が合わないと思ってたけどよ、あんたにならレンカと宗一の旦那を任せられる。だから、あたいの魔力も受け取れリコ!」


 シエラちゃんもリコちゃんに協力を申し出た。

 みんなお願いします。リコちゃんと私に力を貸して下さい。


「リコ! ううん、リコちゃん! お願いしますっ!」

「あぁっ! もうだるい! めんどい! でも、やってやる! みんなあたしの魔法に逆属性の魔法をぶつけなさい! オメガフレア!」


 リコちゃんが太陽を掲げると、皆が一斉に氷の魔法をぶつけた。


「次! オメガエクレール!」


 雷の魔法に対して、皆が大地の魔法をぶつける。


 あまりの膨大な魔力量がリコちゃんに負担をかけているのか、リコちゃんの鼻から血が垂れ始めた。

 ごめんなさい。リコちゃん、絶対にその覚悟はムダにしないから、もう少しの間だけ力を貸して下さい!


「次! オメガダーク!」


 そして、闇の魔法に対して、光が集まって闘技場を照らす巨大な光へと変わる。

 その光がリコちゃんの腕を焼いているのか、リコちゃんの腕からも血が零れだした。


「あー! くそだるい! 受け取りなさいレンカ! エレメンタルエンド!」


 リコちゃんが血を飛ばしながら、杖を振るった。

 巨大な光が小さな球となって私の方に飛んでくる。


 勇者候補百人と勇者指導官九十八人の力が、あの光に集まったんだ。


 落ちこぼレンカだった私が、落ちこぼれを止めてただのレンカになったと思ったら、戦王レンカだなんて自分で名乗って、後でこれ絶対恥ずかしくなっちゃうやつだよ。


「先生、私は不安です。支えて貰えますか?」

「正直なのが良い弟子の条件だ。一緒にやるぞレンカ」


「はい。私は私の想像する最強の私で――」

「俺は俺の想像する最強の俺で――」


 先生が私の後ろから手を回して、一緒に剣を握ってくれた。

 こんな戦いをしているのに、いつものように暖かい優しい手だ。


 私の魔法の糸と先生の糸が混ざり合って、世界が光り輝いて見える。

 目の前には私達を殺そうと黒い炎を纏う魔王が腕を伸ばしてきているのに、全く怖くないや。


「――魔王を倒すための剣を振ります!」

「――魔王を倒すための剣を振る!」


 先生と一緒に剣を掲げると、剣がみんなの魔力を受け止めて、まばゆい輝きを放った。


「なんだその輝きは!? そんなものは知らぬ! そんな輝きは無かった!」


 魔王が死にものぐるいになりながら、私と先生に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。


(僕はその輝きに届かなかった。僕はみんなが倒れ、一人残された時に、死にたくなくて、みんなの動きを真似て戦っただけだ)


 これは戦王様の声?


(でも、君は本当に良い先生と友達に巡り会えた。こうして、みんなが立っている中で、君は君の力に目覚めた)


 私は本当にあなたの転生体なのですか?


(そうだ。僕の魂の欠片を宿している。でも、君は僕じゃ無い。僕よりも強い魂の輝きを持っている。その輝く魂で人と繋いだ想いと、自分で紡いだ想いは君だけの強さだ)


 戦王様は辛かったですか? 自分だけが足手まといだったこと。


(そうだね。だから、僕は英雄になっても自分の職業を隠した。でも、きっと僕が間違っていたんだろうね。僕はもっと人を信じるべきだったんだ。レンカ、君のように)


 私は先生がいてくれました。そして、今も一緒に戦ってくれています。


(うん。僕の魂を分け合った二人なら、いや、君達二人が紡いだ糸で繋がった人達ならば、あの闇を打ち払えるはずだ。僕達は人形使い。人の形をした者と心を通じ合わせ、操る力を持つ者! 人形劇の会場はこの世界だ! さぁ、思う存分に世界を操ってやれ!)


 ありがとうございます。戦王様。あなたが全ての職業を一人入学させるとルールを作ってくれたおかげで、私はここで先生と、みんなと戦えます。


「先生!」

「レンカ!」


 繋がった糸が心までも繋いでいるのだろうか。私達の呼び合う声が重なり、先生の言葉が私の頭の中に響いた。


 叫べ! みんなで紡いだこの必殺技の名前は――!


「「希望を紡ぐ物語ウィーヴ・ヒストリア!」」


 私と先生の声で振り下ろした光は、魔王を二つに切り裂いて、飲み込んだ。


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