表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/24

弟子が師匠に並ぶためには

 二週間後の試験前日、加工屋のオッサンからようやく連絡が来た。

 ミリアルドに勝つために、俺からレンカに与えられる秘策。


 今のレンカならきっと操れる。


 何せこの二週間、ずっと複数人相手に戦って来たのだ。

 視野の広がりや、先読みの精度、ミスを挽回する一瞬の判断力も上がっている。

 それと、化け物級と戦い続けていたからから、レベルも40を超えて、ステータスがオールBにまで上がった。


 今まで外で操っていた糸が身体の中にでも入ったのか、操術を切ってもそれなりの動きが出来るようになっている。


 そのおかげで、他人を操る人形乱操ソウルジャックの精度がかなり上がった。


 だから、この新しい武器をレンカはきっと自在に使えるはずだ。


「レンカ、今日の訓練はこれを使うぞ」

「人形なんか取り出してどうするんですか? あ、この人形を今日は相手に今日は攻撃をあてる訓練ですか?」


 俺が取り出したのは一メートルくらいの鎧姿の騎士人形。

 騎士人形の背中には、何かを止める穴が空いている。

 俺はその穴にクエストで集めた武器を差し込んでいった。


「本職を忘れてどうする……。一応、俺達って人形使いなんだよな……。今まで使わせて貰えなかったけど」

「え? もしかして、これ戦闘用の人形なんですか?」


 驚くレンカに俺は笑って頷いた。

 人形遊びしか出来ない。


 そう言われたこともあったけど、レンカと俺はレベルを大きく上げた。

 人形使いが同時に操れる人間は一体だけだ。


 でも、意思のない人形なら、自分を操りながら、ある程度同時に動かすことが出来るレベルに俺達は達した。


 それが人形操作・極のスキル。

 複雑な想像力が必要だが、今のレンカになら出来ると踏んだんだ。


 その手本をまずは見せてやる。


「行くぞ。よく見ておけよレンカ」


 俺が人形に触れて人形使いの糸を繋げると、人形の腕が剣を掴み振り抜いた。


「と、こんな感じに人形操作で人形を操りつつ、自分も操る。これからは自分一人の姿じゃない。もう一人の姿を想像しながら戦うんだ」

「え? でも、それ大変じゃないですか? だって、自分の姿を想像するだけで大変なのに、二人分って」


「そう、そこがコツ。俺はもう一人の姿を自分とは言ってない」


 俺が人形に重ねたのは昔の俺じゃ無い、今の俺でも無い、最強の俺でも無い。

 最強の自分とともに肩を並べ、背中を預けられる人の姿を思い浮かべるんだ。


 自分のもっとも信じられる人間で、互いに守り合いたいと思える人間で、強さを信じられる人間の姿を重ねるんだ。


 そんな人間は元の世界を含めても、俺の知っている限り一人しかいない。


 誰よりも近くで見守って、誰よりも一緒に時間を過ごした。


 たまに抜けているけど、いつだって一生懸命な愛弟子しかいない。


「俺がこいつに重ねたのはレンカの姿だ」

「え……? 私……ですか?」


 レンカ以外には考えられなかった。

 きょとんとした顔してるんじゃないって、結構恥ずかしいんだからさ。


「うん。ってことで、もう一体あるから、レンカも試してみてくれ。それで一本訓練するぞ。そうだなー。レンカは強い友達出来たんだし、まずはシエラを重ねてやってみるか? ここ最近の訓練でシエラの戦い方も覚えてきただろ?」


 あれ? レンカがフリーズしてる。


「おーい、レンカ? 起きてるかー?」

「え? あっ! はい! 覚えてます。シエラちゃんの戦い方ですよね?」


「んで、シエラが出来たら、次はリコを重ねて見ろ。指輪を入れてあるから、魔法が放てるぞ」

「あ、あの! 質問というかお願いがあります!」


 何だろう? 何か随分鬼気迫る表情なんだけど。


「うん?」

「先生を重ねても良いですか?」


 あぁ、そのことか。敢えて言うのなら、俺が一番危惧しているレンカの弱点かも知れない。


「自分の考える最強の姿は見つけられたか?」

「はい」


「なら、俺を重ねるのは最後にしようか。まず自分は操らず、二人の練習から」

「はいっ!」


 レンカはあっさりとシエラの動きも、リコの動きも人形で再現した。

 そして、俺を投影した人形も、すごい速度で動き回り、剣を振り回してきた。


 人形であるために、本人より少し力は劣るが十分な性能を誇っている。


 立ち止まって人形を操るだけなら、何の心配も無いほど完璧に出来ている。


「なら、次は動きながら! 来い! レンカ!」

「はいっ!」


 レンカの操る人形がメイスを握り俺の正面から飛びかかってくる。

 それを後ろに避けると、レンカが人形の背後で跳躍し、白い糸が繋がった剣を投げつけてきた。


 その剣を弾いた瞬間に人形が懐に潜り込んで、メイスを振ってきた。


「ちぃっ!」


 防ぐしかない。

 人形のメイスを受け止めると、あまりの攻撃の重さに、腕に痺れが走った。

 これがシエラを投影した力か。S級のパワーを再現しただけはある。


「はぁぁぁ!」


 人形の奥からレンカが突っ込んで来ると、彼女に引っ張られるように宙に飛んだ剣が彼女の手に収まった。


 投擲武器に糸を繋いで弾かれても、すぐに回収して次の攻撃が出来るようになった。

 その操作を覚えたおかげで、レンカは最近迷い無く武器を投げるようになっている。


「もらいますっ!」


 下からは人形のメイス、上からはレンカの剣が俺を襲う。

 上下から挟むような攻撃に、俺はたまらず笑ってしまった。


 そうだ。レンカ。それが俺達の本来の戦い方なんだ。


「俺だって人形使いだぜレンカ!」


 俺の後ろに隠していた人形が、俺の肩を蹴ってレンカに向かって跳躍する。


「あっ!? なら、私だって! ドラグフレア!」


 俺が押さえ付けていた人形が、赤く煌めいた。

 竜の炎の魔法が発動する。

 至近距離で食らうには、あまりにも痛い魔法だ。


 だからこそ、俺も魔法をぶつけてやり過ごす。


「リフレクトシールド!」


 紅蓮の炎を半透明の盾が防ぐ。


 だが、ここで安心したらレンカにやられる。

 俺は即座にもう一度足下に向かって剣を振った。


 そして想像通り、武器が連続でぶつかる音が炎の中でこだまする。


「やるな。レンカ。防いだか」

「先生も防いでるじゃないですか」


 俺もレンカも、お互いに人形の武器を自分の武器で受け止めていた。


「俺の知ってるレンカなら、止められるって信じてたからな」

「私も先生ならきっとこう来るって思ってました」


 レンカ気付いているか?

 俺とお前の言葉の大きな違いに。


「なら、次はお前の思う最強でかかってこい」


 俺は一旦人形と一緒にレンカから下がって挑発する。


「はい。先生のようにやってみます」


 意地悪だなぁ。と思いながらも、俺は自分の拳を握りしめた。

 俺の思ったとおりなら、レンカは――。


「はああああ!」


 人形とレンカが全く同じ動きで突っ込んでくる。

 やっぱりか。レンカ、俺はレンカが見つけられたと思ったんだ。

 だから、聞いたんだ。最強の自分は見つけられたか? ってさ。


「レンカ。自分を信じろ」


 俺は突っ込んでくるレンカの耳元でそう囁くと、一刀のもとにレンカと人形に一太刀をいれた。


「やっぱ……先生は強いなぁ……」


 そう言って、レンカはその場に倒れて気絶した。



 その夜、レンカは食事を済ませると、すぐに寝る挨拶をして仕切りのシーツをかけた。

 明日は試験だから早めに寝る心がけは素晴らしい。

 だから、声をかけるのが躊躇われたけど、俺はシーツ越しにレンカに声をかけた。


「なぁ、レンカ。ちょっと話をしても良いか?」

「はい。良いですよ。あ、でもせっかくだから、隣で聞きたいです。最近、シエラちゃんとリコちゃんがいて、先生と一緒に寝れてませんし」


「あぁ、うん、来ても良いよ。いや、違うな……。来て欲しいかも」

「えへへ、お邪魔します」


 シーツを取り払い、レンカが俺の隣にやってくる。

 何故かそれだけで、随分ホッと出来たような気がした。

 ベッドで隣同士になるようレンカに座って貰って、俺は話を始めた。


「なぁ、レンカ。俺はお前に色々謝らないといけないんだ」

「何ですか?」


 自分を信じろと言った言葉を言える立場にないから、レンカが自分を信じられなかったのではないか。


 そんな風に思ってしまった。


「俺は元の世界じゃ、勇者でなければ、英雄でも無い、ただのダメ人間だったんだ」

「何を言っているんですか先生? そんな訳ないですよ」


「本当だよ。俺は人に会うのが怖くて、誰にも会わないように引きこもってた。でも、それじゃあ、ダメだって気付いて、頑張って仕事を探そうとしたけど、どこも雇ってくれなかった。何も出来ないダメ人間だって、思っていたらこの世界に来て、レンカに会えた」


 レンカは黙って俺の話を聞いてくれている。

 最後まで聞きますという意思表示なのか、俺に幻滅したのかは分からない。


 でも、俺は伝えないといけない。


 レンカが強くなるためにも。


「そこで、妄想だけで戦える力を手に入れて、俺は自分が強くなった気でいて、何でも出来る気になったんだ。ここの世界なら誰も俺の昔を知らない。それに、すごい力が手に入った。ここにいれば、俺はなんだって出来るんだって思えたんだ。だから、俺は俺がすごいってことを証明するために、レンカを強くするなんて大きな事を言った」


 過ぎた力を手に入れて気が大きくなっていただけなんだ。


 でも、俺と違って、レンカはそんな俺の虚像を常に追いかけて、追い越しそうになっている。


 レンカは本当に強くなった。俺のイメージする最強の俺に限りなく近い。


「レンカ。お前の先生は所詮そんな残念な人間なんだ。だから、俺の背中じゃなくて、自分の考える一番強い自分の姿を手に入れるんだ。今日、レンカが俺に負けた原因は、レンカ自身の考える最も強い姿が、人形と同じ俺の戦い方だったから、同時に倒されたんだ」

「先生、お話はそれだけですか?」


「うん。レンカは俺を乗り越えて、自分を手に入れられれば、もっと強くなれる。自分らしい新たな理想を見つけるんだ」


 階級一位を倒すためにも、その後の魔王を倒すためにも、もっと強くなって欲しい。


 レンカはガッカリしたかな?


 俺の本当の姿は結局自分に自信の無い情けない男なんだ。

 手に入れた自信も、この世界が与えてくれた力が生んでくれた物でしかない。

 俺が、俺自身で手に入れた力は、何一つ無いし、レンカに与えられていない。


「先生は初めて会った時に言いました。私は強くなれるって」

「え? レンカ?」


 レンカがベッドから立ち上がり、俺の頭を抱きかかえてくれた。


「先生は私がシエラちゃんとの戦いの前に言いました。私を信じてくれるって」


 あの日、不安がっていたレンカは、俺が信じられるレンカなら、レンカも自分自身を信じられると言った。

 あの時はレンカが自信を持って戦えるのなら、言えば良いと思ったんだ。


 でも、あの気持ちに嘘は無かった。

 俺はレンカの努力と強さを今も信じている。


「先生は私がリコちゃんと戦う時に言ってくれました。私のサポートを全力でしてくれるって」


 リコがレンカに強力な魔法を使わせまいと、ドラゴンを狩り尽くして妨害された。妨害された中で勝てる手立てを考えて、近距離格闘魔法なんてのを編み出したんだっけ。


 人の頑張りに対して、足を引っ張る相手がむかついたんだ。

 どんな妨害をしかけられようが、俺はレンカの努力をムダにさせたくなかった。


「そして、今回のミリアルドとの対戦でも、先生は一生懸命私を強くしてくれています。さっき先生が言った先生の弱さだって、私を思ってくれているのが分かります。それが私の知っている先生です」

「全部虚勢と見栄とハッタリだったんだよ……」


「私だって虚勢と見栄とハッタリばかりです。戦うのは怖いですし、痛いのは嫌いです。でも、それでも戦って勝てたのは、先生がいてくれたからです。それに、先生のは虚勢でも見栄でもハッタリでもないですよ。それに敗者でもないです。だって――」


 レンカが俺の頭をより強く抱きしめてくれる。

 鼻が彼女の胸元に押しつけられて、俺の顔が僅かに膨らんだレンカの膨らみに包まれた。


「先生はいつだって私と一緒に挑戦してくれました。真っ直ぐ私を見てくれて、私が無理だと思った試験内容でも諦めること無く、私が勝てるって信じて鍛えてくれました。見栄だけなら行動なんて伴いません」

「レンカ……」


「先生はご自分で思っているより強い方です。きっと、向こうの世界で上手く行かなかったのは、最初の私と同じで、自分の戦い方が分からなかっただけです。でも、私は先生の良い所いっぱい知ってます。強いところもいっぱい知っています。優しいところもいっぱい知っています。私の好きな先生は単純な強さでは計れません。だから、私は先生に憧れたんです」

「……ありがとう」


 その言葉しか言えなかった。

 それにレンカが俺の顔を抱きしめてくれて、本当に良かった。


 だって、いつのまにか俺は泣いていたのだから。

 自分より歳下の女の子に励まされる情けなさや悔しさ、全く上手く行かなかった今までの自分を思い出し、知られてしまった恥ずかしさ。


 そういうマイナスの感情だけから溢れる涙ではなかった。


 嬉しかったんだ。


 俺は俺のしてきたことで、俺のレンカを思う気持ちで、レンカに憧れを抱いて貰えたことが、泣きたくなるほど嬉しかった。


 何も出来ず、人から見捨てられた俺が、初めて自分の心のままに感じたことをして、好きだと言って貰えた。


「先生。だから、教えて下さい。私は先生と並んで戦えるくらいに強くなれましたか?」

「当たり……前だろっ!」


 もう情けないぐらい涙声だ。こうなったらとことん情けないところを晒してやる。


「信じて貰えるか? 俺がレンカと一緒に並んで戦って活躍出来るって」

「はい。信じています。だって、宗一さんは私の先生なんですから。いつだって私と一緒に戦ってくれる憧れの先生です」


 その言葉で、俺はこらえきれなくなって、声をあげて久しぶりに泣いた。

 今まで溜めていた涙が全部出るみたいに止まらなかった。

 レンカはそんな俺を泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ