表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/24

さようなら。落ちこぼれだった頃の私。

「そっか。レンカか。……うん、覚えた。絶対忘れない……。だから、もういいや……とっても……だるくて……眠いんだ……」


 私の名前をリコちゃんが呟くと、リコちゃんが前のめりに倒れた。

 え? どういうこと?

 リコちゃんは何を覚えたの? 何で最後、あんなに嬉しそうに笑ったの?


「勝者、レンカ!」


 審判の人の声で、試合会場が割れんばかりの歓声に包まれた。


「うおおおお!? レンカすげええええ!?」

「おいおい!? あれマジでレンカなのか!? うっそだろ!? マジすげええ!?」

「レンカ! お前すごかったんだな! バカにしてすまなかった! マジで悪かった!」


 あ、あれ? みんな何言ってるんだろ? え? あれ? 私が勝って喜ばれてる?


 って、うわぁっ!? シエラちゃんが飛んできた!?


「レンカアアアアア! あんたやっぱすっごいな! さすがあたいの親友だぜレンカアアアア!」

「うわっ!? シエラちゃん痛いってば!?」


「すげーよレンカ! あんたあたいが倒せなかったリコを倒したんだぜ!? すげぇよ! 無敗の大賢者で階級二位に勝っちまったよ! あははは! あたいを倒した女だから当然か!」

「え、えっと、あの、何がどうして!?」


 意味が分からなかった。

 シエラちゃんが喜んでくれるのは、親友だからなのは分かるけど、他の人達の声が全然分からない。


 だって、シエラちゃんの言う通り、私は……階級二位を倒した?


「へ? 私リコちゃんに勝ったの!?」

「何とぼけてんだよレンカ!? あはは、あんたやっぱりバカだなぁ。大馬鹿だ」


「シエラちゃんひどいっ!? というか、痛いよ! 手加減してよ!」


 シエラちゃんに肩を叩かれていると、突然頭の上に手が乗せられた。

 先生もいつのまにか闘技場に飛び降りてきてくれたんだ。

 出来れば、シエラちゃんより先に来て欲しかったけど、気を利かせてくれたんだろうな。


「あっ、先生! どうですか? ちゃんと見てくれましたか!?」

「うん、多分一生忘れないと思う。レンカ最後の凄かったな。メチャクチャ格好良かったぞ。物語に出てくる英雄みたいだった」


「えへへ……。でも、先生みたいに華麗には出来ませんでした。何か必死に足掻いて足掻いて、負けそうになっても諦めないで頑張ってみたら、何とか勝てました」

「レンカは時折天然だよなぁ……」


「へ?」

「何でも無いさ。よく頑張ったなレンカ。今日の勝利は紛れもなくレンカの力あってのモノたよ」


 優しくて暖かい手と、柔らかな言葉が私の心を包んでくれる。

 あぁ、やっぱり好きだなぁ。先生の手。


「私が勝てたのは先生のおかげです。技も魔法も先生がくれたものでした。それに勇気だって先生がくれたモノです。だから、ありがとうございました」

「ったく。でも、ありがとな。魔法結晶は全部使い切ったし、またクエスト行ってアイテム集めようか?」


 もっと先生と一緒にいたい。

 色々な所に行ってみたい。出来れば二人きりでデートとかもしてみたい。

 だから、返事はもう決まり切ってる。


「はいっ! お願いします!」


 私の返事に先生は優しく笑って頷いてくれた。


「ところで先生。さっきから不思議に思っているのですが、みんなはなんで私の名前を呼んでいるんでしょうか?」

「ハハ、お前は本当に時折天然だよな」


 先生はこらえきれないように笑った。

 何でだろう? 変なこと言ったかな?


「そんなの決まってるだろ?」

「え?」


 先生はそういうと私の身体を抱きかかえて、観客席に向かって大きくジャンプした。

 みんなのいる場所に私を運んで、みんなの中心に私を置いて。

 みんなの中心で楽しそうに、嬉しそうに笑っていた。


「どうだ? すっげーだろ。俺のレンカは?」


 その一言で拍手や口笛が一斉に鳴り響き、みんなが歓声をあげた。


「えっと、あの、先生?」

「なんだよ。まだ分かんないのか?」


 先生が苦笑いしながら私の頭の上に手を置いた。


「レンカがみんなの憧れになったんだよ」

「……みんなの憧れ? 落ちこぼレンカだった私が……ですか?」


「うん、ほら、みんなの声をちゃんと聞いて、自分の耳を疑わずにさ」


 先生に言われたとおり、もう一度みんなの声を聞いてみる。


 僕にもあの動きを教えて下さい。

 どうやってそんなに強くなったのか教えて下さい。


 リコさんに勝ったら、次は一位のミリアルドと勝負ですか!? 応援してます!

 次も頑張って下さいレンカさん!


 一緒に訓練混ぜて貰っても良いですか!?


「な? 落ちこぼレンカは、レンカ自身が倒したみたいだぜ? なんつっても今やレンカは五位のシエラを倒して、二位のリコまで倒した格闘戦も魔法戦も出来る勇者みたいなんだからさ」

「あ……」


 どうしよう。なんて言えば良いのか分からない。

 おかしいな。涙が出てきた。


 悲しく何てないのに。バカにされても、倉庫に穴開けられても涙なんか出なかったのに。


 何で今涙が出てくるんだろう?


「おーい! ふざけんなよてめぇら! レンカはあたいの親友だぞ! って、レンカ泣いてんじゃねぇか!? 泣かしたヤツは誰だ!? ぶっ飛ばすぞ!」

「シエラちゃん待って!? 違うからそういうのと違うから!」


 あぁ、もう、先生に会ってから本当に色々なことがあり過ぎたよ。


 親友が出来て、落ちこぼれじゃなくなって、いじめもなくなった……。

 そんな私がみんなの憧れなんて……。


 本当にもう何て言って良いか分からないよ。

 でも、ちゃんと今の気持ちを言わないと。


 先生がみんなに認めて貰えるように。先生のおかげで強くなれた私を認めて貰えるように。


「みなさん応援ありがとうございますっ! これからも頑張ります!」


 私が頭を思いっきり下げると、先生の方から嬉しそうな笑い声が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ