レンカVSリコ sideレンカ
試合開始前、私は砂の闘技場で自分の装備を再確認していた。
右手には炎の指輪、左手には先生から貰った魔法の盾の指輪をはめてある。
えへへ、薬指につけちゃったのがちょっと恥ずかしいけど、一番合うところが薬指だったんだから仕方無いよね。
それと、服のポケットと道具袋には魔法の結晶をいくつか。
よし、忘れ物は無い。ちゃんと全部持ってきた。
「あー……だるい……。ねぇー、やるだけムダだし、止めない? えっと、レなんとか」
「レンカです。というか、レなんとかの方が名前長くなってますよ!?」
「んじゃ、面倒だからナントカ」
「レが無くなっただけじゃないですか……」
「名前覚えるのが面倒臭い」
あぁ、そういうことか。それならナントカになるよね。
何か調子狂うなぁ。でも、こんな子でも最強の魔法使いだから、気は抜けない。
魔法戦でリコちゃんに勝った人は誰もいない。
一位の魔法剣士ミリアルドだって、最初の実技試験で引き分けた。
それでついた名前は無敗の大賢者。
「どうせすぐ消える名前だから」
「え? どういう意味ですか?」
「七英雄と戦王……まぁ、いいや、言っても意味が無い」
「なら、私も一つだけ言います」
って、言おうとしたら、審判の人に両者構えって言われた。
まぁ、いっか言うだけ言っちゃおう。
「私の最強は過去にはいません。私が追うのは私を導いてくれた先生です!」
一瞬フードの下に見えたリコちゃんの口が開いた気がした。
「試合開始!」
七英雄の子孫、無敗の大賢者って言われていたリコちゃんが、異世界の大賢者の指導を受けて、どれだけ強くなったかは分からない。
ドラゴンを一撃で倒してしまうような、強力な魔法を持っていることぐらいしか分からない。
でも、私は勝つんだ。
行きます! 先生!
「オメガフレイム」
リコちゃんの魔法が発動する。
最初の感想は素直に大きいと思った。
闘技場の半分くらいは埋め尽くしそうな巨大な炎が、リコちゃんの掲げた杖から生まれている。
これがS級の魔法……。私の魔法がとても小さく見える。
試合を見ているシエラちゃんの驚く声も聞こえる。
「なんだよあれ!? 入学の時よりでっかくなってるぞ!? レンカ当たるなよ!」
応援があるってこんなに嬉しいんだ。
うん、当たらないよ。だって、ただ大きいだけだ!
「レンカ! お前の力を見せてやれ!」
はい先生! 見ていて下さい!
「エクスプロード!」
私は足下で爆発を起こし、砂を巻き上げた。
まずは視界を潰して、私の出方を分からなくさせる。
もう残り四回しか指輪の魔法は使えないけど、これでリコちゃんの思考を奪う。
こんなに大きな魔法だ。こうされたら、きっと私の出方なんて関係無く、ただ真っ直ぐ私を押しつぶすつもりでフィールドに叩きつけてくるはず。
だから、その先を行く!
自分の想像する一番速い速度で私は前に飛んだ。
その瞬間、背中で大きな爆発が起きて、炎が後ろから追いかけて来た。
でも、私はその炎より速い!
「ホワイトアヴァランチ」
目の前に雪山!? 違う雪崩だ! こっちに迫ってくる!
下にも横にも避けられない。後ろは巨大な炎が追いかけて来る。
なら上に逃げるしかない。
私が思いっきり上にジャンプすると、雪山の奥にいたリコちゃんがこっちを見上げた。
私が誘い込まれたと思ってるのかな?
でも、それは違う。
「オメガ――」
私が誘いに乗ったんだ!
「エクレール」
リコちゃんの杖から紫色の光が私に襲いかかってくる。
「リフレクトシールド!」
それに対して私は魔法の盾を発動して、光の中を突き進んだ。
雷を切る。
私の想像に応えた指輪が魔法から身を守ってくれた。
そして、光が収まれば、リコちゃんは私の距離にいる。
身体の位置は杖より内側、もうリコちゃんは杖で魔法を私に撃てない。
反対に、私は手を伸ばせば黒いローブに届く。
もう防御しても遅いよリコちゃん。
私の手が触れた。
この距離ならもう誰も逃げられない!
「エクスプロード」
「ドラグフレア」
目の前が真っ赤な炎に包まれる。
「すげえ! レンカがあのリコに一撃入れやがった!」
違う。そうじゃない。この炎は私じゃ無い。
リコちゃんの炎だ。
ダメだ。私の炎が飲み込まれて、これ以上近くにいると私がやられる。
「っつー……。火傷しちゃいました」
炎をぶつけ合った右手が焼けるように痛い。
真っ赤になっただけで済んでいるのは運が良かった。黒焦げにはなってないからまだ動かせる。
それにしても、今の炎は一体何だろう? 相殺しなかったら確実に腕がやられていた。
「あーぁ……、ローブ焼けちゃった。しかも、生きてるし。上手く誘い込んだんだけどなぁ……。だから面倒だったんだよ」
炎が収まると、リコちゃんの黒いローブの前側が焼けて無くなっていた。
ローブの中身は普通の布の服だったけど、首から何かがぶら下がっている。
赤い丸い宝石のようなモノが四つほど。一個は先の石が無い。
もしかして、さっきの魔法は――。
「さっきの魔法は、ドラゴンの血石から作った魔法結晶ですか?」
「あー……、めんどい」
「正解として受け止めます。ドラゴンの魔法ドラグフレアA級魔法ですね」
「どっちでもいいよ。どっちにせよ、負けるナントカに意味は無いから」
まいったな。距離が離れたせいで、また杖から放たれる強力な魔法が飛んできちゃう。
リフレクトシールドの指輪は後三十秒くらい経たないと使えない。
攻撃用の炎の指輪も残り三発か。
お喋りで時間をくれる人でもなさそうだしなぁ。
先生ならこんな時、どうするかな?
今私が他に持っている道具は、先生の魔法が込められた使い捨ての防御魔法結晶は五つ、攻撃用の魔法結晶が三つ。
攻撃魔法は炎と氷と雷だったはず。
三十秒間なんとか避けきって、指輪でもリフレクトシールドを使えるようにしたら、全部使って一撃を叩き込もう。
うん、やれる。私はまだ負けてない。絶対に勝つんだ。
「あー……本当にもう面倒臭い。何なのその目? 私、頑張ってますみたいな目。むかつく」
「え?」
「ナントカみたいに弱い人間だと、頑張ってるように見えるだけで褒めて貰えるの? なんでそんなに必死になるのさ? ナントカじゃ七英雄にはなれないんだよ?」
「一体なんの話か分からないですけど、私は七英雄になりたくはありません。私は先生と肩を並べられる人になりたいんです」
「……消えてよ。眩しすぎるんだよ。イライラする。七英雄を、あたしを否定するな!」
「リコちゃん?」
「黙れよ。七英雄でもないお前がっ! 馴れ馴れしくあたしの名前を呼ぶなぁぁぁぁ!」
急に怒られた!? しかも、何なのこの圧力!?
地面の砂が舞い上がって、足下が霞んでる。
魔法の名前は言葉に出てないってことは、リコちゃんから溢れ出る魔力だけで、こんな現象が起きてるの!?
「だるいから、もうこの一撃で終わらせる……。オメガフレイム」
あの大きな炎がまた来る。距離を離さないと。
「……オメガフロスト」
え? 連続詠唱?
火の玉に青い氷が吸い込まれて、オメガフレイムとオメガフロストの魔法が同時に消えていく。
助かった――訳無いよね。
「オメガエクレール……。オメガロック……」
雷と大地の魔法を連続詠唱して、また魔法を自分でかき消した?
リコちゃんはわざと反対属性の魔法同士をぶつけてかき消している。
「オメガライトニング……。オメガダーク……」
「レンカ! 相手の魔力が膨れあがってる! 急いで決めろ!」
六属性の最上級魔法を相殺しあって魔力を溜める?
もしかして、リコちゃんの狙いは!?
「教えてあげるよ。ナントカ。どれだけ強い魔法だろうと。吸い出される魔力量の上限は決まってる。その上限を取っ払う方法を私が編み出した。S級の魔法同士を相殺して、魔力を限界以上に集めた魔力溜まりによる破壊の風。最強の魔法。七英雄の力と言われた魔法を」
リコちゃんの頭上に魔力の塊が浮かんでいる。
あれが魔法になる前に止めないと!
リコちゃんが杖を魔力の塊に掲げようとしている。
あの中に杖を掲げられたら私の負けだ。
ここはまだ窮地、死地にはなってない。なら、前に進まないと負ける! 道が完全に閉ざされる前に、この修羅の道を渡りきるんだ!
「アイシクルフォール!」
先生の魔法結晶を砕いて、中に入っていたツララの魔法がリコちゃんに向けて放った。
でも、私の氷はリコちゃんの前で砕けた。
「そんなモノが効くか! あたしは七英雄だ!」
あれがシエラちゃんの言っていたリコちゃんの魔法盾なんだ。
あんな魔力の暴走みたいなモノを操っているのに、普通の魔法の盾も出せるんだ。
攻撃だけじゃ無い防御も出来る七英雄の力か。
すごいな。
リコちゃんが怒っちゃったのは、私が七英雄をバカにしたような言い方をしてしまったからかな。
後でちゃんと謝ろう。だから、今は――!
「フレアボール!」
「効かないって言ってんだああああ!」
効かないなんて知ってる。
ちょっとでも時間が稼げれば良い。
その間に少しでも前に、一センチでも前に進むんだ。
リコちゃんが魔法を完成させる前に、密着して魔法をぶつけるんだ。
間に合う。
先生ならきっと間に合う。
だから、私だって間に合わせる!
「っ!? あの距離を詰めてきた!?」
間に合った!
何とか懐に飛び込めた。
大魔法を発動される前に、リコちゃんの持ってる力を利用して、リコちゃんを倒す。
ドラグフレアの魔法結晶を私が砕いて、リコちゃんに向けて魔法を放てば私の勝ちだ。
先生ならきっとそうする!
だから精一杯、自分の力で手を伸ばすんだ!
「ホントだるい。あたしをバカにし過ぎ。そんな作戦とっくに見抜いた。ドラグフレア」
結晶が一個砕けて私の目の前で竜の炎が現れ、襲いかかってくる。
怖い。熱い。痛い。
一瞬で色々な恐怖が襲いかかってきたけど、私は手の中に入っている石を信じた。
先生がくれたお守りの魔法結晶。そして、先生の教えてくれた戦い方、勇気の出し方を信じた。
自分を信じろと言ってくれた先生と、先生に追いつこうと頑張った自分を信じて、手を伸ばすんだ。
「リフレクトシールド!」
手の中で石が砕け、半透明の盾が魔法をかきわけて進んで行く。
真っ赤な世界をかき分けて、炎を突破したその先に、リコちゃんの胸元にあった赤い宝石に辿り着いた。
「爆ぜろ。エレメンタル――」
でも、既に魔力の塊の中に杖をつっこんだリコちゃんが魔法の名を口にしている。
ダメだ。
ドラグフレアの詠唱が間に合わない。
先生みたいに格好良く出来なかったなぁ……。
「エンド!」
リコちゃんから終わりを告げる魔法の名前が発せられる。
七英雄の生み出した究極の魔法、破壊の風と形容したエレメンタルエンドが発動したのだろう。
リコちゃんの声で宙に舞っていた砂煙が風によって吹き飛ばされ、視界が一気に綺麗になる。
私も吹き飛ばされそうになるが、意地でもリコちゃんから手は放さないように、全力を込めた。
「え……?」
そして、リコちゃんの戸惑う声を私は初めて聞いた。
リコちゃんのかけ声で発動したはずの魔法は、所詮ただの突風でしかなかった。
「間に……合いました……!」
「お前何をした!?」
「教えません……。私が勝つまではっ! ドラグフレア!」
リコちゃんの胸元に残っていた三つの結晶を、私がまとめて砕いた。
零距離でのA級魔法を三連続で解き放った私は、炎の中から急いで手を引っこ抜いて、大きく飛び退いた。
さすがのリコちゃんでも、自分の胸元で竜の炎を浴びればタダでは済まないはず。
「レンカ上だ!」
「オメガ――」
シエラちゃんの声と同時に顔を上げると、炎の中にいたはずのリコちゃんが空中にいて、杖を振りかぶっている。
知ってたよ。
だって、転移の魔法陣を張ってたんだもん。
あの密着状態で仮にあの大魔法を使ったら逃げ道なんて、上しか無い。
だから、私もそこに出てくるのを待っていたんだ。
エレメンタルエンドの時はリコちゃんの腕を操った。
あの時、私は自分を操るのを止めて、自分の力と先生のお守りだけを信じて手を伸ばし、リコちゃんに触れて人形乱舞を使った。
それで、杖を変な方向に向けて魔力の流れを乱して、リコちゃんの大魔法を不発にしたんだ。それでも強い風が発生したから、失敗でも恐ろしい勢いのある魔法には違いない。
とはいえ、あのオメガフレアだって十分に一撃で私を倒せる威力があると思う。それなのに、リコちゃんを操った人形使いの糸は、転移の時に切れられてしまった。
だから、今は同じ事が出来ない。
出来るのは、自分を操って先生の背中を追いかけることだけだ。
それなら――。
「――フレイム!」
リコちゃんがどんなに強くても、勝てると信じて前に突っ込むしか無い! 私は先生に勇気を貰ったんだ!
「リフレクトシールド!」
砕けた結晶から出てきた盾が巨大な火の玉を受け止める。
先生から貰った魔法結晶は残り三つ。
「オメガフロスト!」
今度は巨大な氷の塊だ。
まだ私の拳はリコちゃんに届かない。
「リフレクトシールド!」
氷の塊を防いだ盾が氷と一緒に砕け散った。
盾は残り二つ!
先生から貰った結晶が全部砕ける前に届いて!
後、数歩分なんだから!
「オメガエクレール!」
「リフレクトシールド!」
雷も防いだ! 残り一つ!
残り一歩ぐらい!
「オメガロック!」
最後の防御結晶が砕けて、巨大な岩から私の身を守ってくれる。
先生からのお守りはこれで残り一つ、雷のライトニングボルトだけになっちゃった。
でも、残り半歩まで来られた。この距離なら届く!
「オメガ――」
「ライトニングボルト!」
私は魔法の結晶をリコちゃんの杖に叩きつけて、魔法を発動させた。
自分の身体は守っても、今から魔法を出す杖は守らない。
私の放った雷で、杖がリコちゃんの手の中から吹き飛んだ。
これで、もう私を止める物は無くなった。
そして、私にはまだ先生のくれた指輪が残ってる。
魔法の結晶が無くなっても、私はまだ前に進む力と戦う術を残しているんだ。
手を伸ばして、リコちゃんを捕まえて、指輪の力を零距離で連続して解き放つ。
私にはもうそれしか勝つ手段がない。
いや、違う。先生ならきっとこう言う。
私なら、それで勝てる!
怯えて止まりそうになる身体を、先生のくれた勇気が後押ししてくれるかのように私は手を伸ばした。
「届いて!」
「お前だるすぎる! ヘルファイア!」
私が左手を突き出すと、目の前を黒い炎が覆った。
リコちゃんの指輪に込められた魔法か、それとも触媒も無しに自力で出したのかは分からない。
でも、きっとE級魔法の私のエクスプロードよりは絶対強い。単純な破壊力のぶつけ合いなら絶対勝てない。
リコちゃんは面倒臭いとか、だるいとか言いながら、一切手を抜かないで、私を倒しに全力をかけてきた。
そんなリコちゃんだから、私は全力と勇気を賭けても、簡単に決めさせてくれなかった。
だから、何となくこうなるって思っていた。
追い詰めて追い詰めて、追い詰めた後に、最後にまた逆転されるって。
――そうなるって予感があったから、私は左手を先に放ったんだ!
お願いします先生! 私を守って下さいっ!
「リフレクトシールド!」
あれから三十秒以上しっかり時間を計っておいた。
私の言葉に応えて、指輪から半透明な盾が現れて、リコちゃんの黒い炎を弾く。
「届いてええええええ!」
先生が私にくれた指輪の力で最後の黒い闇をかき分けて、驚いた顔のリコちゃんを見つけた。
そんなリコちゃんの顔に向かって手を伸ばして、掴んだ私は――。
「エクスプロード! エクスプロード!」
リコちゃんの頭を掴み続けながら連続で爆発魔法をリコちゃんに向けて叩き込んだ。
ごめんなさい。でも、こうしないと私はあなたに勝てないから。
私のありったけをぶつけます!
「エクスプロード!」
指輪に残された最後の一回を消費し、私はリコちゃんと一緒に地面に落ちた。
視界がゆがむ。頭がくらくらして、目が回っているみたいだ。
うっ……気持ち悪い……。さすがに短時間に魔力を使い過ぎたみたい……。
お願い。立たないで……。
これで勝たせて……!
「あー……だるぃ……。もう……ホントだるい……」
あぁ、リコちゃんが立っちゃった……。もう、私は空っぽだよ……。
最強の魔法使い相手にここまで出来たんだって、胸を張れる戦い方だったかな?
あぁ、もう、負けたくないなぁ……。
勝ったと思ったんだけどなぁ……。
「名前は……?」
「え?」
「あなたの名前……」
「レンカ……です」
「そっか。レンカか。……うん、覚えた。絶対忘れない……。だから、もういいや……とっても……だるくて……眠いんだ……」
私の名前をリコちゃんが呟くと、リコちゃんが前のめりに倒れた。
え? どういうこと?
リコちゃんは何を覚えたの? 何で最後、あんなに嬉しそうに笑ったの?
「勝者、レンカ!」
審判の人の声で、試合会場が割れんばかりの歓声に包まれた。




