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召喚事故に遭いました

 目を開けると全く知らないお城にいた。

 目の前には巫女のような姿をした女性がいて、その隣に王様っぽい人がいる。


 ちょっと待て。日本にこんな赤いマントを羽織った王様なんて存在しないだろ!?

 どこかのコスプレ会場か?


 記憶をたどれ! 確かまた就職に失敗して、トボトボと俯いて歩いていたら、マンホールの穴が空いていたのか、急に道路から落っこちてそれから……。


 おかしい。その先の記憶が無いぞ?


「ようこそ。ロンバルディアへ。我らの召喚に応えた勇者指導官達よ」


 あ、これ、小説で見たことある。異世界召喚って奴だ。

 でも、ちょっと待て。こういうのって勇者召喚がお約束だろ?


 勇者指導官って何だ? しかも複数形?


 意味が分からず横を向いてみると、何かエルフっぽい耳の長いお姉さんや、やけにごつい身体の巨人みたいなオッサン、明らかに勇者ですオーラを放つ金髪の青年がいる。


 そんな三人に紛れて、ワイシャツネクタイ姿の俺が混じっている。


 すると、巫女さんは首を傾げながら虫眼鏡を取り出した。


「あれ? 予定より一人多いですね。まぁ、良いでしょう。これでちょうど百人です。鑑定を始めます」


 何か虫眼鏡みたいなので一人一人観察されると、それぞれの職業が言い渡された。


 エルフっぽいお姉さんは大賢者、巨人見たいな人は破壊王、勇者オーラの金髪はやっぱり勇者だった。


 何というか適役といった感じで、エルフの人は強大な魔力を秘めていて、巨人の人はチートクラスのパワーで、勇者はもう万能過ぎて非の打ち所が無いこれまたチート野郎だった。


 そして肝心の俺はというと――。


山本宗一やまもとそういち様……人形使いですか」


 明らかにガッカリされた。


 言い渡されたステータスは全てが平均以下。

 魔法なんて一つも無く、唯一持っていたスキルも人形を自在に操る能力だけ。


 はっきり言って良いとこ無しって奴だ。

 うん、嫌な予感はしていたんだ。予定より一人多いって言われた時点で、俺の場違い感半端なかったから。


 大道芸とかサーカスをやろうってなら役に立ちそうだけど、他の三人のスキルやステータスを見る限り、そういう訳でもないだろうしね。


 そうじゃなければ、巫女さんあんな困った顔しないよ。


「王よ。どうなさいますか? 今なら送り返せますが」

「ふむ。構わん。候補者を連れてこい。あの枠を使う適材が現れたと考えよう」


「なるほど。彼女ですね。分かりました」


 巫女はそう言って部屋から出て行くと、王は咳払いをして俺達の注目を集めた。


「諸君、突然の召喚に戸惑っていることだろう。だが、聞いて欲しい。我々は近い内に復活する魔王を討つための勇者を求めている。だが、魔王は我々の秘術、勇者召喚を知っており、この世界の者にしか倒せぬ結界を張った」

「それなら、私達を召喚した意味は無いのでは? 私の魔法も効かないのでしょう?」


 エルフのお姉さんの言う通りだ。召喚された勇者が魔王を倒せないのなら、召喚してどうするんだろう?

 その質問を王様は待っていましたと言わんばかりに頷いた。


「その通りだ。本来ならば、諸君らが勇者として魔王を倒すはずだった。だから諸君ら勇者指導官には、諸君らの持つ技能や魔法を、我々の用意した勇者候補に与えて欲しいのだ。このブレイズ学園で彼らを一人前の勇者に育て上げて欲しい。魔王による被害が出る前に、圧倒的な力を今度は我々がつけるのだ」


 王様はその後も色々説明したが、ざっくり言えば師匠となって一人弟子を取り、弟子を一人前に育てて魔王を倒してくれ。ということだそうだ。


 育てるための場所も、資材も、資金も全て国が用意する。

 勇者指導官と勇者候補がともに過ごす部屋も与える。


 指導はそれぞれ単独でおこなうが、数週間に一度の実技試験は全員参加するそうだ。

 そして、指導期限は一年間。その期限が終われば、自由に帰れる。


 逆に言えば、それまで帰れないということだったけど。


 でも、日本に帰っても仕事も無いし、食っていけない。

 ここでは食事代も給料として出してくれるし、意外と悪くないかも。

 それに勇者候補ということは、それなりに能力が高い子ばかりだろうから、俺がそこまで何かをしなくても、きっと一人で成長してくれる。


 そう思うと、わざわざ俺が危険な冒険に出る必要はないし、なかなか悪くない召喚先だったかも?


「お願いします。あなた方だけが頼りです」


 正式な勇者指導官達は王様から手を握られ、懇願されている。

 そんなお願いのされ方に、彼らも元々勇者候補ということもあって快諾していた。


 そして、俺だけ華麗にスルーすると王様がパンパンと手を叩いた。


 就活に落ちたばかりの身として、この使えない人間扱いはちょっと辛い。

 ちょっと凹んでいると、扉が開き、四人のメイドが俺達を案内すると言って、それぞれ別の部屋へと通される。


「どうぞ。勇者指導官様」


 扉を開けて中に入ると、一人の少女が石畳の床で正座していた。

 年は十六歳くらいだろうか? 漆黒の髪のポニーテールと、琥珀色の瞳が印象的な女の子だった。


「あなたが私の先生ですか?」

「うん、そうみたい」


「私の名はレンカです。よろしくお願い致します」


 土下座をするかのように少女は頭を下げた。


「いや、そんなかしこまられても困るんだけど……」

「いえ……勇者候補の中でも最も劣ると言われた私を選んでくれたのですから。最後まで私は選ばれずに、追い出されるものとばかり思っていました」


「え?」

「あれ? 聞いてないですか?」


「いや、全く……」

「えっと……」


 お互いに固まってしまい、どうすることも出来なくなった所で、俺はふとメイドさんに渡された虫眼鏡を思い出した。


 確かこれでステータスとかを見られたから、これで確認出来るはず。

 どれどれこの子のステータスは――。


 レンカ。職業人形使い。レベル1。

 ステータス、体力F、力F、魔力F、素早さF。スキル:人形操作。


「あのさレンカさん。ステータスの最高って何……?」

「Sです」


「最低は?」

「……Fです」


「お、おう……」


 マジか。俺の引いた弟子はどうしようもない落ちこぼれの女の子だった。

 これがソシャゲーだったらリセットかけて、ガチャし直してるよ!

 というか俺自身が外れガチャなのか!? えぇい、召喚から全てやり直せ!


 こうして、巻き込まれて召喚された俺と、落ちこぼれ勇者候補が出会い、師匠と弟子の関係が始まった。

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