田舎焼
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小麦粉を水に溶かし、いい具合に固まってきたところで取り出し、少し厚めに広げたものを数十枚作っていた。本来ならば長野県の郷土料理に含まれるのだが、田舎で作るものとしてはある意味定番の物だった。ちなみに、小麦粉ではなく蕎麦粉でも作れるらしいので、いつか作ってみようかと思う。
曽祖母の実家の台所は相変わらず散らかったままだったが、料理できないほど汚いというわけではない。水道の水さえ使わなければ、十分台所として機能していた。そこで、トントントンと響く包丁の音。祖父が野菜を切っていた。
「先に餡子だけ包んじまうぞ」
俺は祖父の後ろ姿に呼びかけ、つっかけを履いて外に出た。そしてすぐ隣の、既に枯れてしまった畑に置いてある祖父の車のトランクを開け、中から餡子の100gパックを取り出す。名古屋の店で、ここに来る途中に買ったものだ。
生地を広げた部屋に戻り、餡子パックの角をハサミで切って四列に並べておいたうちの一列に餡子を乗せていく。餃子の包む前にも似ているが、今回作っているのは「おやき」と呼ばれる、野菜や餡子を小麦粉の生地で包んだ饅頭のようなものだ。
俺が餡子を全て乗せ終わったところで、祖父が三つのボウルを持ってきた。ボウルの中身は、細かく切った野沢菜と、潰した南瓜、同様に潰した茄子が、それぞれ入っていた。
「流水は具を乗せてけ」
お前は包むのが下手だから、と付け足す。それはもう昔の話だろ、と愚痴を垂れながら、餡子の隣の一列に南瓜を乗せていく。続けて、野沢菜、茄子の順に均等に入れていく。茄子は生地の色が毒々しくなるが、意外と美味しくなるものである。全てに具を乗せ終わった時、祖父はまだ三列目の最初を作業していた。
「俺も包もう」
「不恰好なのが流水のやつだな」
「何を言うんだ、見てろよ」
と俺は手近にあったおやきを包む。想像していたよりも歪な形になってしまった。ほれ見ろ、と言った表情で祖父が笑う。小馬鹿にするような笑いだった。
「格好が大事じゃないだろ、心が大事なんだよ、心が」
「これは心以前の問題だろう」
「じゃあ何の問題だよ?」
「手先の問題だな」
などと言い合う内に、全てを包み終わっていた。後は焼くだけである。
「外出す準備をしよう」
「俺、火ィ焚く準備しとく」
俺は再度外に出て、畑側の縁側の下に手を伸ばした。数日前に置いておいた七輪だ。それを手頃な場所に置き、車のトランクから金網と新聞紙に包まれた木炭の束を出す。金網を七輪の上に置き、新聞紙を広げる。大きいものから七輪の口に入れていき、余ったところに予備の新聞紙を詰める。せっかくなので、近くに落ちている枯れ木も入れておく。
本当にこれで燃えるんだろうか、と少し不安になったときに声がした。
「流水、これ使え」
と縁側の奥、台所から飛んできたのは油だった。何とも原始的な、と思いながら新聞紙に染み込ませる。これで燃えるかな、と少し離れたところでマッチを擦り、七輪の中に投げ入れた。
「あっつつ……」
予想したより大きな火が広がり、マッチを投げ入れた右手が炙られかけてしまった。しかし火傷はしていないようだった。
祖父が家から出てくる。おやきは全部新聞紙で包んだようで、大きな新聞紙の塊を手にしていた。
「よし、順番に焼いていこう」
「摘み食いは?」
「自由だ」
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