田舎冬
冬のお話。
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冬は寒い。洒落にならないくらい寒い。
タートルの上にトレーナー、更にその上からダウンを着ているのに。まだ寒い。見た目はモコモコの羊の気分だが、中身は毛を全部持って行かれた羊状態だ。
寒い。
「川に入るか?」
「殺す気だろ」
冗談じゃなく、本当に死んでしまうだろう。心臓麻痺で水死体になるぞ。
いや、山の中で身元不明の死体になるかな。どちらにせよ、酷いけど。
「若いころはな、元気でいなければならないんだ」
「シャツ一枚でこの辺を走り回れと?」
凍死するわ。
「ハワイ? とかに行ってちゃアカン」
「それは知らん」
暑い所は大嫌いだ。寒い所の方がまだマシだと俺は思っている。というか、俺を含めた俺の家族全員、そう思っている。寒い所好きなのだろうか。
「……ったく、何でまた墓参りなんだよ」
「彼岸に行けなかったからじゃろ」
「そうでしたそうでした」
とは言うが、夏は夏なりに、冬は冬なりにあの獣道は通り辛い。下手をすれば、春夏秋冬、四通りの獣道に変化するのではないだろうか。どこかのゲーム道中かよ。
冬は落ち葉が酷い。秋の名残りだ。しかも、秋の分が少しばかり微生物に分解されるなり風雨にさらされるなりして、更に脆くなっているせいで、更に転びやすくなっている。
この道を上り下りしていれば、足とか鍛えられそうだな、と思った。
秋ならば彼岸花が咲き乱れる墓周辺だが、冬は雑草すら生えない。俺の唯一好きな彼岸花は、今年あまり見れなかった。
「雑草抜きの手間で省けるよ」
「根からとろうとしろよ」
結局、俺が座り込んでちまちまと雑草の根をとることになった。夏ならば、まだ葉がついているのでやりがいがあるが、今は土の中に残った根しかないので、目に見えた収穫が少ない。途中から意味がないように思えてきた。
その間、祖父は墓を洗い、枯れた花を山の奥の方に投げ、蝋燭と線香に火を点けた。線香の匂いが辺りに立ち込めた。
「墓に供えた花を捨ててよかったっけ?」
「そんなもん知らん」
そういうことで、いつか我が身を滅ぼすぞ。祟りとかあっても知らんからな――。この墓の下にいるのは、俺からいう曾祖父、つまり祖父の父なので、そういうことはないか。
まさか、父が自分の息子を祟ることはあるまい。
「だけど、ちゃんとそういう作法は守れよ」
「本当はお前に言う台詞なんだがなぁ……」
『一本取られたな』と俺に言った。いや、自分で墓穴を掘っただけだと思う。いい感じに墓が目の前にあるけど、その隣にでも埋まるんですか? 大中小と並ぶんですか? 自分で掘って自分で埋まるとか、人生最後の仕事にしろよ?
「上手いこと言った」
「何言ってんだ廻」
曾祖母は二階に移動していた。とは言っても、身体の調子が悪くなったとか、何か問題を起こした訳でもなく、ただの引っ越しだった。病室の窓から見える景色は、前の階――四階――よりも低かった。すぐ手前に見える枝には、葉が一つもついていなかった。
「……あんな風に減っていくのかな」
「馬鹿言うな」
祖父に肘で殴られた。骨が痛い。
曾祖母が寝ている時だからこんなことを言った訳だが、起きていた時に言ったら言ったで、曾祖母に笑われたかもしれない。
『廻ちゃ、そういうもんだねぇで』などと言って。
「人ってのはな、減ることがあり、増えることもあるんだ」
「……それで?」
「次の世代に繋ぐ……って言うのか?」
無理して今の言葉を使おうとするから、祖父は言いたいことが少しズレてしまう。見た目に合わず、ハイカラなのだ。
河童なら河童らしく、芥川龍之介の『河童』でも読んで来い、と言いたかった。しかし、代わりに違うことを言おう。俺の家族は変人どもの集まりだ。一人一人、自分の主義を信じて生きているんだ。
「いいか、爺ちゃん」
だから、俺は俺の主義を語ろう。
「『何かの為に』の根源は親切でも何でもない、だぜ」
今の台詞を、曾祖母が聞いたら何と言うのだろう。
それすらも、笑い飛ばすのだろうか。
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