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田舎秋

秋のお話。

**********


 紅葉が酷い。それは言い換えればつまり、落葉樹が多いということだ。山を見れば紅葉狩りだのなんだのといいことが言える。だが、山を登る者としては、滑りやすくてたまったものではない。

 軍手をはめて、持参したスパイクを土に食い込ませる。スパイクか否かだけで、転ぶ回数はぐんと減る。観光バスに乗って都会からやってくる呑気なおじちゃんおばちゃんにも教えたいくらいだ。それと、田舎を知らない餓鬼どもにも。

「薪と水!」

「はいよォ!」

 ――まあ、有り体に言って、キャンプである。一泊するためのテントなんてない、日帰りのキャンプである。

 薪やら水やら食料やらを持って、山道を行ったり来たり、明日筋肉痛だな、と覚悟しながら走り回っていた。祖父は俺に命令するだけ。仕事しろ、と言うと老いぼれがどうのと言う。ふざけろ。

「うわうわあっぶねェなぁ!」

 踏み出した足が、ぬかるんでいる土の表面を撫で、咄嗟に出したもう片方の足も滑り、最初に踏み出した足を前に出して思いっきり土をかみしめさせて、ギリギリで踏みとどまる。マジで危ないっつーの……。

「ほらまだあるぞ廻!」

「爺ちゃんも手伝えよ!」

 と言っても、ほとんど恒例行事なので慣れっこだが。

 せめて、ゆっくり秋の山を見させてくれ。


 全てを(一人で)運び終える頃には、祖父が材料を全て切り終えていた。じゃがいも、人参、玉ねぎ――。定番のカレーだろう。今しがた、白米を炊き始めたところだ。

「いいか、廻。カレーだけじゃ足りない時はな?」

「釣る、だろ」

 祖父が車のトランクから釣竿を数本、持ってきた。正直、俺は釣りがあまり上手くはないのだが、今は気分の問題だ。俺は一本釣竿を貰い、近くで流れる小川に行く。餌は、持参した魚用餌だ。大きな石を見つけ、そこに腰かけ、竿を振る。

 ポチャン――。

 しばらくは暇な時間が続くだろうな、と俺は思った。強風が吹き、ざわざわと木々が揺れた。その音を音楽に、俺は目を閉じた。

 手の竿にはまだ何も感じない。何か感じても釣れないからあまり関係はないのだが、深くは考えない。

 風で木々が揺れる音。木々から離れて、川に葉が落ちた音。水の流れる音。

 竿が揺れた気がした。

「……よし」

 スッ、と竿を水面から引き上げる。案の定、針につけた餌はなくなっていた。

「遅かった、かぁ」

 針を自分の方に近づけ、もう一度餌をつける。釣れる確率は低いが、楽しければいいのだ。再度、目を閉じる。隣に誰かが座る気配があった。祖父だろう。

「釣れたか?」

「全然」

「下手だなぁ」

 放っとけ、と唾を飛ばす。目は閉じたままだ。

「……ふぅ」

「――よし釣れた」

「はい!?」

 待て待て待て待て! 確かに祖父は釣りが上手いけども! そんな早く釣れるのか!? 餌つけて投げ入れて、かかって釣るまで何秒かかった!?

「これがプロだ」

「……おかしいぜ、アンタ」

 ぶっちゃけ、祖父の見た目は河童に似ているが。

 泳ぎが上手いし、魚、キュウリ好きだし、釣り上手いし、頭のてっぺんテカテカしてるし……。おっと失礼。

「廻は相変わらず下手だなぁ」

「黙ってろこの河童」

 むきになってやろうとすると、余計に釣れなくなる。りきむのは駄目だ、リラックスリラックス。深呼吸をして、釣り針に意識を集中させた。


**********

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