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田舎夏

夏のお話。

**********


 夏は蝉が五月蝿うるさい。しかし、実際、この地域にあまり蝉はいない。むしろ、蝉以外の害虫が多い。車から降りるなり、蚊の大群に歓迎された。

 俺は血液型がO型なので、結構刺される。正直、夏にここに来るのはあまり好きではなかった。しかし、墓参りだ、仕方ない。

「長いの着て来たか?」

「問題ない」

 住んでいる都市部では暑い格好――長袖のシャツとGパン――だが、向こうの地域に着けば丁度よくなる。要するに、温度差が大きいのだ。

夏は丁度いいくらいの気温だが、冬はたまったものじゃない。厚手のダウンを着ても寒いのだ。

 車の中ではシャツの袖を捲る。数時間祖父の車に揺られながら音楽を聞く。このイヤホンもそろそろ変え時かな、と感じた。

 目的地は、自分で言うのもなんだが、かなり辺鄙へんぴな場所だ。傍から見れば『あの車、どうしてあそこにとめているんだろ』と思われているに違いない。しかし、あまり気にしない。

「水持てよ」

「はいはい」

 後ろのトランクから2Lのミネラルウオーターを一本取り出し、右手に持つ。

 車のとめてある路肩から反対方向にあるガードレールに向かう。ガードレールを跨いで、道路の向こうに広がる獣道に足を踏み出す。秋や冬に来ると落葉が酷く、進み辛い道だ。

「手ぇ貸そうか」

「要らねぇ」

 何十回も歩いた道だ。正直、楽勝に進める。

 ガードレールの隙間から獣道に入り、数メートル進む。平らではない。結構急な下り坂になっている。――既にこの時点で木の根やら、ぬかるんだ土やらで転びそうだが、問題ない。深く足を踏み込み、一歩一歩降りていく。

 一番下に辿り着き、左に向かう。雑草が生い茂り、違った意味で歩きづらい。その道の脇に墓が二つあるが、これは目当てのものではない。違う家族のものだ――、が、ちゃんと来ているのだろうか。手入れされた形跡が全くない。

 二つの墓を通り過ぎ、道が二手に分かれる。真っ直ぐ行くか、左に行くか。俺たちのルートは左だった。――ガードレールの隙間からカタカナの『コ』の字のような道順だ。

「爺ちゃん、先登れ」

「偉そうに」

 鼻で笑い返した。先に祖父が登り、次に俺が登る。右手をかけた時に、葉で少し切ってしまった。薄皮だけ切れたようで、血は出なかった。

 二つの墓。

 こけがびっしりとつき、大きさも違う二つの墓。

 俺はボトルのキャップを外し、ドポドポと墓にかけた。祖父が線香に火を点けた。

「左に傾いてやんの」

「地盤が緩いんだろうな」

 祖父が数珠を俺に投げ渡した。それを持ち、合掌。

 虫のワンワンと耳元で鳴く音が聞こえた。


 病院には行かない。今日は墓参りと、道の駅で何かを買っていく予定だったからだ。

 道の駅で、新鮮な野菜を買う。この前、トウモロコシの皮をむいていたら、中から芋虫が出て来たというエピソードがある。それだけその野菜が美味いということは分かるが、流石に精神的ダメージは大きかった。

 本気で勘弁してほしい。

 その場所で野菜を大量に購入。近くの屋台で栗どら焼きとやらが売っていたので、それを一つ買う。中に入っている大きな栗が熱かった。

「夏じゃなくて冬に買うべきだったな」

「二百円損したか?」

「んにゃ、美味いから得した」

 栗どら焼きの包装紙をくるんで、近場のゴミ箱に放る。入ったのを見てから、車のトランクに荷物を積み込んだ。

「五平餅でも食べてくか?」

 祖父が運転席で言った。

「いいねぇ」

 車は都市部ではなく、更に田舎の方に進んでいった。


**********

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