表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

 やっとのことで柳沢家に辿り着くことができた二人は、それでもいささか緊張した面持ちで門をたたいた。


 「どうぞ、殿がお待ちになっております」


 使用人は無表情に告げると、二人を屋敷の中に招き入れる。

 客間に通された二人を待っていたのは、吉保本人ではなく、三人の家臣であった。

 ここまでの仔細を話そうとした野口を、目つきの鋭い男がさえぎり、


「大変な目に合われましたな、殿は全て存じ上げていらっしゃるがゆえ、何も語らずとも、ご安心なされ・・・このような時刻に呼びつけたのが悪かったと、詫びてらした」


「事の始末は我らが方でいたすゆえ、もうお引取りいただいて結構でござる」


「ただ・・・今宵のことは、くれぐれも他言無用ということで・・・」


 三人の家臣は、言葉を決められた役者のように、代わる代わるそう告げると、部屋を出て行った。

 届け物を失くしてしまったのだから、ひどいお咎めを受けると、覚悟していた二人は、やや拍子抜けしまっていた。

 しかし、それで良しといわれるのであれば、こちらからわざわざ何もすることもない。

 二人は言われるがまま、屋敷を後にした。


「旦那、ようござんしたね、何のお咎めもありやせんでしたぜ」


「・・・・・・」


「どうしたんですかい・・そんな顔して・・」


「・・・・・」


「そりゃ、何も聞かれなかったっていうのは可笑しなもんですぜ、それにあの場には、あっし達しかいなかったわけで、それを全て承知といわれてもねえ・・・それでも、もうこれで関わり合いにならねえで済むってことで、良しとしましょうよ・・・あっしはあんな怖ええ思い、もう勘弁ですぜ」


「・・・・・・」


「ねえ・・旦那~」


 口を真一文字に強く閉じ、何も言おうとしない野口に話しかけていた善三も、これ以上何を言っても無駄なようだと同じように口を閉じ、雪道に歩を進めた。

 サクサクという音だけが夜道に残っている。

 野口は考えていた。


(石版にクルス・・・闇鴉・・黒衣衆・・・獣のようなものに食いちぎられた者・・・柳沢様の事・・・・)


(善さんの言うとおり、もう関わらねえほうがよいのでは・・・)


(いや、わしも役人の端くれ、何ができるか判らないが、このまま調べを続けるべきではないのか・・・)


(しかし、今日のようにまた襲われれば、次は死ぬやもしれぬ・・・いかにするか)


 色々なことを頭の中に廻らしていると、気づけば番屋の前に辿り着いていた。


「旦那、着きましたぜ」


 重苦しい空気を纏ったままの野口の横で、やっと解放されると言う思いで、善三が番屋の扉を開けた。

 その声で呪縛が解けたかのように、番屋の椅子に腰を下ろすと、


「おお、今日は危ない目に合わせちまって悪かったな・・今夜はお互いに疲れちまったな・・早く家に帰って休んでくれ」


 あれだけくっついて離れなかった野口の口が開いた。


「へい、それじゃ・・・そんで、明日はどうなさいます?」


「・・・・それは、明日に決めるとしよう、なんだかこのヤマは、俺たちだけのことで済まないようだ」


「それは、どういうことですかい?」


「もう遅い・・明日話すから、今日は帰るとしよう」


「へい・・・・旦那がそういうなら・・」


 おもむろに立ち上がり、番屋を出て行く野口の後を、善三が戸締りをして続いた。

 その際、何かを感じた野口は、柳沢家から帰ってきた道のほうに目をやったが、そのまま家への岐路に着いた。

  ひとつの影がその様子をずっと伺っていた。

 野口と善三の姿が、はるか向こうに見えなくなったのを確認した後、影はもと来た柳沢家の方角へ消えていった。

 寒々とした月明かりの降り注ぐ青白い町に、凍み渡るような鐘の音が、子の二つを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ