序章 第6話暁闇
明けましておめでとうございます。
前回投稿は去年だったので、大分空いてしま
いました。今年も実りのある一年にしたいと
思っています。
と言う訳で7話目です。よろしくお願いしま
す。
青竜を炎で弔い、残った骨を土に埋めたシオンとディレクは、山林が欝蒼と生い茂る中、道無き道を歩いていた。
ディレクの隠れ里へ向かうためである。
人族に滅ぼされた後、鍛冶族の生き残りは、人族が踏み込んで来ない山奥等を利用して隠れ里を形成し、細々と自給自足の生活を送って来たと言う。しかしそこには自ずと限界が生じた。世代を重ねる毎に徐々にしかし確実に人口が減っていき、遂にはディレクだけになってしまったと言う。
「故に隠れ里と言っても、今となっては儂一人しかおらんからな、気兼ねをする事は無いぞ。」
カカッと豪快に笑いながら、ディレクが言うその姿に、シオンは尊敬の念を抱いた。暗い過去である筈なのに、それを一切感じさせないその語り方は、聴くものに余計な先入観を持たせない為の配慮か、それとも彼の中では既に過去の事として整理されているのか、或いはその両方か判断の付きかねぬシオンであったが、ディレクに対する好意だけはどうしようも無かった。
「それでディレク様、先程の炎を出した時に使った竜の力とは何なのですか?」
シオンが前を歩くディレクに尋ねた。
「ディレクで結構だぞ。」
ディレクはシオンの方を振り返りながら、そう応じた。
「いえ!そう言う訳にはいかないですよ。」
ゆっくりと首を振りながら、シオンが応える。
そんなシオンの姿を可笑しそうに見つめると、ディレクは前を向きながら言葉をつないだ。
「堅い奴だな。・・・・まあ良い。竜の力の事だが、お主の世界に魔力はあるか?」
「魔力ですか?聴いた事の無い言葉ですね。どう言う意味ですか?」
「魔力とは世の理を顕す、全ての生物の起源なのだ。」
「生物の起源ですか。」
「そうだ!全ての生物には魔力が宿っておる。」
そこまで言うと、ディレクはシオンを振り返りながら、
「その魔力を媒介として、炎を出す事が出来るのだ。」
と、言葉を繋いだ。
「それは便利ですね。」
先程炎を出した右手を見ながら、シオンがそう応じた。
「まあ、本来であればな。」
再びディレクが前を向きながら応えた。
「と言う事は。」
「嘗ての人竜戦争以降、人族の魔力の絶対量が減ってしまい、さらに其れに伴ってか魔力の扱い方までも、何時の間にか廃れていってしまって、今となっては真面に魔力を操れる人族は皆無に近いのだ。」
その言葉にシオンは、不思議そうな顔をして若干首を傾げながら、
「先程私が放った炎は魔力を操って出したのですよね。」
と言った。
「そうだ。」
「自分で出しておきながら言うのも何ですが、そんなに難しく無かったと思いますが。」
「そうか、それは良かった。お主には魔力を操る才能があったと言う事だな。」
シオンの方を振り返りながら、ディレクが莞爾と笑いそう応えた。
「成る程、竜の頭脳のお陰ですか。」
「恐らくな。」
シオンは再び右手を見ながら暫し沈思すると、何かを思い付いたように、
「ディレク様!この魔力は身体中に巡らす事が出来るのですね。」
と、問うた。
「ああ、やろうと思えばな。」
ディレクはシオンの様子に、やや戸惑いながらもそう返した。
「では、身体の中にある一つの部分に集中させる事は出来ますか?」
「可能な筈だ。」
シオンはそれを聞くや否や、顔を上げ
「ディレク様!刀が出来るまでどれ位掛かりますか?」
と、問うた。
「そうだな、一月は見て欲しいな。」
顎に手を当てながらそう応じた。
すると、
「ディレク様!お願いがあります!」
急にシオンが、真面目な顔で大きな声を出した。
「なんだ!」
怪訝そうな顔をしながら、そう応じるディレク。
しかし、
「竜の鱗で弓を造って頂けないですか?」
シオンの願いは、ディレクの予想の斜め上を行っていたが、
「良かろう!任せておけ。」
その真摯な態度に、ディレクは
二つ返事で返した。
「ありがとうございます。」
「そうなると、一月以上は掛かるな。」
ディレクは再び顎に手を当てそう伝えた。
「時間は気にせず、納得のいく物を打って頂きたい。」
「無論じゃ!」
その言葉にディレクは当然と感じ、
「我が身命を賭して打たせて貰おう。」
と請け負った。
ディレクが余りに普通に返したため、シオンはその言葉の持つ重みに気付けなかった。
「ほれ!ようやっと隠れ里が見えてきたぞ。」
暫く歩いていると、不意にディレクが前方を指しながらそう言ってきた。
その言葉にシオンは彼の指し示す方向を見たが、其処には途轍もなく大きい樹があるだけだった。
「大木しか見えませんが?」
「そうだ!」
「まさか!彼処が?」
「その通りだ!彼処が我が隠れ里だ!」
シオンは唖然と大木を見た。
彼にとって意義ある日々が開始されようとしていた。
次回投稿は1週間後です。よろしくお願いし
ます。