序章 第4話覚醒
最近めっきり寒くなってきて、いよいよ冬本
番と言う感じですね。
今年も寒くなりそうだ。体調に気をつけない
といけませんね。
と言うわけで5話目です。よろしくお願いし
ます。
それは暗闇の中で淡く彩る光であったろうか、まるで彼自身を守ろうとするかの様に、その淡い光は彼を優しく包み込んで癒してくれていた。
その余りにの心地良さに、彼はらしくもなく捕らわれていた。
するとどうした事だろう、何処かからか、彼を呼ぶ声が聞こえて来た。
『◯◯◯殿!』
それは確かに彼の名であった。しかし、今となっては既に捨て去った名でもあった。もはや、その名で彼を呼ぶ者はいない、例えそれが彼の父親であったとしてもである。
それなのに、
『◯◯◯殿』
再び彼を呼ぶ声がする。
その名で俺を呼ぶな!
彼が起き上がるのと同時に淡く青い光が消え、暗かった空間がいつの間にか草原に変わっていた。そして彼の目の前には壮年の男性が佇んでいた。
それは深い知性と教養を併せ持ち、正しく自らの生を歩んで来た者だけが魅せる事の出来た、深い渋みを漂わせた男性であった。
『起きたようですな。◯◯◯殿』
言いたい事は色々とあったが、彼が初対面のしかも歳上に対して、最初に発する言葉は変わらない。ゆっくりと立ち上がると一礼してその言葉を言った。
「お初にお目に掛かる。私は」
目の前の男性から手で制されて後の言葉を呑んだ。
『貴方の嘗ての名は仰らなくて結構ですよ。』
「な!」
彼は一瞬唖然としたが、すぐに。
「私の嘗ての名を知っている事と言い、何故其れを捨てた事まで知っておられるのですか?そもそも貴方様は一体何方なのですか?」
『ふむ。』
男性は顎に手を当てながら、言葉を紡いだ。
『まず、私が誰かと言う質問だが、私は先程まで其方と闘っていた青竜である。』
彼は暫し青竜と名乗った男性を見ていたが、直ぐに腑に落ちた。よく見れば目の前の男性は髪も眉も先程の青竜と同じく青く、眼の色も同じ赤だった。
「成る程納得しました。しかし、此処は一体何処なのですか?」
彼は草原を見回してそう尋ねた。先程迄とは明らかに違う場所にいたので当然の質問だった。
『此処は其方の心の中だ。如何しても其方に礼が言いたくてな、心の中に入らせて貰った。その際其方の情報が少し入って来てな、嘗ての名を知る事が出来た訳だが、勝手に覗き見て済まないと思っている。』
ゆっくりと首を横に振りながら彼が答えた。
「いえ、貴方様は他人の秘密を悪戯に話す方では無いでしょう。しかし、お礼ですか?私に。」
『ふむ、だがその前に一つ言っておかなければならない事がある。この世界はお主がいた世界とは違う別の世界である。』
「別の世界ですか。」
『さよう、お主は次元の裂け目によって、この世界にやって来た。憶えがあろう。』
そう言われて彼は先程いた真っ暗の空間を思い出した。
「成る程、理解しました。つまり私は二度と私の生まれ故郷に帰る事は敵わぬと言う事ですね。」
『理解が早くて助かるが、お主の申す通り恐らく二度と元の世界に戻る事は敵うまい。』
「そうですか。」
彼に一抹の淋しさはあっても、落胆は無かった。
『お主には如何しても礼が言いたかった。儂の願いを叶えてくれた事への例をな。』
「貴方様の願いですか?」
『然り、実はな其方が次元の裂け目からこの世界に迷い込んで来た時に
に、儂は其方の尋常ならざる力を感じこの場に呼び寄せたのだ。』
「それは貴方様が全てを仕組まれたと言う事ですか?」
『そうでは無い。儂が呼び其方が其の呼び掛けに応えてくれた。お互いがお互いを引き寄せた。ただそれだけの事である。』
「成る程、そうかもしれませんが、貴方様は死にたかったのですか?」
そう問いつつも彼は違うと思っていた。目の前の青竜から悲壮感は感じられなかったからである。
『厳密に言うと少し違う。』
青竜は苦笑いを少し浮かべ語り出した。
『儂は死にたかった訳では無い、儂の思いを受け止めてくれる者に全てを託し、此の世を去りたかったのだ。』
「思いですか?」
『然り!遥か昔の話であるが、この地上には・・・・・』
そう語り始めた青竜は竜族と人族の諍いから発展した、人竜戦争の話をしたのである。そして全てを聴き終えた彼には何となく青竜の思いが理解出来た。
「何となく理解出来ました。私もまた嘗ての人族同様貴方様の血を呑んだ事により途轍も無い力を得た。しかし、それだけでは何の意味も無かったのですね。」
『然り、制御出来ない力は回りだけで無く自らをも滅ぼす。嘗ての人族がそうであった様にな。』
「あの時、貴方様を倒した後、鋒に引っ付いていた肉片を、何故食したのか上手く説明出来ませんが、食べなければいけない気がしました。あれはまさか・・・」
青竜はゆっくり頷き、
『儂の脳髄の核である。それを食した今のお主には竜の力と頭脳が備わっておる。』
「ええ、理解出来ます。今迄より遥かに頭が明瞭になって、回転が早くなっております。」
『儂の願いは叶った。今の其方ならその力を正しく使って行けるであろう。』
青竜は何処か遠くを見つめる様な目をしていた。
「一つ聞いていいですか?」
青竜は頷く事でそれに応じた。
「最初の決闘によって倒された竜族の若竜というのは、貴方様の・・」
『うむ、儂の息子であった。そして人族の若者は息子の友人でもあった。』
青竜には最早人族に対する恨みは無かった。ただ、過去は過去として捉え、より良い未来を望んでいるのである。
『そうだ、其方は名を捨てたのだったな、儂の息子の名はシオンと言った。其方はこれからこの世界でその名を名乗ると良い。』
彼に否は無かった
「有難う御座います。喜んで名乗らせて頂きます。」
『それと、先程其方が助けた者は儂の古い友人でな、鍛冶族の唯一の生き残りにして、最期の長ディレクである。』
「そうだったのですか。成る程。」
そう言って彼は笑みを浮かべた。
『彼に新たな刀を打って貰え、儂の鱗を使ってな。』
「有難う御座います。」
『それと伝言を頼む。先に逝くとな。』
「必ず。」
『最早思い残す事は無い、より良い未来を願うだけだ。』
「貴方様の死に臨んでの願い、此のシオン我が剣と剣士としての魂に掛けて誓わせて頂きます。この力を弱気立場の者達の為に使うと。」
そう言うシオンに対して青竜は慈悲深い眼差しを向けて来た。
『有難いが、儂は其方が幸せになる事を先ず望む、自分自身が幸せで無い者が、他人を幸せにする事等出来よう筈も無いからな。』
その言葉はストンとシオンの心に嵌った。
「しかと肝に命じておきます。」
シオンがゆっくり頭を下げると、青竜はその姿を薄れさせながら『然らばだ。』と言い、消えていった。
次回は1週間後の12時の投稿となります。
よろしくお願いします。