序章 第2話死闘
久しぶりに投稿します。
今後は1週間以内に投稿出来るよう鋭意努力
します。
彼にとっては自分の目を疑う光景がそこにはあった。空色に近い青い鱗に覆われた巨体と、胴体より長い翼、獲物を冷然と射抜く爬虫類の目、一噛みで骨まで粉々にされそうな獰猛な牙、どんな鋭利な刃物よりも鋭い爪。
「こいつはまさか竜か?」
彼は人知れず呟いた。彼にとって竜とは伝説上の動物であった。まさか実際に会う事になろうとは考えもつかなかったのである。
ギャオゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
束の間の邂逅はしかし長くは続かなかった。必殺の爪の一撃を弾かれた事に怒りを感じたのか、竜が咆哮する。
その瞬間に首筋に刺すような嫌な感覚を覚えた彼は、直ぐに背後にいる老人の首根っこを掴むと、横に退避した。
間一髪!
彼が横に飛んだ直後竜の口から炎が吹き出し、彼と老人の背後に聳えていた森の木々を一瞬で10本以上焼き溶かしてしまった。
「なんという威力だ、此れが《古の叡智》と謳われた竜の実力か。」
そう言った彼はしかし、その言葉とは裏腹に嗤っていた。それは殺気と闘志の篭ったゾッとするような嗤いであった。そして彼がその柄を握る手にも僅かに嗤いがあった。
武者震いである。
背後では老人が何か喚いていたが、相変わらず何を言っているのか分からない。冷然と無視する事に決めた彼は、再び竜の前に躍り出て一気に竜の懐に飛び込もうとする。
そうはさせまいと、竜がその鋭い爪を彼目掛けて振り下ろすが、彼は跳躍によってそれを躱し竜の懐に飛び込み、竜の腹にある鱗と鱗の隙間目掛けて渾身の諸手突きを放つ。
ガキィィィィィィ
彼の放った一撃は竜の腹を多少傷付けはしたがしかし、その代わりに彼の刀がパッキリと折れてしまった。
彼は一瞬茫然自失としてしまった。
一瞬の判断ミスが死に直結するのが、戦場或いは生死を賭けた闘いである。余程の幸運の持ち主か、相手の力量が格下で無い限り、この事実は変わらない、しかしこの時は幸運が彼を救った。流石の竜も彼の全力突きが効いたのか、一瞬動きが鈍ったのである。
両者共に一瞬の間が空き、次の瞬間には両者共に動いていた。竜は彼に対して右の爪を振るい、彼は後方に下がったのである。
彼は折れた刀を鞘に仕舞い、鞘ごと刀を腰から抜くと横に放った。
ギャオゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
再び竜の咆哮が辺りに轟く。炎を放つ気である。
今度は彼は横では無く前に、竜の懐に飛び込んで炎を躱した。
竜の懐に飛び込んだ彼は刀を左手に持つと、間髪を入れずに竜の左脚の付け根に浅く抜き打ちを放ちながら脚の間をすり抜けた。直ぐさま刀を鞘に収めると、今度は尾の付け根に空中で仰向けになりながら、浅く抜き打ちを放った。一瞬と言うには早すぎだが、僅か数瞬の攻撃であった。
なるほど竜を前にして嗤うだけのことある。彼は強い、確かな実力とそれに裏打ちされた自信を漲らせている。
しかしながら相手は竜。それも彼は知らなかったが、目の前の竜はこの世界に唯一残った古代竜で、しかも嘗て古代竜が大陸を支配していた当時はその王でもあった青竜である。余りに長く生き過ぎたため今となっては老竜であるが、それでも全ての生態系の頂点に立つ存在である。
その青竜が今背後に回った彼を攻撃せんと、尾を振り下ろして叩き潰そうとする。
尾への攻撃後、青竜の巨体の横へ移動しようとした彼よりも早く、青竜の尾の攻撃が迫ってくる。彼はそれを跳躍で躱しそのまま青竜の尾に着地するや否や、胴体に向かって尾を駆け抜け、そして背骨を駆ける。
背中の異変に気付いた青竜は抵抗し身体を大きく揺すった。
彼の体制が大きく崩れる。
しかし、彼は背後腰に差した脇差を抜くと背骨の傍にある鱗と鱗の隙間目掛けて振り下ろした。
ブシュュュュュ
青竜の血が飛び出て、彼の顔にかかった。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ
偶然にも竜の急所だったそこを刺された青竜の叫びが響く、そして青竜はまるで錯乱したかの様に暴れまわった。
そのあまりの揺さぶりに、彼は堪らず脇差から手を離してしまった。
地上に降り立つと彼は顔にかかった青竜の血を舐めて呑み込んだ。それは彼にとって闘いに昂揚した時に魅せる癖だったが、其処には彼の思いもしない効果があった。
次は来週中に投稿予定です。よろしくお願い
します。