序章 第10話訣別
ようやく序章が終わりました。次回から第1
章の開始です。それに伴い序章を添削して改
訂をしようと考えています。今後共よろしく
お願いします。
と言う訳で、序章最終話です。
その時シオンは森の中で大の字で寝ていた。彼自身の思い描いた通りに竜の力を完璧に使いこなす事に成功し、それまで溜まりに溜まっていた疲労が一気に溢れ出し、身体を休めていたのである。
ドゥアンガァァァァァァァァァァァ
突然、隠れ里の方から聞いた事の無い大きな音が聞こえて来た。
嫌な予感を感じたシオンは直ぐさま立ち上がり、隠れ里の方向へ走っていった。
なんだこの不吉な感覚は!まさかディレク様に何があったのか?
拭っても拭いきれない不安を抱えながら、シオンは一気に森を抜け大樹の前に躍り出ると、大樹の上方から煙りが上がっている事に気が付いた。
シオンは顔を青ざめさせながらも、大樹の中に入ると、一気に階段を駆け上がり工房を目指した。その間上階から初めて嗅いだ何とも嫌な匂いが漂って来た。
シオンは知らなかったが、それは火薬の匂いであった。工房の階に近づけば近づく程にその匂いが強くなってくる。
そして工房に辿り着くや否や扉を蹴破らんかの勢いで開け、中にはいると、そこには!
「ディレク様!」
地面に横たわるディレクが居た。慌てて駆け寄ると、ゆっくり彼の上体を起こすと、心配そうに問いかけた。
「ディレク様!大丈夫ですか?しっかりして下さい。」
見た所ディレクに外傷は無かったが、明らかに以前と様子が違っていた。以前は老齢ながら生気が多大に感じられたが、今は生気が全く感じられず、死ぬ寸前の様相を呈していた。その時シオンは刀と弓を造る事を受け負ったディレクの言葉を思い出していた。あの時彼は何と言ったか?
『我が身命を賭して打たせてもらおう。』
そう言ったのでは無かったか!あの時は余りに普通に話すものだから、文字通りの意味と受け取らなかったが、しかしそれが掛け値無しの本音であったのだと、今漸く気が付いたのであった。
「ディレク様、貴方はまさか!」
シオンの声は震えていた。それは或いは唯の哀しみか、或いは自らの不明に対する怒りだったかもしれなかった。
「シオン。鍛錬は終わったのか?」
それは此れから死に逝く者とは思え無い程、晴れやかな笑顔であった。
そしてその笑顔を見た時シオンはディレクの或いはディレク達の心情を理解出来てしまった。
「はい、終わりました。」
「そうか。此方も終わったぞ、約束通り至極の逸品が出来上がった。」
そう言いながらディレクの指し示す方向にテーブルがあり、その上に二本の刀と弓が置いてあった。シオンはそれらを見ながら、自らの察しの良さに腹を立てていた。本来ならディレクに対して文句の一つどころか十や二十でも言いたいところである。ところが、ディレクは自らの意思によって死に場所を決め、最期の仕事を成し遂げるための礎として、己自身の生命を文字通り掛けたのである。それを隠したのはシオンに心配を掛けたく無かったとか、迷惑を掛けたく無かったとか、そんな低次元な考え方では無かった。何処までも自分本意で身勝手な考えでありながら、清々しい程に己の信念を貫き通した一人の男の最期の我儘、或いは意地であった。シオン自身既に己の生きる道を決めている。それだけに、ディレクのその生き様に一種の羨望を感じていた。なろう事なら己もこんな最期を迎えたいと、そんなディレクに言える言葉など一つしか思い浮かばなかった。
「感謝します。ありがとうございました。」
「なんの!感謝するのは儂の方だ!其方のお陰で儂は、いや儂等は儂等の望む死に場所を得た。それは彼奴も同じ事彼奴も感謝しておるだろう。」
そこでディレクはシオンの腕をギュッと掴み真剣な表情で話し始めた。
「シオンお主はこの島を出て大陸を目指せ!そこであるがままを受け入れ、己の進むべき道を指し示せ!」
ディレクの視線を受け止めたシオンは迷うことなく、
「はい!」
と答えた。
「そして思うがままに生きよ!」
そこで言葉を切ると、さらに強くシオンの腕を握ったディレクは、言葉を投げ掛けた。
「あるいは、お主には不要かもしれないが覚えておけ、この世に真実など何一つ存在しない事を、ただ、事実だけが唯一の確かな物なのだ、他に決して惑わされるな!」
「肝に命じときます。」
そこでディレクがフッと笑うと、
「それと一つ頼みたい事がある。」
と言った。
「何なりと。」
「儂の亡骸は彼奴と同じ様に火で弔って、骨は同じ処に埋めてくれ。」
「必ずや!」
「頼む!」
ディレクはそう言いうと、静かに息を引き取った。シオンは一旦亡骸を横たえると工房を探索し始めた。やがて奥の物置部屋に厚手で大きい布を見つけると、亡骸まで戻り布でディレクを包み込み再び横たえた。シオンに逡巡があったとしても、それは僅かな時間だった。すぐに立ち上がるとテーブルの上に置いてある刀を手に取り、鯉口を切るとゆっくりと抜いた。そこには彼が倒した青竜の如く美しい青々とした波紋があった。もう一振りの刀には小さな布が掛かっていて、この世界の文字で『蒼刀シリュウ』と書かれていた。
弓の方見ると同じように青々とした流麗な形をしていて、掛かっていた布には『蒼弓アマンテ』と書かれていた。どうやらこれがそれぞれの銘らしい。シオンはそれを確認すると刀を両腰に差し弓を肩に掛けた。そしてディレクの亡骸に戻ると、亡骸をゆっくりと両手で持ち上げ工房を出て行った。
シオンはディレクの遺言通り彼の亡骸を火葬にして、骨を青竜と同じ場所に埋めた。そして隠れ里に戻り旅路の支度を整えると、そのまま誰に見送られる事なく隠れ里を後にした。
次回は2週間後の投稿となります。




