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恋の火種

作者: 二本狐

パソコンでお読みの方は縦書き表示になさると読みやすくなるかと思います。


恋のカタチ、いろいろあって不思議です。

 恋愛は燃え盛る炎だ。熱を発し始めると時間とともにどんどん火が大きくなり周りを巻き込みながら最後にはすべてを灰とする。

 ああ、例えばヤンデレと言われるものだ。AさんがB君のことが好きすぎて、ストーカーして、最後には無理心中をしようとする。あれは恋を燃え上がらせすぎて心を灰にいっぱいにした結果だ。

 恋から愛へと変換するその過程。その過程が一番危うい時期だとわかる。ほら、教室の両端ではその過程と愛へと成就した二組のカップルがいる。教室の後ろにいるカップルは今日が月曜日だというのに週末どこにいくかもう話しあっている。その二人、女の方は所謂厚化粧をしているし、男の方は学校の規定があるので髪は染めていないにしろワックスをつけている。

 この気持ち悪いカップルはまだ”恋“だ。

 汚物をみるような視線を送った後、今度は黒板の近くでゆったりとした会話をしている二人は、きちんとした黒髪だ。どちらもさっきの気持ち悪いカップルとは違い清潔感に包まれており、今日も一緒に帰ろうという会話をしている。こっちはすでに”愛“へと昇華している。

「ほお、廉大(れんた)はやっぱり黒髪最高、ってやつか?」

「……そうだよ徹次(てつじ)

 軽く振り向きながらそう答えると、そこにはニヤリと口元を歪ませている徹次が立っていた。その隣には徹次の彼女の由美香(ゆみか)さんがいる。

「まだ帰ってなかったんだね」

「ちょっと職員室に用があってさ。といってももう帰るけどな」

「そっか。死ねよもう」

「なんでいきなり暴言吐くんだよ!?」

「あ、ごめん。つい独り身の本音が。謝るから死んで?」

「よーしちょっと表出ろやゴラァ!」

 そう言われてグラウンドをみる。外は雪がパラパラと振っていて、そろそろ一センチほど積もるかつまらないかぐらいまで雪が積もっていた。

「寒いから徹次だけ出てよ。僕もかわりに格ゲーやるからさ」

 そう言って携帯ゲームを取り出しておもむろに起動しようとすると徹次に怒鳴られた。

「俺一人だけでても意味ねえだろ!?」

「じゃあ由美香さん、一緒に出てデートにでもかこつけてよ。ほら、『もうこんなに冷たくなっちゃって……ふふっ、私が温めてあげるわ。ほら、だから、もう一回だけ、声をきかせて……聞かせてよ……』ってさ」

「「死んじゃってる!?」」

 あ、本当だ。もう、親友に彼女ができたからって動揺しすぎだ。そっとため息を吐くともう一度窓の外をみるとさっきより雪が激しくなっていた。

 僕は二人に窓の外を指して激しく降り始めた雪を教える。

「こりゃ早く帰らないと下手したら帰れなくなるな……悪い廉大、俺ら先帰るわ」

「ごめんね廉大さん」

 数回僕に謝ってくる彼は僕は手をひらひら振ると、二人とも教室から出て行った。

 それと入れ替わるように一人の女子が入ってきた。その姿を見て僕は片眉をピクリと上げる。さっきから何度も来ている女子だ。学校指定の色的に二つも学年が下なんだろうけど、誰かを探しに来ているのかな? その割には来る頻度が高すぎて怪しいんだけど。

 しょうがない、声をかけよう。

「ねえ君――」

「ひゃはぁう!」

 文字通り飛び跳ねた。その反応に僕もびっくりした。

「な、なんでそんなにびっくりするのさ?」

「ご、ごめんなさい!」

 その女の子がものすごい勢いで頭を下げるので、逆に僕も気後れする。後ろから四人にして八つの視線が背中に突き刺さるように向けられていて、変な汗が出てきた。

「と、とりあえずちょっと廊下でよっか」

「は、はい……」

 二人で廊下に出て、気づく。そういえば雪が振ってるんだから外は寒いに決まってる。少し手で腕をすり合わせて熱を起こしながらもう一度問いかけた。

「それで、なんで何回も僕の教室に来ているの?」

「え、ええっと……あの、廉大先輩ですよ、ね?」

「ううん」

「ええっ!?」

 なんとなく否定してみたら驚いた声を出した。そのあと狼狽「えと!」やら「あのその!」とか必死で言葉を紡ごうとしている。いやはや、面白い。

「まあ、廉大先輩だけど」

「廉大先輩じゃないですかぁ!!」

 起こったように食いついてきた。それでも猫っぽくて怖いというよりは可愛い感じ。でも、こんな後輩、僕知らない。

「君は?」

 そう問いかけると悲しそうな表情をして今度は僕が少しばかり狼狽する。それでもこの女の子はニッコリと笑うと口を開いた。

「私、(ゆみ)(かわ)真弓(まゆみ)と言います!」

「つまり弓道部?」

「はい!」

 なるほど、知らない。弓が二つついていたからそう言っただけで、別に僕は弓道部じゃないからこの子との接点はない。ああ、あるとしたら武道関係か? 剣道部だったし。それでも3年時はすぐ引退したけど。

「それで、僕のことを何故か知っている後輩はなんで僕の教室に来ているのかな?」

「えっ……私のこと覚えてないんですか……」

「まあね」

「そ、そうですよね……ちょっとしか会話したことない人なんてすぐ忘れちゃいますよね……」

 逆によくそれだけで覚えているなんて思えるよなぁ。僕は自慢じゃないけど記憶力は悪いほうだと思っているし。

 この女の子の顔をもう一度みる。……なんか見たことがあるような顔だ。どこでだっけ……?

 深く考えこんでいると、弓川がくしゃみをする。

「少し移動しよっか」

「そうですね!」

 僕らはゆっくりと歩き始める。向かうは渡り廊下を渡った向かいの校舎にある図書室。あそこにはストーブがある割には誰も行かないとても都合の良い場所だった。

「さて、と」

 司書さんは別に騒がしくしても注意をしない人だが、一番奥で、声を少し抑え気味に切り出す。

「それで、きっと僕に用があったんだよね?」

「はい!」

 僕があえて声を小さくして話しかけているというのに、なんでそんな大きな声を出すのかな。そんなことに突っ込んでいてもしょうがないけどさ。

 僕はジェスチャーで声を抑えるよう伝えると、弓川が口元を抑えて「すいません……」と軽く頭を下げた。

「えっと、そのですね。今日、なんの日かしっていますよ、ね?」

「もちろん。今日は漫画雑誌の発売日だ」

 先週の続きが気になっているから帰りに買う予定なんだよね。あ、でも今お金持ってきてないや。なら一回家に帰った後に――

「違いますよ! よく思い出してみてください!!」

「ええ……ああ、そうか……」

「思い出しましたか!」

「うん、今日は二月七日、月曜日!」

「その月日をかけたのが今日の日付です!!」

 ああ、うん。わかってたよ。今日は……。

「|二月十四日(リア充の命日)でしょ?」

「あってますけど! あってますけどなんか違いますよ!?」

「どっちなのかはっきりしてよもぅ!」

「なんで私逆ギレされたんですか!?」

 何この子、物凄いツッコミ上手。あれでも、なんかこの子のツッコミって誰かと似ているような……。

「あぁ」

「今度は何ですか……」

 もう一回まじまじと弓川をみる。……やっぱり。

「もしかして弓川って、僕の親友ポジションにいる徹次の妹、か?」

「うぇっ? なんで今このタイミングで思い出すんですか!?」

「ツッコミが似ているからね」

 うん、切れがあるツッコミは僕は大好きだ。思う存分ボケられるからね。ああ、たまに意図的じゃないボケも突っ込まれて困るけどさ。

 まあそれはともかく。うん、徹次の妹ってことは確かにあったことはある。

「徹次の家に行った時に会ったなぁ。徹次はなにも弓川……ややこしいから真弓ちゃんって呼ぶよ。真弓ちゃんのこと触れなかったからね。まさか同じ高校だったとは思わなかった」

「そ、そりゃそうですよ。あの時会ったのは一年前ですもん。私、まだ中学生でしたし」

 そういえばそうか。大体一年前か。でも、だからってなんで僕に会いに来たんだろう? いや、それよりも今日が|二月十四日(リア充の命日)ということに問題がある。

「それで、リア充の命日もとい二月(にがつ)十四日(じゅうよっか)だけど、それが? ……もしかして僕にチョコをつくってくれたとか!?」

「すいません! チョコは作れていないです!!」

「チッ……」

 思わず舌打ちしてしまった。これだけ期待させといて……。

「さすが、二月十四日。僕を持ち上げて一気に落とす……」

「ご、ごめんなさい。でも、でもでもでも! 持ち上げて落とすつもりじゃないんです!」

 そう言ってごそごそと鞄の中を漁ると、一つの物を僕に隠しながら背中へと持っていく。不思議に思って真弓ちゃんを眺めていると、どこか顔を赤らめている。なるほど、わからん。

「先輩って、明日から自由登校ですよね?」

「ああ、あれ実質自由登校ってじゃなくて登校禁止ね。登校していいんだったら僕は毎日登校するつもりだった」

 あの日、教師に言われたことを思い出す。

『お前ら、自由登校って言うけどな、絶対来るなよ? 来るのは事故に遭っただとか、重要性があることぐらいだ。間違ってもくるなよ? いいな?』

 あそこまで念を押されたんだ。行けるわけがない。

「家でゴロゴロしてても暇なんだよなぁ」

「廉大先輩ってもう大学決まっているんですか?」

「んぁ? ああ、C大だよ。奨学生試験ってのに受かったんだ」

「小学生試験? 小学校に通っている子でも受けられるものですか?」

「どこの海外の大学だよ……! てか僕にツッコミをさせるとはなかなかだな!」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございますじゃない! っと、つい声を張り上げてしまった」

「そう、ですね」

 何事かとこちらを覗いていた司書さんに会釈をすると、声をまた抑えめに会話を続けた。

「それで、その隠したものはなんなんだ?」

 そう問いかけるとまた真弓ちゃんはまた頬を朱に染めて、そっと唇を開く。

「えっと……私、料理はできません」

「うん」

「ちょっと変なことを口走っちゃうかもしれません」

「うん……」

「ポニーテールもちっちゃいです!」

「いや、そこは可愛いと思うけど」

「……あぅ」

 あれ、口に出てたか? やばい。今のは恥ずかしい。誤魔化すように頬を掻くと、なんとか持ち直したらしい真弓ちゃんは上目遣いに僕をみた。

「そ、それでも一生懸命頑張って……友達にも手伝ってもらって! クッキーを焼いてきました!」

 思いっきり僕に突き出して来たのは、タッパーに入ったクッキーだった。一緒に、手紙も添えられている。……手紙?

「あの、これって……」

「そ、それは! あとで! 読んでください!」

「あ、はい」

 物凄い押しだ。素直に頷いておく。

「開けていい?」

「はい!」

 元気な許可をもらったところで蓋をあける。

 形はお世辞にも綺麗じゃないけど、手作りってのがありありと分かって、それだけで僕は嬉しい。男って単純だ。

 その中から一つクッキーを取り出してそっと口の中に入れとして、ふと真弓ちゃんが気になって見ると、まじまじとクッキーを見ていた。

 食べづらい。けど、注意したところで意味がなさそうだから我慢して口に入れて噛む。

「…………美味い」

「やった!」

 お世辞とか抜きでほんとうに美味しい。手作りっていうのがまたぐっとくるっものがある。

「あ、あのあのあの! 胃袋掴まれました?」

「んっ? まあ何度でも食べたいとは思うけど」

「そ、そうですか! 言質は取りましたよ!」

「えっ、なにそれ怖い……」

 言質って……なんだろ、冷や汗しか出てこないんだけど。

「やっぱりうそ――」

「レコーダーにも取りましたもん!」

 笑顔でレコーダーを掲げる真弓ちゃん。

 何この子。徹次より狡猾じゃね?

「言質取ったって……なにするのさ? まさか毒味……だめだ、毒味は友達にさせてあげて」

「違いますよ!? だいたい私もそこまで酷い料理は作りません!! そうじゃなくて、えっと……」

「なにさ?」

「これだけは知ってて欲しいんです!」

 そう言うと何度か深呼吸をする真弓ちゃん。なにを? え? もしかしてこの中には実は一枚だけはずれがあるとか――――


「好きです!」


「…………………………え?」

「えっと……好きなんです!! 廉大先輩のこと!!」

 思考回路が追いつかない。好き? 僕のこと? ライクじゃなくてラブで?

「……な、なん――」

「全部手紙に書いてあります! 失礼します!!」

 そう言い残すと鞄をひったくるように持って図書室から出て行った。

 暫く呆然とその後姿を眺めていた。そうだ、手紙。手紙を……。

 おもむろに手紙を開くと、そこには文章が綴られていた。


“先輩のことが好きです。

 高校の時に私に進む路を示していただきありがとうございました。おかげさまで私には保育士になるという夢ができました。でも、言いたいことはそれだけじゃなくて……。

 あの時から、私ずっと、貴方の背中を目だけで追いかけていました。すぐにお兄ちゃんにはバレちゃったんですけど……あと、友達にもばれちゃいました。私、性格上ばれやすいみたいなんです。

 でも、いいんです。そのおかげでお兄ちゃんにも、友達にも協力を得られましたから。だから今日この場を作れたんです。

 もう一度書きます、言います!

 好きです。好きなんです! でも、いきなり言われてもノーと言われるだけだとわかっています。なので……友達以上から始めさせてください!

                                  弓川真弓より”


「……真弓ちゃん…………」

「は、はい……」

 びっくりして声がした方を見ると、そっと扉から伺っている真弓ちゃんがいた。頬は赤くなってて、いかにも恋する乙女だ。

「君は、今、どのぐらい燃え上がってる?」

「え? えっと……」

 質問の意味はわかってもらえないかもしれない。恋は炎だ。下手にすれば燃え上がり過ぎて、心を灰にするのと同義。

 案外リア充死ねって言ってる僕が恋愛に対して臆病になっているのはそこなんだ。怖いんだ、恋が。愛が。

 だけど、この子はなにかをわかっている。僕は、そう信じて真弓ちゃんをジッとみる。

 真弓ちゃんは質問の意図を測りかねているみたいだけど、一生懸命考えてくれている。……ちがうよ。

「考えるんじゃなくて、心の中で思っていることを言って欲しいんだ」

「……はい!」

 一拍おくと、真弓ちゃんは顔を輝かせながら、言った。

「私の中ではいつも風が吹いているんです。その、不安という風が……でもその風を物ともしないほど、廉大先輩という強い薪があるからどんな強風でも消すことはできません!」

「……そっか」

 心の支え、ということか。誰かに頼られているということ? ちがう。

「うん。ありがとう。手紙の返事だけど……」

 一度口を閉じる。僕の中ではそういう炎は燃え盛っていない。でも、たった今火種は入れられた。そう、

「真弓ちゃん、まだ恋とかには発展してないけど、少し君に惹かれたよ。だから……」

 ――友達以上から、よろしく。




 恋は炎だ。でも、最初から燃え上がることはない。誰かに頼られ、支えられるという火種があるからこそ、最初の恋は発展するんだ。

 



お読みいただきありがとうございます。


少しばかり自分に制限をかけて書き上げたものです。

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[良い点] いい話だった。こんな恋がしたいかも。恋の行方が見たい。 [気になる点] 最初の主人公の暴言に違和感を感じた。 [一言] 最後の登校日にこんなハッピーエンドがあるなんて感動する。このあとどう…
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