悪魔の夜。
悪魔の夜は長い。
そして、悪魔は眠らない。
人間の頃からの習慣みたいなものだからか、自分は少し寝る方だ。
まぁ、寝るのは、あんまりすることもないし、退屈だし。勉強なんてのもちょっと……。
因みに眠れない。つまりキャントではなく、寝る必要がないというドント。というのが悪魔だ。
おかげで最近の深夜アニメは録画せずともリアルタイムで視聴可能だ。
それ以外の時間潰しというと、自分は夜空を見ることが好きだ。だから、よく夜空を眺める。
生憎、望遠鏡が無いのは残念だが。
それにしても今日は星が綺麗だ。多くの星たちが暗い夜空を照らしてくれる。
何度も同じような夜空を眺めているけど、何度見ても飽きないものだな。
都会は嫌いだ。夜空が明るすぎるせいか、星達が見れない。だから、嫌いだ。
そう文句を思いながら、自分は自分の部屋の窓越しに夜空を見上げる。
東の夜空には上の方に赤っぽく光る星。その右下に白く光る星。そしてその左下に白っぽく光る星。の三つの三角形が見える。たしか春の大三角形って言うやつかな。
他にも、望遠鏡があったら、水星とか土星とか、他にも色々と見れただろうに。無いのは、本当に残念だ。悪魔の肉眼でも限界はある。
それからしばらく何となく星たちを眺め続ける。
すると、急に自分の部屋のドアの方からノック音が聞こえてきた。
突然のことなので、可愛らしくもビクッとした。
そりゃあビックリ位するさ。でも、悪魔なのに情けなくも感じてしまうのは自分だけだろうか。
返事を待ってるのか、入ってくる様子が無いので、許可の返事、そこからは父親が入ってきた。
父親が自分の部屋に入ってきたのはいつぶりだろう。あっ、結構最近でした。
しかし父親はなにやら少し不安げな顔で、何かを言いたそうにしている。タイミングでも見失ったか。
仕方ない、ここは助け船を出そう。
「父さ……」「ナガ……」
ものの見事に、助け船を大破された。こちらまで沈没させる気なのか。
「「…………」」
今の状況を分かりやすく伝えよう。気まずいです!! もうこうなったら、強引に迫るしか道はない。
そう思ったら、俺は即行動。
「父さん、俺に何か用事? 頼み事? それとも晩酌でも付き合おうか?(未成年だけど、気にしたら敗けだと思う)」
「まぁ、用事があってだな。晩酌は、また今度。えーとだな、もうすぐお前も16歳だ。そのそんなる前に必要なものがあってだな……」
つまり要約すると、魔界でレッツ買い物♪
何かを買うのかは謎なんだが、後のお楽しみなのかな。
そして魔界……。気になる。今まで、そんな存在すら知らなかったし、あるとも思ってなかったから、余計に気になる。こうなれば行くしかない。
二つ返事で、買い物の件を了承した。
魔界か……。楽しみだ。
胸を弾ませながら、出掛ける準備を整える。
――時刻 0:00
魔界への行き方は簡単だ。
両親の部屋にある棺の中に入る。ただそれだけ。
そして、両親曰く、この棺は普段はベッドとして使ってるみたいだ。よく寝れるよな、あんな密閉空間。俺には耐えきれそうもない。
ああ、少し話がそれ始めそうになったけど、棺の中を抜けた先に魔界だとか。
もしかしたら、変なところにとんで、モンスターハウス的な危険な場所に低確率で行く可能性もあるとかないとか……。
やめて欲しいよ。只でさえプレパラートのような繊細な心の持ち主に、そんな脅しは危険だよ。
まぁ、冗談らしいから、そんなに深く考えないことにし、棺の中に恐る恐る入ってみた。
ほ、本当に冗談だよね。
すると、最初こそ普通に暗いだけだったが、時間が少したつと、景色は一変した。
そこは、薄暗くも暖かみのある月の光りが射していて、さっきまでの世界と変わらずの土地や夜空がそこにはあって、何故か月は二つある。
今いる場所は、周りは山々で囲まれていて、どうやら町外れの近くの丘みたいなところにいるみたいだ。
「ここが、魔界……」
期待していた通りの神秘さに驚いた。
思っていたのとは違う静けさだった。
殺伐としてではなく、静寂としてだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、父親も来て町まで出発だ。
町に近づくと、さっきまでの静けさはどこえやら、元の世界の都会のような賑やかさが伝わってきた。
町には、見渡す限り悪魔。悪魔。悪魔。河童!? 悪魔だ。
ちょっとここまで大集合だと、正直気持ち悪いかも。俺も悪魔だから、あまり人のことは言えない立場だけど。
でも、面白い。
ここが魔界か……。
父親曰く、魔界とは、人間界を模して創られたもの。勿論、創ったのは現魔王。
素で恐ろしいんですけど。
そして、魔界とは、悪魔の住み処ではなく、いわゆる憩いの場というかなんというか。
とにかく色々と揃ってるらしい。街に行けば、あらかたの情報を。町に行けば、道具を。町外れに行けば、癒しを。凄いラインナップだ。
そして、やっと一つの店の前で止まる。
店の名前は、「悪魔専門店」。
まさかのまんまのネーミング。
しかし、笑ってはいけないな。ここに俺に必要なものがあるらしいし。
店のなかには色々と置いてあった。普通の生活用品から食料品など、どこのドン○ホーテだろうか。
他にも、エリ○サーとか、フェニーの尾っぽとか、高級な物まで扱っている。
もはや専門店なんて、嘘じゃん!! とか、ツッコミたくなるが、気にしたら負けだろう。
そして、アクセサリー売り場にも足を運んだ。
どうやらここのもので何か一つ買ってくれるみたいだ。太っ腹です。そこに憧れる、痺れるぅう~。
とりあえず手近なところで、十字架のネックレスを選び、購入した。
まさかのそれで買い物は終了した。
必要なもの……なのか? アクセサリーって。
父親に聞く限り、ただ魔界を見せたかったようだ。ついでに、必需品らしきアクセサリーを買ってくれたということだ。
ありがとうございます。
帰りは、また同じように棺の中に入るようだ。
魔界、なかなか良いところだった、また来たいと思えた。てか、理由を付けて、また来ようと思う。
しかし、何故か入ろうとする前に、父親がボソッと、大丈夫かな……。などと小声で聞こえたが気にせず入る。
棺の中に入ると、最初は何もなかったが、急に空間が歪みだした。
えっ……? ちょっ……!?
悪魔でも、もうすぐ成人の部類に入るので、何とか序盤は持ちこたえる。子供じゃないから、絶対泣くものか。
しかし、無情にも、帰るまで空間は歪み続け、もう立っているのかさえ分からず、気分を害す。
視界がハッキリしない。その他の感覚も、もう使えない。人も悪魔も、感覚を封じられると、体が上手く機能しない。
胃の中身はもう無い……なのに、まだ出そうになる。胃酸すら、尽きそうなくらい吐いたかもしれない。
さらに追い討ちで、身体中が痛みだす。
何故に痛みだしたかは、分からないが、早く終わってほしい。
次元転移の難しさは理論上だけでなく、現実面でも難しいものと身をもって知る。
いつでもドアという、未来型ロボットアイテムは、どれだけのぶ田君を困らせたのだろう。もう、のぶ田君をバカにできない。
そんな馬鹿なことをを考える力も無くなっていき、数分もしないうちに、俺は意識を手放し力尽きる。
…………。
俺は目を覚ます。
いつものベットの上だった。
そして、隣に置いてある時計を見て驚く。
――時刻 AM5:00
目覚めたときには、既に学校へ行く準備の時間前でした。
そしてもう、しばらくは魔界に行きたくは無くなりました。マルっと。
そのあと俺は父親に一言いってやりたかったので、父親がいるであろう寝室に入るが、既に部屋にはもぬけの殻……やり場のない怒りを納めるため。俺は自分に戻り、次話へ……。