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 九頭竜の家についた。

 一応妹の前ということで、全員変身をといている。

 穂乃は元の姿でも、髪型も服装も大して変わらなかった。

「ただいまー」

 玄関でそう言うと、妹がやってきた。

「おかえりーって、わ、お兄ちゃんが可愛い子三人も連れてきた。大事件だよ」

「おーいよく見ろ、一人は男の子だぞ。それにもう一人は羽加美だ。お前会ったことあるだろう」

「え、あ、本当だ。久しぶり、羽加美さん」

「やっほー」

 羽加美は気さくに手を振る。

「こっちの人はお友達? 本当に男?」

「あ、あはは」

 じいっと見つめられて、照れる司。

「それでこちらの方は?」

 穂乃を見る妹。

 服の雰囲気に流されてか、敬語のようになっている。

「ああ、今日から一緒に住むことになった。穂乃だ」

 言われて、ぺこりと頭を下げる穂乃。

「はあっ。なにそれ聞いてない」

「そりゃあさっき決まったからな」

「前に来た金髪の子はいいの?」

 本人が目の前にいるが、気づけるはずもない。

 よほど観察力があるか、魔法の関係者じゃないと難しいだろう。

「いいって何がだ?」

「彼女か何かだと思ってたけど」

「かっ」

 司が赤くなるが、妹は気づかない。

「あいつはそんなんじゃないよ。パートナーではあるけどな」

 ショックを受けつつ、パートナーという言葉に司は小さく喜ぶ。

 それを見て羽加美は、機会があったら聞こうと、胸の内で決意した。

「えーと、そう、お父さんには言ったの?」

「別に言わなくてもいいだろう。こんな些細なこと」

「全然些細じゃないよ。それに家計も気になるよ」

「お前は主婦か。大丈夫大丈夫。親父いつも多めに送ってくるから」

 言い合う二人を不安そうに見る穂乃。

 その目と妹の目がかち合った。

 うるうると、捨てられた子犬のように見つめる。

 許してビームとでも言うのだろうか。

 妹は何かに負けたようだ。

「わ、わかったよ。お兄ちゃん、ちゃんと部屋用意してあげなよね」

「ああ、お兄ちゃんに任せろ。それよりせっかく5人もいるんだ。何かして遊ぼうぜ」

「私宿題が」

「おいおい宿題なんて家でやるもんじゃないぞー」

「また偉そうに」

「あんた宿題なんてほとんど出してないでしょーが」

 羽加美があっさりばらしてしまう。

「やっぱりそうなんだお兄ちゃん」

 にやにやする妹。

 兄としては、デコピンでもしたくなる顔だった。

「たまにやる気になったと思ったら、私のを写すだけなんだから」

「そうそう、宿題なんて家でやるもんじゃない。学校で写すもんだって言うつもりだったんだ」

「省略しすぎよ」

 そんな雑談を繰り広げながら、結局今夜は5人で遊んだのだった。

 トランプに、人生ゲームに、テレビゲーム。

「ここか? それともここか? ここがいいのんか?」

「ひゃ、だめ、それだけは触らないで」

 九頭竜が札を一枚もち、穂乃が二枚持っている。

 ババ抜きのラストシーンだ。

「はい、これとこれ、あれとあれ」

「わわ。羽加美さん、すごい」

「お前ちょっと真剣になりすぎじゃないのか。まだまだ夜は長いぞ?」

「大丈夫よ。これくらいじゃ神経は衰弱しないわ」

「え? なんて? もう一回言ってくれるか?」

「う、うるさいっ」

 神経衰弱をしている。羽加美が自前の頭の良さを活かしていた。

「く、九頭竜、け、け、結婚だって」

「なんで指震えてるんだ。そんなんじゃ棒させないだろ。貸してみろ」

 人生ゲーム中、羽加美と九頭竜が結婚した。車に棒をさそうとして手間取っている。

「大食漢の居候現る。マイナス百万」

 妹がおかしなマスに止まった。変な空気が流れる。

「許して」

 そんな中、穂乃が小さくつぶやいた。

「なにこれ?」

「ああそれは格闘ゲームだ。好きなキャラクターを選んで一対一で戦うやつさ」

「ふーん。あ、このキャラ翼生えてる。私これにしよーっと」

「どれにしよう。この子、火が出せるの?」

「僕は、うーん」

「司はこいつがいいんじゃないか? 本を武器にして戦うぞ」

「でも、筋肉むきむきだよ」

 どうみても本じゃなく、ハンマーやらが似合いそうなマッチョマンだ。

「誰もでいいからかかってきなさーい」

 妹が威勢よく言い放つ。

「手加減してやれよ」

 それからツイスターゲームもあったが、全力で阻止された。

 昔はよく妹とやったから得意だったのにと、残念そうな九頭竜だった。


 無事に火事事件も終わり、柄の間の休息タイム。

 司は一人で学校から帰る途中だ。

 黄昏時、影が伸びる時間。

 雰囲気を強調するかのように、周りに人はいない。

 静かすぎて、司は若干緊張していた。

 こんな時は楽しいことを思い出すに限る。

 九頭竜とトランプをしたこと。

 九頭竜が火から庇ってくれたこと。

 あの時は、あやうく人を殺してしまうところだった。

 魔法はどれも強力で、使い手が誤れば大変なことになる。

 反省しつつ、九頭竜と一緒に羽加美を倒した時のことや、初めて会った時の事を思い出す。

 初対面のときの九頭竜は随分必死で、今思うと可笑しい。

 ひとつひとつがもう大事な思い出だ。

 緊張がだんだんほぐれてきた。

 このまま家までいけると思ったが、それはじわじわと聞こえてきた。

 一気に現実に引き戻される。

 何かをすするような、舐めるような、ちぎるような、咀嚼するような。

 とても嫌な予感がして、変身した司。

 その結果、身体は強くなったはずなのに、気持ちがついてこない。

 一歩一歩、その音のする曲がり角に近づく。

 近づくたびに嫌悪感がましていく。

 生臭いにおいまでしてきた。

 しかし身体は止まらない。

 これは怖いもの見たさなのだろうか。

 曲がり角はもう目前。

 ほんの少しだけ、隠れるように、その先を見ると……。

「ひいああああああああ」

 頭が真っ白になり何も考えられないが、身体は勝手に悲鳴をあげた。

 逃げようとして、転んだ。

 身体が震えてうまく起き上がれない。

 血を、肉を、内蔵を、骨を、人間のそれらを、初めて見たような気がする。

 多少は血くらい、見たことくらいあるはずだが、ああもぶちまけられたものだと、その記憶も塗りつぶされる。

 そしてそれだけではなく、わきに屈んでいた少年。

 派手な色使いで、女子のものよりフリルの少ない服を着た、ひと目でそれとわかる存在。

 魔法少年だ。

 その少年が、傍らの肉を食べていた。

 じっくりと、味わうように、美味しそうに、食べていた。

 司がショックを受けていると、逃げたことにより多少距離の離れた曲がり角から、手がでてきた。

 そしてぬるりと、顔も出す。口元が赤い。こちらを見ている。

 口を三日月のようにして、笑う。

「あああ、ああ」

 そのまま魔法少年は全身を露わにした。

「君も、魔法の修行中かい?」

 それは軽いノリで話しかけてきた。

「う、あ」

「女の子だから、魔法少女だね。くふ、あの子とおんなじだ」

 震える司を来にせず、話を続ける。

「あ、あの」

「そう。そこでディナーになっている彼女だ。なかなか美味しいよ。君もどうだい。あ、でもそれだと、彼女を食べた君を食べるっていう、不思議な現象がおきるね。こんな事をしているから、僕のことをおかしな奴って思うかもしれないけど、僕のワードは『吸収』だからさ。しかたないんだよ。相手の身体を食べると、相手のワードが使えるようになるんだ。別に髪の毛一本でもいいんだけどさ。ほら、食べ残しは駄目だろう。君はどんなワードかな? もしかして、君が火の使い手かな? 最近ここらで火事が多いらしいから、来てみたんだけど、数人食べても誰も火を使えないんだ。もしかして、魔法のしわざじゃなかったのかな? ふう、なんだか沢山しゃべってお腹すいてきたから、食事を再開していいかな。あ、ごめんね。さっき、汚い食べっぷり見ちゃったよね。食べたうちの能力のひとつ、『料理』を使えば、もっと綺麗で美味しくなるのかもしれないけど、やっぱり素材の味って、大事だからさ。あ、これは料理が素材の味を壊すとかいうことじゃなくてさ」

 少年は一気にながながと喋り倒す。

 もはや司は恐怖で何も言えない。

「でも、どうしようかな。あの食べ残しを放っとくのも、心苦しいけど、せっかくの出会いだし、先に君を食べることにしようかな」

 そう言って、少年は近づいてきた。

 司はフリーズしたように何もできない。

「どんな匂いかな? どんな味かな? どんな食感かな?」

 逃げるという発想すらできない。

 距離が近づき、嫌なにおいも強くなる。

 すたすたとこちらに歩いてきた少年は、コケた。

 全身を地面に打つように盛大に。

 足元にいる少女に足をひっかけたのだ。

「いつつ、何だ? 今、何も無かったはずだ。なんでこの女はこんな所で、寝ているんだ」

 すやすやと路上の真ん中で寝ていた少女は、今の衝撃で、起きたようにもぞもぞ動いた。

 実を言うと、少女はずっとそこで寝ていた。

 ただ、二人が無意識に目を逸らしていただけだ。

 怖いもの見たさですら見たくない存在。

 しかしもう、二人はその姿を認識している。

 抱き枕、アイマスク、赤いショートヘア、短いポニーテイルと長いアホ毛、小さい矮?に白い体操服と赤いブルマ。

 体操服にはゼッケンが貼ってあり、じゅうぜん、とひらがなで書かれていた。

 完全にこの場の空気から浮いている。

 むしろ、空気を染めていく。

「ふああ」

 少女はアイマスクを外して、立ち上がる。抱き枕は抱えたままだ。

 少年、そして突然の少女の登場に驚き我をとりもどした司も、気づく。

 こいつは魔法少女だと。

 しかし見たところまだ変身していない。

「僕とその子の間に立つのなら、あなたから食べてあげますよ」

 余裕を取り戻した少年がそう言って、少女に近づく。

(そ、そうだ。緊急事態だよ。九頭竜君、呼ばないと)

 ショックが大きすぎて忘れていた。司はすぐにスティックに力を込める。


 その瞬間、九頭竜は音に気づいた。

 教師とともに、物置の整理をしていた途中である。

『人がたべられて赤い人がでてきて』

 あまり意味がわからないメッセージだ。しかし、

「すまない、先生。用事ができた」

 そう言って、すぐ飛び出す。

「お、おい。学校では携帯の音は切っとけー」

 遠くで教師がなにか言っていた。


 そうしている間に、少年は少女の頭に噛み付いている。

 眠そうな少女は避けようともしなかった。

「硬っ」

 歯をつきたてているのに、少女の頭には跡一つつかない。

 しかし、髪の毛は数本少年の喉を通った。

「きたきたきました。あなたの能力。さあなんだろうねえって……、え? これは。まさか」

 少年は口を離し少女から離れる。

 吸収によって、少女のワードを理解した。

 少女は今にも寝そうだ。

「まさか、『最強』こ、こんな、巫山戯たワードなんて、あるはずが……」

「うるさいなあ」

 喧しい少年の事が、ようやく少し気に障ったようだ。

「でも、でも、そのワード、僕が頂いた。なんだか力が湧いてくる気がする。どうだ、今は、僕が最強だ!」

 大声でそう宣言する。

 いつのまにか少年の目の前にいた少女は、少年の頭を掴み、軽そうに真下に投げた。

 瞬間、ベコンっと地面が凹み、少年は無残にも、地面にめり込んでしまった。

 投げた時に首がもげなかったのが、不思議なくらいだ。

 当然、意識は飛ぶ。

 落ちたスティックも、指二本で摘んでそのままお菓子のように折った。

 それによって、吸収は解けた。

 そして、ぺちっと自らの顔を叩く。

 今ので完全に目を覚ましたようだ。

「はぁーあ。路上で寝るっていうのも、案外平凡なものだったなー。次はなにしようかな」

 なんなんだろうこの少女は。

 一部始終を見ていた司は、それでもわけがわからなかった。

 しかしふと、九頭竜の顔がうかぶ。

 情報は多いほどいい。

 だから、精一杯の勇気を込めて、聞いた。

「あ、あの、今のは一体。変身もしていないし、吸収までされたのにどうして……」

 金の眼と赤の眼がかちあう。

「あー? うちに聞いたの? そんなのただ、うちのワードは称号であってワードじゃないってだけ。変身はまあ、しなくてもあんな雑魚には関係ないよ。はあーあ。どっかに強い奴いないかな」

 そう言って、去っていく。

 後ろ姿の、その髪とブルマは、夕日が薄くみえるほど赤かった。

 残されたのは、しゃがみ込む司と、スティックを折られて、魔法と魔法の記憶と魔法でできた服の消えた、つまりは全裸の少年だけだ。

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