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 次の日も引き続き、見張りだ。

「あんた、なんか楽しそうね。見張りなのに」

 疲れた様子もない九頭竜に羽加美は尋ねた。

「まあな。最近本当に楽しいことばかりだ。数日前まで、なんにも起きない毎日だったのにな。今だって、最近色々あったのとおなじように、すぐに獲物がやってくるとおもってるぜ」

「獲物、ね」

「お前らは、修行、楽しくないのか?」

「そりゃあまあ、少しは。でも、結構大変よ。いつ負けるかもわからないし」

「う、うん」

 肩を落とす少女二人。

「なら、楽しめ。楽しまないと損だぞ。戦いも、楽しめばいい方向にむかうもんだ」

「そう、かな」

「そおおおうさああ」

 いきなり、変な顔をしながら言う。

 ぷっと二人は吹き出した。

 二人をよこめに、スーパーを見ていると、おかしな少女が見えた。

 そろそろ閉店まぎわで、客は少ない。

「ん? アレは一体」

 気づいた九頭竜は、二人にわかるように指さす。

 その先には、スーパーに入るでもなく、うろうろしている少女がいる。

 赤と黒のややゴスロリにもみえる服装。

 髪も黒く、前髪の長いストレートボブ。

 二人も確認した。

「確かに、魔法の使い手だわ。ね、司」

「うん」

 みるからに魔法少女だが、もしかしたらただのコスプレかもしれなかった。

 だが、二人がそう言うのを聞いて、九頭竜は動いた。

 少女に近づき声をかける。

「やあ、こんばんわ。君って、修行中の身だよね? よかったら話をしよう」

 ネコをかぶったように笑顔だ。

 少女は答えようとした、が、後ろの羽加美と司をみて、戦慄した。

 二対一でやられると、思ったのかもしれない。

 やられる前にやると、考えたようだ。

 少女はお腹がすいて、気が立っていた。

 もちろん九頭竜達はそんな事知る由もないが。

「許して」

 そう呟いて、少女は持っていたスティックから、炎を出した。

『火炎』

 ライター等では10個あっても足りなそうな大きさだ。

 それを、投げつけてきた。

「うおうっ」

 とっさに躱す。

 当たっていたら、ただのやけどじゃ済まなかっただろう。

 それをみて、羽加美は変身して、司と共にこちらに走る。

「当たらなかったから許して」

 向かってきたのをみて、少女は逃げ出した。

 なぜかスーパーの中へと。

 中で悲鳴があがり、客や従業員達が出てきた。

 火の手が上がっている。

 空になったスーパーに三人が入ると、不思議な光景が見えた。

 あちこちに火の手があがっているのに、惣菜のコーナーの棚にしゃがみこみ、ゆっくり食事をする少女。

 どうみても隙だらけだったので、羽加美は飛翔して蹴りをくりだそうとした。

 室内なのであまりスピードを出せない。

 それが当たるかと思われた時、少女はスティックから炎を噴き出し、牽制した。

「きゃっ」

 羽加美はとっさに避ける。

「今のうちだ、司。目録を発動しておけ」

「うん」

 小声の指示に従い、小さな本をだす司。

 しかしちゃんと少女は見ていたようで、こちらに炎をとばしてきた。

「あぶないっ」 

 司は反応できず、動けない。

 九頭竜は抱くように、司を庇い、背中を焼かれた。

「ぐっううう」

 シャツを焼き、皮膚を焼き、神経を焼く。

 一気に激痛が走り、脂汗が吹き出す。

「九頭竜君っ」

 司は、苦しむ九頭竜を見ていることしかできない。

 いや、あった。

 司はそれに気づき、そっと九頭竜の顔を両手で掴む。

 九頭竜は苦痛の表情だ。

 司は恥ずかしそうに、照れているように赤くなるが、意を決する。

 そのまま、キスをした。

 その瞬間、光が二人を包み込む。

「な、あ、あーっ」

 羽加美がそれを見て騒いでいる。

「魔力供給……」

 少女が驚きつつ、そう呟いた。

 じっくり数秒ほど唇をあわせ、やがて離れた。

「ぷは、ん、ふう」

「司……」

「これで少しは楽になるはずだよ。九頭竜君」

 はにかみながら、司はそう言った。

 実際に、九頭竜はだんだん楽になってきた。

 先程の激痛がうそのようだ。

「ああ、ありがとう。司」

 九頭竜はねぎらうように、司の頭を撫でた。

 そして少女の方を向く。

「あなた、人間よね。そうよね。どうして、こんなところにいるの」

「俺は俺の目的のためにここにいる」

「それに、どうして魔法少女が二人もいるの」

「縁があっただけさ。お前は一人か? 友達は作ったほうがいいぞ」

「それは持ってるものの余裕だよ……。私には友達を作る余裕なんてない。こっちの世界にきてからずっと一人。生きるのに精一杯。もう許して」

 家族もいない。

「そうなのか? なら」

 九頭竜が一歩近づいた時、

「こないでっ」

 そう言って、少女は炎を振りかざした。

 少女の周りが火だらけになる。

 まるで籠城だ。

「これじゃ近づけないわ」

 羽加美は九頭竜の側に戻った。

 しかし九頭竜は冷静だ。

 司の本をちらりとみて、考える。

 あの時、見せてもらった目録に、あのタイトルがあるのを思い出した。

 そして、その閃きを実行した。

 火の中の少女に声をかける。

「わかった。そっちには行かない。だが、これからずっと一人で戦う気か? 晴れて魔法使いになったら、仲間を作るか? それとももっと別のことをしたいのか?」

「魔法使い……。この修業が終わったら、温かい部屋で、美味しいもの、沢山食べたいなあ。それくらい、許してもらえるよね」

 様々な料理を思い浮かべる少女。

 そのほとんどがこっちの世界にはないものだ。

 少しだけ涙を浮べている。

 哀しそうに少女をみる羽加美。

 しかし、この世には無慈悲な物語もある。

 司の本が光り出し、それが載っているページが開かれた。

 条件が揃ったようだ。

 司は別人のように語りだす。

『マッチ売りの少女。寒空の下、少女は一人でマッチを売っていました。恐ろしい父親に強要されたのです。すべて売るまで帰れません。しかし、誰も買ってはくれませんでした。少女は少しでも自分を暖めようと、マッチを擦ります。すると、その火の中に望むものが映りました。暖かい暖炉。温かい食事。温かい家族。やがて一晩が過ぎ、少女はマッチの燃えカスを抱えて』

「やめろ司っ」

 九頭竜が肩をゆすったり、本を閉じたりしながら、司のトランスを止める。

 司が語る間に、少女はどんどん崩れるように倒れていた。

 ほんの数秒だけ、少女の周りにマッチの燃えカスが現れ消えた。

「え、あ、九頭竜君?」

 寝ぼけたような反応の司。

 あまり現状を理解できていない。

 魔法が止まったのを確認すると、九頭竜はすぐに、ペットボトル入りの水を拝借して浴び、火の中に飛び込んだ。

 火の勢いは相当だ。

 魔力供給がなかったら、全身やけどになっていただろう。

 倒れている少女を抱え、スティックも忘れずに回収して、司達の元へと戻る。

 熱くなっていたので、水を少女にかけた。

 どうやら酸欠だか、一酸化炭素中毒だかのようだ。

「ぼ、僕の魔法で、その人が」

「考えるな司」

「で、でも」

 その時、遠くから消防車のサイレンが聞こえた。

「まずい、裏口から逃げるぞ。ついてこい」

 九頭竜は少女を背負ったまま、奥に向かう。

 三人は辛くも、スーパーから脱出した。

 

 人気のない公園。

 おそらく野次馬のようにスーパーに集まっているのだろう。

 少女がまだ目を覚まさないので、羽加美とともに、心肺蘇生術を繰り返す。

 その成果はあった。

「かはっ、はあ、はあ」

 少女は目を覚まし、息を整える。

「大丈夫か?」

「ここは……。どうして助けたの? まだスティックも折れてないし」

「もちろん俺の目的のためだ。お前、仲間になれ」

 そう言って、手を差し伸べる。

「え? え?」

「だから、仲間、だ」

「あんなことしたのに許してくれるの?」

「許さない」

 キッパリそう言った。

「えぇ」

「だから仲間になって、償え」

「わ、わかったの」

 その手を、掴んだ。

「よーし。それで名前は?」

「あ、今更で許して。私は穂乃、真美(ほの、まみ)なの」

 それに対し、三人も名乗った。

「それで、なんであちこち燃やしたんだ? 戦う相手をおびき寄せるためか?」

「ううん、お腹が空いてただけ。一つ目のとこは失敗して、燃やし過ぎちゃったけど、それからは、うまく人がいなくなるのをみて、食べてたの」

「食事、か。家はあるのか? こいつらみたいに、家族は?」

 九頭竜は司と羽加美を親指で差す。

「いないの。修行くらい一人でやれって、来てくれなかったの」

「なるほど」

「そんな厳しい家もあるのね」

 羽加美は同情するように言う。

 司はショックなのか黙っている。

「よし。俺んちにこい。寝床と食事くらいは用意してやる」

「ほんと?」

「ちょっちょっと待ちなさいよ。何であんたの家なのよ。危ないわよ。それに、年頃の男女が同じ家だなんて」

 慌てたように言う羽加美。

「ぼ、ぼ、僕の家でもいいんだよ」

 司もなにやら慌てている。

「いや、お前達こそ危険な目に合わせるわけにはいかない。大事な戦力だ。それに、うちは妹と二人で住むには、若干家が広いと思っていたんだ。ちょうどいい」

「だ、だからって」

「何、妹なら心配いらない。あいつは根は優しいんだ。文句も言わずに受け入れてくれるさ」

「そういうことじゃなくて」

「そうと決まればうち行くか。お前たちも来るか?」

「あーもう」

 頭を抱える羽加美だった。

 

 帰路にて。

「それにしても、ごめんね九頭竜君」

 司が口を開いた。

「ん、何がだ?」

「九頭竜君が庇ってくれた時に、キ、キ」

「ああ、キスか。むしろあれがなければ、今頃俺は歩けてない。司は正しいことをしたんだ。胸を張れ」

「ああ、ついにしちゃってたわねー。あんたたち」

 羽加美は思い出し、魂がぬけたように遠くを見る。

「でも、九頭竜君の初めてが」

「そうだったな。なかなかキスも面白いもんだ。体験してみてより理解した。まず相手がいないとできないな。神経の多い顔同士を近づけて、柔らかい部分を合わせて、場合によっては相手の唾液まで」

「詳しく言わんでいいっ」

 九頭竜の語りを叩いて止める。

「何を怒ってるんだ。羽加美はしたことあるか?」

「はぁっ。何てこと聞くのよ。あるわけないでしょ」

「そうなのか。一度はしてみるといいぞ」

「ああもう。うるさいうるさい」

 頭を抱えて振る羽加美だった。

 司は頬を紅潮させてぼんやりしている。

 皆リアクションがオーバーで実に面白いと、九頭竜はしみじみそう思った。

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