6
そこそこ小さい本屋に、三人は集まった。
司は既に変身している。
これまでの反省を活かしてか、黒いマントのようなものを羽織っている。
金髪はまるだしだ。
羽加美も九頭竜も先程と変わっていない。
「おーす。揃ったな。じゃあ、作戦開始だ」
路地裏に行き、人がいないのを確認して、羽加美は変身して飛んでいった。
人に見られてないことを祈る羽加美である。
「俺たちも行くか」
九頭竜と司は歩き出した。
あまり人のいないところで、家のあるところを重点的に調べる。
しかし時には寄り道もしていた。
「お、たい焼きだ。お前も食うか?」
「たいやき?」
「ああ、そこの花壇に座って待ってろ」
そう言って、九頭竜は2つ買ってきた。
「ほら、少し熱いぞ」
「なにこれ」
「甘いお菓子だよ。頭から食べる人と、尻尾から食べる人でよく争いが起きるんだ」
「ええっ、そうなの?」
「ああ、だが、最初に有名な人物が二つに割って食べてな、その争いが終わったんだ。それ以来、その争いが起きるたびに、こう二つに割って食べる習慣ができた。喧嘩両成敗の語源にもなっている」
そう言って、たい焼きを二つに割り、切り口から食べ始めた。
「そうなんだ。凄いお菓子なんだね……。うん、甘くて美味しい」
中から食べることで、アンコが最初から舌の上に乗ったようだ。
「まあ全部ウソだけどな」
「えええええ」
信じきっていた司は、思いの外リアクションが大きかった。
「はは、お前は面白い奴だな。そうだ、目録、見せてみろ。増えたか?」
「むう、う、うん」
騙されて少し膨れたが、素直に小さい本を出した。
じっくりページめくる九頭竜。
「おお、大分増えたな。お前は読めば読むほど強くなるだろうから、頑張ってくれ」
「うん。本は好きだから、調度良かったよ。どれも面白いお話だった」
ひとつひとつ思い浮かべながら言う。
「さすがに今の嘘話は載ってないな」
「の、のるわけないよ。あ、もしかしてそれを試すために嘘のお話をしたの?」
「あ? ああ勿論だ。俺がお前を騙すわけなかろう」
大抵の人なら嘘と見抜けるであろう事を言う。
「そっかー。よかった」
しかし、司はすっかり信じ、ぱあっといい笑顔をする。
少しだけ罪悪感のある九頭竜だった。
「しかし、載る基準はなんなのだろう。有名度か、タイトルか、長さなのか、出版されたかなのか」
ぶつぶつと考えこむ。
司はよくわからず、不思議そうだ。
「まあいいか。食べ終わったか? そろそろ行こう」
「うん。たい焼き、ありがとうね」
少しだけ休憩して、二人はまた街にくりだした。
「やはり警官をよく見かけるな」
「あの服の人だよね」
司は指さす。
「ああ。しかし、あの犯行のペースなら、今日もあるはずだ。やはり、警官のいないほうを探すべきだろうな」
移動する二人。
実は今日も既に二件火事が起きており、それなりに離れた現場は騒ぎになっていたが、二人は知らない。
「放火は捕まりにくいのだろうか。火をつけて逃げるだけだしなあ」
そういった時、九頭竜の携帯が鳴り出した。
上空百数十メートル。
羽加美は、上から街を監視している。
人がアリのように、それぞれがそれぞれの考えるままに、蠢いている。
持ってきていた安い双眼鏡で、細かく見ていく。
これくらいなら、問題ない。
本当は前回の戦いの時に、ナイフ等を使うこともできたが、良心が止めた。
あまり血は見たくない。
人がこちらを指さしていないかも、一応チェックしながら、見続ける。
それにしても、と九頭竜の事を考えた。
数年前、両親とともにこちらの世界に来た時、土地勘があまりなく、うっかり池に落ちてしまったところを、助けてくれた九頭竜。
それ以来ずっと九頭竜と行動を共にしているが、彼はその時のことを覚えているのだろうか。
最近は突然やってきた魔法少女と仲良くしているし。
元男ってことを、彼は本当に面白いとしか思っていないのか。
やはり、もう少しはやく魔法のことを打ち明けて、修行の相談をするべきだっただろうか。
そうしていれば、いや、でも。
思考がぐちゃぐちゃになり止まりかけたところで、それを発見した。
民家の庭のあたりが赤く光りだす。
そして、その場から逃げるように走る小太りの男。
「まさか……」
見失わないよう注意しながら、すぐに携帯をとりだし、九頭竜にかける。
空を飛ぶ魔法少女が、携帯電話をかけるシュールな図になった。
『なんだ? 何か見つけたか?』
「怪しいやつを見つけたわ。九頭竜達からすると北の方。それに、4丁目のタバコ屋の近くの家。おそらく火事よ」
『わかった。お前はそいつを追え。消防車は呼んでおく。もし人間だとしても、手加減はいらない』
「ええ。了解」
電話を切り、男を追いかける。
音もなく上空からの追尾だ。
気づけるはずもない。
しばらく追っていると、その先に九頭竜達も見えた。
遠くで消防車のサイレンも聞こえる。
周りに他の人も見えなかったので、羽加美は一気に下降した。
上空から加速していき、変身により強化された蹴り。
それが、男の背中にヒットした。
「ぐぶあ」
ごろんごろんと地面を転がり、そのまま男は街頭に激突した。
九頭竜達も羽加美も、男に近づく。
木々と街頭の多い通り。
グリーンロードと呼ばれている。
「羽加美、お前、容赦無いな……。こわー」
しっかりと今の蹴りを見ていたようだ。
「あ、あんたが加減するなっていったんでしょーが」
「いやいくらなんでもアレは。背骨折れてないか?」
九頭竜がそう言って男を注視した時、起きたようで男はゆっくり動き出した。
よく見ると、20代くらいだろうか。
「おうおっさん。最近随分と派手にやってるみたいだな」
羽加美を茶化すモードはおわり、男にきつくあたる。
「な、なんだきみたちは。なんのことだ?」
「とぼけるなよ。ここ数日の火事、犯人はお前だろう」
「なにをいっているか」
男がしゃべる途中で、九頭竜はがっと胸ぐらをつかんだ。
おでこが今にもぶつかりそうな距離だ。
「白状しろ。今の蹴りを後何回くらいたい?」
「ひいい。すいません僕です。僕がやりました」
「お前が全部やったのか? 相当数あるぞ」
そういって、マーク入りの地図をみせた。
「ふ、普段は車を使ってます。あれ? でも、ここは違いますよ。僕は家しかやってないんで」
恐怖で高校生に対して、敬語になっている。
「なに?」
「ね、ねえそれよりも、その格好。コスプレかなにか? 写真とってもいいかな? 今は携帯のしかないんだけど」
男が司と羽加美の姿に気づいたようだ。
色々な事を忘れて興味津々だった。
「え? えーと、その」
司がもじもじしている。
「うぇ」
羽加美はドン引きだ。
「いいのか? さっきお前を蹴ったのはこいつだぞ」
九頭竜はそう言って、羽加美を示す。
「まじ? ぼ、暴力女……」
「ああ?」
睨む羽加美。
「ひいいい」
「おい、さっき言ったことは本当なのか? 民家だけっていうのは」
「そ、そうだよ。そろそろ帰ってもいいかな。0時までに帰らないと、ママに怒られる」
その男のかってな言い草に、九頭竜はつい手がでてしまった。
「がぶあ」
打ちぬくようなアッパーカット。
顎の骨にヒビでも入ったかもしれない。
「いたい、いたいいい」
男は顎をおさえてのたうち回る。
「お前がこれからいくのは警察だよ。何件も燃やしやがって。動機とかくだらねー話は興味ないから警察でしろ」
そして、九頭竜達は男を交番につれていった。
司と羽加美は警官に見られないように外にいた。
男はもう言い逃れをする気はないようだ。
後日、取り調べで、男は魔法少女探偵がどうとか呟いていたのだった。
無論、まだ事件は終わっていない。
翌日。
学校だ。
教室につくなり、九頭竜は藤堂に尋ねた。
昨日聞けなかった残りの火事現場のことだ。
「おー、くず。朝のニュース見たか? なんか犯人捕まったらしいぜ」
「そうなのか。それより、残りの現場のことを教えてくれ」
「犯人捕まったのに、まだ探偵ごっこ続けてるのか? まあお前らしいか。えっとまず一つめが……」
藤堂が言った残りの場所は、二つが民家で、二つがコンビニだった。
すぐにメモをとる。
「なるほど、ありがとう」
「ああ、何をしようとしてるかわからんが、頑張ってな」
九頭竜は羽加美と司に声をかけた。
三人は、昨日と同じく、図書室に集まった。
「来たか。藤堂に残りの現場も聞いた。コンビニが合計三件あるようだ」
「昨日のデブは民家にしか手を出していないって言ってたわよね」
「えーとつまり?」
司が首をかしげる。
「別の犯人がいるということだ。地図を見てみろ。こことこことここだ」
そう言って、地図を広げる。
三つの点を線でつなげた。
「随分近いわね。これなら、歩いてでもいけそう」
「ああ、警察は、あのデブを捕まえたことで、事件は終わった気になっているかもしれないが、おそらく数日以内にまた火事が起きるだろう。その前に捕まえたいところだ」
「でも、この辺にもうコンビニなんて」
「似たような店がある」
九頭竜は、地図のある一点を指さした。
「ここって……スーパー?」
「そうだ。おそらくここに姿をあらわす。もしかしたら、俺たちが学校にいる、昼間に現れるかもしれないが、そこは賭けだ。放課後、すぐに見張るぞ」
太陽が落ちかけている夕方。
スーパーの裏側が見える位置で、三人は座って見張っていた。
入り口も少しだけ見える。
本当に来るかわからないが、待つしか無い。
九頭竜も羽加美も制服のままだ。
司は当たり前のように変身済み。
犯人にばれないように、九頭竜の上着を羽織る。
ぼんやりと、客の流れをみながら、特にすることもないので、世間話を始めた。
「今日は、リンゴなんだな」
「え?」
九頭竜が羽加美を見ながら言う。
「そのヘアピン。コロコロ変わってるけど、色々持ってるんだなあ」
「ああ、これ? 今300個くらいかな。こっちに来てから、集め始めたら楽しくなっちゃって」
「そりゃあ凄い。山のようにあるんだろうな」
「さすがに全部を一緒くたにしてはないけどね」
「そうだろうな。うーん、リンゴもいいけど、やっぱ羽のやつかな。お前らしくて」
「そ、そうかな」
「さらに橙子っていうくらいだから、橙色の羽があったら面白い」
「そ、そう? 探してみる。べ、べつにあんたの好みに合わせるわけじゃないけど」
髪をいじりながら答える。
怒るかとおもいきや、意外と素直だなと九頭竜は思った。
「僕はリンゴも可愛いと思うなあ」
「お、司もそういうのに興味あるか」
「今度、つけてみようかな」
「いいんじゃないか? でも、お前がヘアピンつけて登校したら、ますます女子達の餌食になるだろうな。ピラニアに襲われるかのようにさ」
「そ、それは怖いな。……ぴらにあ?」
「知らないか。そりゃそうか。ピラニアを語る上で、ラザニアの存在はかかせない。ラザニアは知ってるか? 食べ物だ。そのラザニアを作るとな、どこからともなくやってきて、全部食っちまうんだ。運が悪いと、作る途中からでもやってきてな、こっちの手まで食おうとする。だから、ラザニアを作るときは、一流のハンターをボディガードに雇うのが一般的だ」
「あわ。こっちの世界にも、そういう怖い料理はあるんだね」
信じきって怯えている。
小動物のようだった。
「嘘を教えるなっ」
ぱしーんと九頭竜は羽加美に頭をはたかれた。
「嘘なの? よかった。怖いピラニアなんて、いないんだね」
安堵する司。
「いつつ」
頭をおさえる九頭竜を尻目に、羽加美は語り出した。
なんだか楽しそうに。
「い、いるのよピラニアは。水に落ちた生き物を、なんでも食べちゃうんだから。今年だって、被害にあった人が沢山いて。司も、池とかには気をつけてね」
しゃべっている途中から、司は既にがたがた震えている。
「お前だって嘘言ってるじゃないか」
呆れる九頭竜。
「だって、この子みてたら、つい」
「はは、そうだろう」
「もう、また嘘なの? いったい何が本当で何が嘘なの」
司は頬をふくらませて、ぷりぷりしている。
しゃべっているだけで時間がすぎてゆく。
結局この日は、ターゲットは現れなかった。




