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 そこそこ小さい本屋に、三人は集まった。

 司は既に変身している。

 これまでの反省を活かしてか、黒いマントのようなものを羽織っている。

 金髪はまるだしだ。

 羽加美も九頭竜も先程と変わっていない。

「おーす。揃ったな。じゃあ、作戦開始だ」

 路地裏に行き、人がいないのを確認して、羽加美は変身して飛んでいった。

 人に見られてないことを祈る羽加美である。

「俺たちも行くか」

 九頭竜と司は歩き出した。

 あまり人のいないところで、家のあるところを重点的に調べる。

 しかし時には寄り道もしていた。

「お、たい焼きだ。お前も食うか?」

「たいやき?」

「ああ、そこの花壇に座って待ってろ」

 そう言って、九頭竜は2つ買ってきた。

「ほら、少し熱いぞ」

「なにこれ」

「甘いお菓子だよ。頭から食べる人と、尻尾から食べる人でよく争いが起きるんだ」

「ええっ、そうなの?」

「ああ、だが、最初に有名な人物が二つに割って食べてな、その争いが終わったんだ。それ以来、その争いが起きるたびに、こう二つに割って食べる習慣ができた。喧嘩両成敗の語源にもなっている」

 そう言って、たい焼きを二つに割り、切り口から食べ始めた。

「そうなんだ。凄いお菓子なんだね……。うん、甘くて美味しい」

 中から食べることで、アンコが最初から舌の上に乗ったようだ。

「まあ全部ウソだけどな」

「えええええ」

 信じきっていた司は、思いの外リアクションが大きかった。

「はは、お前は面白い奴だな。そうだ、目録、見せてみろ。増えたか?」

「むう、う、うん」

 騙されて少し膨れたが、素直に小さい本を出した。

 じっくりページめくる九頭竜。

「おお、大分増えたな。お前は読めば読むほど強くなるだろうから、頑張ってくれ」

「うん。本は好きだから、調度良かったよ。どれも面白いお話だった」

 ひとつひとつ思い浮かべながら言う。

「さすがに今の嘘話は載ってないな」

「の、のるわけないよ。あ、もしかしてそれを試すために嘘のお話をしたの?」

「あ? ああ勿論だ。俺がお前を騙すわけなかろう」

 大抵の人なら嘘と見抜けるであろう事を言う。

「そっかー。よかった」

 しかし、司はすっかり信じ、ぱあっといい笑顔をする。

 少しだけ罪悪感のある九頭竜だった。

「しかし、載る基準はなんなのだろう。有名度か、タイトルか、長さなのか、出版されたかなのか」

 ぶつぶつと考えこむ。

 司はよくわからず、不思議そうだ。

「まあいいか。食べ終わったか? そろそろ行こう」

「うん。たい焼き、ありがとうね」

 少しだけ休憩して、二人はまた街にくりだした。

 

「やはり警官をよく見かけるな」

「あの服の人だよね」

 司は指さす。

「ああ。しかし、あの犯行のペースなら、今日もあるはずだ。やはり、警官のいないほうを探すべきだろうな」

 移動する二人。

 実は今日も既に二件火事が起きており、それなりに離れた現場は騒ぎになっていたが、二人は知らない。

「放火は捕まりにくいのだろうか。火をつけて逃げるだけだしなあ」

 そういった時、九頭竜の携帯が鳴り出した。


 上空百数十メートル。

 羽加美は、上から街を監視している。

 人がアリのように、それぞれがそれぞれの考えるままに、蠢いている。

 持ってきていた安い双眼鏡で、細かく見ていく。

 これくらいなら、問題ない。

 本当は前回の戦いの時に、ナイフ等を使うこともできたが、良心が止めた。

 あまり血は見たくない。

 人がこちらを指さしていないかも、一応チェックしながら、見続ける。

 それにしても、と九頭竜の事を考えた。

 数年前、両親とともにこちらの世界に来た時、土地勘があまりなく、うっかり池に落ちてしまったところを、助けてくれた九頭竜。

 それ以来ずっと九頭竜と行動を共にしているが、彼はその時のことを覚えているのだろうか。

 最近は突然やってきた魔法少女と仲良くしているし。

 元男ってことを、彼は本当に面白いとしか思っていないのか。

 やはり、もう少しはやく魔法のことを打ち明けて、修行の相談をするべきだっただろうか。

 そうしていれば、いや、でも。

 思考がぐちゃぐちゃになり止まりかけたところで、それを発見した。

 民家の庭のあたりが赤く光りだす。

 そして、その場から逃げるように走る小太りの男。

「まさか……」

 見失わないよう注意しながら、すぐに携帯をとりだし、九頭竜にかける。

 空を飛ぶ魔法少女が、携帯電話をかけるシュールな図になった。

『なんだ? 何か見つけたか?』

「怪しいやつを見つけたわ。九頭竜達からすると北の方。それに、4丁目のタバコ屋の近くの家。おそらく火事よ」

『わかった。お前はそいつを追え。消防車は呼んでおく。もし人間だとしても、手加減はいらない』

「ええ。了解」

 電話を切り、男を追いかける。

 音もなく上空からの追尾だ。

 気づけるはずもない。

 しばらく追っていると、その先に九頭竜達も見えた。

 遠くで消防車のサイレンも聞こえる。

 周りに他の人も見えなかったので、羽加美は一気に下降した。

 上空から加速していき、変身により強化された蹴り。

 それが、男の背中にヒットした。

「ぐぶあ」

 ごろんごろんと地面を転がり、そのまま男は街頭に激突した。

 九頭竜達も羽加美も、男に近づく。

 木々と街頭の多い通り。

 グリーンロードと呼ばれている。

「羽加美、お前、容赦無いな……。こわー」

 しっかりと今の蹴りを見ていたようだ。

「あ、あんたが加減するなっていったんでしょーが」

「いやいくらなんでもアレは。背骨折れてないか?」

 九頭竜がそう言って男を注視した時、起きたようで男はゆっくり動き出した。

 よく見ると、20代くらいだろうか。

「おうおっさん。最近随分と派手にやってるみたいだな」

 羽加美を茶化すモードはおわり、男にきつくあたる。

「な、なんだきみたちは。なんのことだ?」

「とぼけるなよ。ここ数日の火事、犯人はお前だろう」

「なにをいっているか」

 男がしゃべる途中で、九頭竜はがっと胸ぐらをつかんだ。

 おでこが今にもぶつかりそうな距離だ。

「白状しろ。今の蹴りを後何回くらいたい?」

「ひいい。すいません僕です。僕がやりました」

「お前が全部やったのか? 相当数あるぞ」

 そういって、マーク入りの地図をみせた。

「ふ、普段は車を使ってます。あれ? でも、ここは違いますよ。僕は家しかやってないんで」

 恐怖で高校生に対して、敬語になっている。

「なに?」

「ね、ねえそれよりも、その格好。コスプレかなにか? 写真とってもいいかな? 今は携帯のしかないんだけど」

 男が司と羽加美の姿に気づいたようだ。

 色々な事を忘れて興味津々だった。

「え? えーと、その」

 司がもじもじしている。

「うぇ」

 羽加美はドン引きだ。

「いいのか? さっきお前を蹴ったのはこいつだぞ」

 九頭竜はそう言って、羽加美を示す。

「まじ? ぼ、暴力女……」

「ああ?」

 睨む羽加美。

「ひいいい」

「おい、さっき言ったことは本当なのか? 民家だけっていうのは」

「そ、そうだよ。そろそろ帰ってもいいかな。0時までに帰らないと、ママに怒られる」

 その男のかってな言い草に、九頭竜はつい手がでてしまった。

「がぶあ」

 打ちぬくようなアッパーカット。

 顎の骨にヒビでも入ったかもしれない。

「いたい、いたいいい」

 男は顎をおさえてのたうち回る。

「お前がこれからいくのは警察だよ。何件も燃やしやがって。動機とかくだらねー話は興味ないから警察でしろ」

 そして、九頭竜達は男を交番につれていった。

 司と羽加美は警官に見られないように外にいた。

 男はもう言い逃れをする気はないようだ。

 後日、取り調べで、男は魔法少女探偵がどうとか呟いていたのだった。

 無論、まだ事件は終わっていない。


 翌日。

 学校だ。

 教室につくなり、九頭竜は藤堂に尋ねた。

 昨日聞けなかった残りの火事現場のことだ。

「おー、くず。朝のニュース見たか? なんか犯人捕まったらしいぜ」

「そうなのか。それより、残りの現場のことを教えてくれ」

「犯人捕まったのに、まだ探偵ごっこ続けてるのか? まあお前らしいか。えっとまず一つめが……」

 藤堂が言った残りの場所は、二つが民家で、二つがコンビニだった。

 すぐにメモをとる。

「なるほど、ありがとう」

「ああ、何をしようとしてるかわからんが、頑張ってな」


 九頭竜は羽加美と司に声をかけた。

 三人は、昨日と同じく、図書室に集まった。

「来たか。藤堂に残りの現場も聞いた。コンビニが合計三件あるようだ」

「昨日のデブは民家にしか手を出していないって言ってたわよね」

「えーとつまり?」

 司が首をかしげる。

「別の犯人がいるということだ。地図を見てみろ。こことこことここだ」

 そう言って、地図を広げる。

 三つの点を線でつなげた。

「随分近いわね。これなら、歩いてでもいけそう」

「ああ、警察は、あのデブを捕まえたことで、事件は終わった気になっているかもしれないが、おそらく数日以内にまた火事が起きるだろう。その前に捕まえたいところだ」

「でも、この辺にもうコンビニなんて」

「似たような店がある」

 九頭竜は、地図のある一点を指さした。

「ここって……スーパー?」

「そうだ。おそらくここに姿をあらわす。もしかしたら、俺たちが学校にいる、昼間に現れるかもしれないが、そこは賭けだ。放課後、すぐに見張るぞ」 


 太陽が落ちかけている夕方。

 スーパーの裏側が見える位置で、三人は座って見張っていた。

 入り口も少しだけ見える。

 本当に来るかわからないが、待つしか無い。

 九頭竜も羽加美も制服のままだ。

 司は当たり前のように変身済み。

 犯人にばれないように、九頭竜の上着を羽織る。

 ぼんやりと、客の流れをみながら、特にすることもないので、世間話を始めた。

「今日は、リンゴなんだな」

「え?」

 九頭竜が羽加美を見ながら言う。

「そのヘアピン。コロコロ変わってるけど、色々持ってるんだなあ」

「ああ、これ? 今300個くらいかな。こっちに来てから、集め始めたら楽しくなっちゃって」

「そりゃあ凄い。山のようにあるんだろうな」

「さすがに全部を一緒くたにしてはないけどね」

「そうだろうな。うーん、リンゴもいいけど、やっぱ羽のやつかな。お前らしくて」

「そ、そうかな」

「さらに橙子っていうくらいだから、橙色の羽があったら面白い」

「そ、そう? 探してみる。べ、べつにあんたの好みに合わせるわけじゃないけど」

 髪をいじりながら答える。

 怒るかとおもいきや、意外と素直だなと九頭竜は思った。

「僕はリンゴも可愛いと思うなあ」

「お、司もそういうのに興味あるか」

「今度、つけてみようかな」

「いいんじゃないか? でも、お前がヘアピンつけて登校したら、ますます女子達の餌食になるだろうな。ピラニアに襲われるかのようにさ」

「そ、それは怖いな。……ぴらにあ?」

「知らないか。そりゃそうか。ピラニアを語る上で、ラザニアの存在はかかせない。ラザニアは知ってるか? 食べ物だ。そのラザニアを作るとな、どこからともなくやってきて、全部食っちまうんだ。運が悪いと、作る途中からでもやってきてな、こっちの手まで食おうとする。だから、ラザニアを作るときは、一流のハンターをボディガードに雇うのが一般的だ」

「あわ。こっちの世界にも、そういう怖い料理はあるんだね」

 信じきって怯えている。

 小動物のようだった。

「嘘を教えるなっ」

 ぱしーんと九頭竜は羽加美に頭をはたかれた。

「嘘なの? よかった。怖いピラニアなんて、いないんだね」

 安堵する司。

「いつつ」

 頭をおさえる九頭竜を尻目に、羽加美は語り出した。

 なんだか楽しそうに。

「い、いるのよピラニアは。水に落ちた生き物を、なんでも食べちゃうんだから。今年だって、被害にあった人が沢山いて。司も、池とかには気をつけてね」

 しゃべっている途中から、司は既にがたがた震えている。  

「お前だって嘘言ってるじゃないか」

 呆れる九頭竜。

「だって、この子みてたら、つい」

「はは、そうだろう」

「もう、また嘘なの? いったい何が本当で何が嘘なの」

 司は頬をふくらませて、ぷりぷりしている。

 しゃべっているだけで時間がすぎてゆく。

 結局この日は、ターゲットは現れなかった。

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