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 次の日、妹がまた突撃してきた。

 休むつもりでぐっすりだったのに。

 勝手に部屋に入ってきて、ベッドの九頭竜をゆさゆさゆする。

 パジャマな九頭竜に対して、もう部屋着に着替えていた。

「お兄ちゃん、起きて」

「なんなんだいったい。今日の当番俺じゃないだろう」

「ねえなんで昨日ずぶぬれだったの」

「昨日言っただろう」

 しかたなく話に付きあおうと、身体を起こす。

「昨日はあーとか、うーしか言わなかったじゃない」

「ああ、うん。昨日はあつかったから、プールに飛び込んだだけだ」

「何よそれ。お兄ちゃん最近楽しそうだし、気になる」

「お前も一緒に飛び込むか? プール。今度は夜の学校に忍びこむのもいいかもな」

「するわけないでしょ」

「そうやってなんでも断ってばかりじゃ楽しいことは起きないぞ。楽しさはチャンスを逃さず掴み取らないとな」

「ねえ、ホントは何してたの?」

「だからプー」

「もう、じゃあヒントちょうだい」

「ヒントって言われても。まあ、目的ができたからな。お前も、目的を持って生きろ。大事なことだ」

「偉そうなこと言って。ねえ、どんな目的?」

「何でもいいじゃないか。それより、髪伸びたか?」

「一日二日でそんな変わるわけないでしょーが。もういいっ」

 嵐のような妹は去っていった。

 ぼんやりと見送り、また横になる九頭竜。

 ドアは開きっぱなしだった。


 月曜日。

 いつものように教室に入ると、藤堂がやや興奮していた。

「なあ、聞いたか? 一昨日学校に変な格好したやつらがいたらしいぜ」

「ほお~」

「やっぱり興味あるか? なんでも、アニメみたいな魔女っ子だったみたいだぜ。白いのとピンクいの」

 身を乗り出す勢いの藤堂。

「ほほう、どんなんだろう」

 対して、九頭竜は反応が薄い。

「あれ? なんかこう、熱意が少なくね? いつものお前なら、全力で聞き込みして探しまわりそうなもんだが」

「いやいや、超見てみたいぞ。どんな子なんだろうな、羽加美ー」

 やや離れたところで、隠れるようにしていた羽加美を呼びかける。

 仕方なくこっちにきた。

 今日のヘアピンはニンジンのようだ。

「え? ええ、そうね」

「この学校で見たってことは高校生かな? もしかしてこの学校の生徒だったりして。でも、高校生にもなって、そんなっいてっ」

 パンっと羽加美が九頭竜の頭を叩き、連れだしてひそひそと話す。

「なんのつもりなのよ、あんた」

「この学校でそんな面白い事があったんだぞ。他の生徒の日常にもお裾分けだ。俺たちだけで楽しむわけには」

「変なサービス精神もってんじゃないわよ。司だって困るのよ」

「あいつは大丈夫だろう。金髪だし性別も違う」

 さらにもう一発、羽加美はぱしんと叩いた。

 頭をおさえつつ、何怒ってるんだ?と思う九頭竜だった。

「おい、何かあったのか?」

 藤堂が心配そうに尋ねてきた。

「な、なんでもないなんでもない」

 必死に見えるくらい否定する羽加美。

「?」

「ほ、ほかのニュースはないの?」

「魔女っ子はいいのか? まあ、あるにはあるけど、最近な、やたら火事が多いみたいなんだ」

「火事?」

「ああ、ここ数日で10件近くもある」

「いやいや、おかしいだろその数字」

 あまりの事に、思わず九頭竜は頭から手を離し、突っ込んだ。

「ああ、だからもう噂になってるんだ。このペースだと、一週間後は30件ほどになるとかならないとか、犯人は火車だとか」

「ああ、あの妖怪の……」

 羽加美がつんつんと九頭竜の肩をつつく。

 九頭竜が振り向くと、

「あとで、集まるわよ。司も一緒に」

 と小声で言った。

 ああ、と軽く頷き了解した。

 その羽加美の行動で、魔法絡みの件だという思いが強まった。

 ならば、詳しく聞いておく。

「ええとそれで、どこで火事があったかわかるか?」

「なんだ、現場にでも行くつもりか? 探偵でも始めたのか?」

「まあな、知ってるか? 過食探偵、多部空洞」

「ああ、あのマンガか。お前は本当に影響されやすいな。えーと場所か、数件は知ってるけど、全部はさすがにな。調べておくか?」

「ああ、ありがたい。とりあえずその場所だけでもメモしておこう」

そして、話を聞いていると、チャイムが鳴った。


 休み時間、図書室の片隅。

 司は恥ずかしそうに上目遣いだ。

 羽加美が司を連れだろうとしたとき、他の女子が「ずるーい」と騒いでいた。

 遅れて、九頭竜も来た。

「集まったわね。藤堂が言ってた、数日で10件近くの火事。それが本当なら、もしかしたら魔法を使っているのかも」

 そう羽加美が切り出す。

「こういう事件は珍しいことなの?」

 この世界に来たばかりの司が聞く。

「ええ、かなりね。ハッキリ言って異常だわ。まあそれでも、人間にだってやってやれないことはないけど」

「そうだな。朝昼晩と一日三回、ノルマをこなすかのように、街を走り回れば、できるかもしれない。もちろん証拠を残さずにだ」

「でも魔法の修行が始まったのと時期が同じだから、可能性は高いわ」

「人間だったら警察の仕事だが、魔法によるものだとしたら、俺たちが止めるべきだな。次の獲物はそいつだ」

「獲物ってあんたね……」

「しかし、火か。やけどは怖いぞう。皮膚がただれて、激痛がして、ひどくなると他の皮膚を患部に移植しないといけなくなる」

「あわわわ、わ」

 九頭竜の軽口に、司は本気でびびる。

「司を怖がらすなっ。大丈夫よ、変身さえしてれば、多少は」

 司を安心させるように羽加美は頭を撫でた。 

「じゃあ放課後、一度帰ってから、また集まろっか。調査しましょう」

「集まるなら、第三公園かな。藤堂に聞いた事件現場に近い。司、場所わかるか?」

「うん。大丈夫」

「よし、作戦会議終了ー」

 ぱん、と手を合わせる九頭竜に対し、

「なによそれ」

 呆れ顔の羽加美だった。


 ブランコというのは今やっても、面白いものだな、と九頭竜は思った。

 勢いをつけるとそれに応じて、スピードが早くなり、動きもダイナミックになる。

 流れる景色は、遊園地のバイキングのようだ。

 人間は努力に応じた成果がでると、世界とつながれた気がして幸せになれるという、本に書いてあった事を思い出した。

 問題はただひとつ、地面が近すぎることだった。

 大人用公園というものができて、大人用ブランコが設置されないものだろうか。

「……あんた達、何やってんの」

 やっときた羽加美が、白い目でみている。

 九頭竜の横では、司も、ブランコを楽しみ中だ。

「見ての通り、公園の中でも一、ニを争う、加速遊具を楽しんでいるところだ。他の遊具はいまいち動きが遅いからな。一緒にやるか? ああ、スカートじゃ厳しいか」

 前後に動いて、声が自然とドップラー効果になっている。

「スカートじゃなくてもやらないわよっ。司は身体が小さいから、まだいいけど、あんたは完全にアウトね」

「ひどいことをいうやつだな」

「これ、たのしいよ。羽加美さん」

 勢いはあまりついていないが、司も十分楽しそうだ。

「私服もそうだけど、本当に、小学生みたい」

 羽加美がそれをみて、ぽつりと感想をもらす。

 司は長袖に半ズボン。

 九頭竜はチャックのついたパーカーにジーンズ。

 羽加美はワンピースにカーディガンを羽織っている。

「よーし司。次はあれだ。地球が回っているということを教えてやる」

 そう言って、丸くて回転する遊具を指さした。

「俺が回してやるから、上に乗るんだ」

「わあ、あ。でも先に変身してもいいかな。なんだか、疲れちゃって」

 ブランコから降りた司は、若干ふらついている。

 よほど体力がないらしい。

「ブランコでかっ。だが、望むところだ。見せるが良い」

 幸い周りに人はいない。

 それを聞き、ごそごそとスティックをとりだした。

 やはり最初は小さく、すぐに大きくなった。

 横にして、前に構える司。

 すると、スティックに書いてあったのと同じ文字が、際限なく浮かび、それと同時に、光った。

 気づけば、巨大な本が現れていて、司をページに挟むように包んだ。

 本が開かれると、金髪金眼の少女になっており、すぐに浮かんでいた文字が全身を囲う。

 文字と本が消える頃には、ピンクでふりふりの服を着ていた。

「ふう」

「おおー。なんというか、物語からでてきたってかんじだな。これで、体力は向上したってわけか」

「うん。いまなら公園一周走っても、平気な気がするよ」

 健康的な顔になり、性別もかわり、より可愛らしくなった司。

 いい笑顔だ。

「そうだ。この前少し話した、俺みたいなただの人間も身体能力を上げるっていうのは、どうやるんだ?」

 元気な司をみて、九頭竜はふと思い出した。

「え、えーと、その」

「ああ、魔力供給の事? それならキスすればいいけど……。あっ、まさかあんたたち」

 じっと二人を見つめる羽加美。

「し、してないですよっ」

 手をばたつかせる司に対して、九頭竜は落ち着いたままだ。

「なんだ、キスか。そういえばまだしたこと無いな。なんとなく面白そうだとおもってたんだが。司、するか?」

「え、えええ」

 もろにうろたえている。

「そ、それは戦いのために、必要なのはわかるんだけど。えーと」

「嫌か? 別に強要はしないが」

「い、いやってわけじゃないけど」

 司は耳まで赤くなり、ついには後ろを向いてしまった。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。別に、魔力供給するだけなら、魔法を使える人なら誰でもいいんだから、だから、その」

 なぜか必死な羽加美。

 九頭竜の肩をつかむ。

「そういうもんなのか」

「えーと、えと、司は元男なわけで、九頭竜は初めてで」

 顔を下げてごにょごにょと何か言っている。

「?」

 九頭竜は羽加美が何を言っているのか聞き取れない。

「もう、いいっ。あんたは魔力供給なんかなくても、戦いなんて余裕でしょ? この話はなし、なし」

 ぱっと離れて、手を振るように言う。

「お、一度負けて、俺達の強さを認めたか。まあいいや。よし司、遊具巡りを再開だ」

 びしっと球体の遊具を指さす。

 多少頭がオーバーヒートしたまま、ふらふらと司は遊具に向かった。

「今はスカートなんだから、それに乗っちゃ駄目だって司。もう、そろそろ調査行くわよ」

「そうか、そうだな。司、その格好は目立つから、これ羽織っとけ。変身といてもいいけど、そっちのほうが身体が楽なんだろう?」

 そう言って、脱いだパーカーを渡す九頭竜。

「あ、ありがと」

 それから強引な羽加美に引っ張られるように、公園を後にした。


 火事があった現場のうちのひとつに、三人は到着した。

 住宅街のうちの一つだ。

 まだ周りに数人見張りの警官がいて、あまり近づけない。

 黒く焦げた木の棒のようなものがいくつか立っていて、地面には残骸が残っている。

 それは、身が削げて、骨だけになったかのようだった。

 もう鎮火して時間がたっているのに、気のせいか焦げ臭い。

 こそこそ隠れながら、九頭竜は二人に聞いた。

「どうだ? 何かわかるか?」

「ううん、わかんない」

「別に魔法で燃やしたからといって、魔法の痕跡があるわけでもないし」

 お手上げの様子の司と羽加美である。

「こうなったら、見回りでもするしか……ってあれ? 九頭竜?」

 いつのまにかそばにいない。

 見渡すと、警官の方に向かっていく九頭竜がいた。

「あいついつのまに」


「どーも。お勤めご苦労さまです」

 笑顔で九頭竜が声をかけた。

 警官は二人。

 共にそこそこ若い。

「なんだ君は。学生か?」

「最近多いみたいですね。火事。いつ頃犯人捕まるんですかね。怖くて怖くて夜も眠れませんよ~」

「大丈夫だよ。0時以降はまだ一度も火事は起きてないから」

 軽そうな片方の警官がいうと、

「おい、捜査の内容をばらすな」

 その警官を肘で小突き、もう片方が注意した。

「いいじゃないですか、すぐにニュースでもやりますよ」

「まったく。君もとっとと帰りなさい」

「そうなんですかー。良かった、これでゆっくり寝られます。これからも、お仕事頑張ってくださいね」

 そう言って、九頭竜は警官に手を振りつつ、司達のもとへ戻った。

 

「ただいまー」

「おかえり」

 司は律儀に返す。

「な、なによあの猫かぶりモードは。あんなの初めて見たわよ」

「どうだ、爽やかだったろう」

「さわ……やか?」

 ぽかんとする羽加美を放っといて、本題に入った。

「あの警官が言うには、0時以降は火事がないらしい。つまり、夜中だな」

「一番人気がなさそうな時間なのに?」

 もう復活した羽加美。

「ああ、寝てるんじゃないか? だとすると、やはり子供の犯行かもな」

「なるほどね。それで、見回りでもするの?」

「ああ、日が落ちて、20時くらいから街をうろつくか。お前は空から頼む。俺と司は地上だ」

「わかったわ」

「犯人を見つけたら、携帯で連絡してくれ。可能なら一撃くらわせてもいい。ただその場合、通行人が集まる可能性が高いから、すぐ隠れてもいい」

 頷く羽加美。

「もし人気のないところでも、俺たちが行くまで無茶はするな。あと、藤堂にきいた火事の場所だ。全部じゃないみたいだけどな。これから地図に書き写す」

 そう言って、地図と赤ペンを取り出した。

 メモを見て、ひとつひとつ丸をつけていく。

 7箇所ほどあったのを、すべて書き終えた。

 軽く分析する。

「ふうん。結構位置がバラバラね」

「ああ、一番遠いところで、5キロ以上ある。犯人は何か移動手段を持っているだろうな」

「駅から遠いところもあるわよ。それで、住宅が6件、お店が1件か」

「店は人通りが多いだろうに、よくやるものだ」

「このお店は、コンビニかな」

「よし、範囲は広いが仕方ない。俺と司はこの辺りから行く。時間になったら、この本屋で待ち合わせだ。羽加美も、あまり離れるなよ」

 地図を指し示しながら、そう言った。

「ええ、わかったわ」

「うん」

「よし、かいさーん。あ、パーカー返してくれ」

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