12
「ほら、あまり固くなるな」
「あ、だめなの。もう少しゆっくり……」
「そんな事いってたら、うまく入らないだろう」
「でもそんな勢いつけたら」
「ほらほら、力をぬいて」
「ああ、もう、許して」
穂乃が必死に守っているところへ、九頭竜が強引にねじ込もうとしている。
二人はゲームセンターで、アイスホッケーに夢中だった。
綺麗に攻撃と防御を同時にする九頭竜に対して、穂乃は防戦一方だ。
結果当然のように、九頭竜が勝った。
「次はあれだ」
「ええ、恥ずかしいよ」
九頭竜が指さしたのは、最新のダンスゲームだ。
「大丈夫大丈夫。それに、画面の通りに動くだけだから簡単だって」
「う、うん」
とりあえずプレイしてみる穂乃。
スコアは低いが、なんとか形にはなっていた。
「うまいっ。うますぎる。ブラボー」
九頭竜は拍手喝采だ。
それにより、必要以上に周りの目を集めていた。
プレイが終わり、筐体から離れてしゃがみこむ穂乃。
「うう、だから恥ずかしいって言ったのに。もう見ないで、許して」
「ご、ごめんごめん。穂乃があまりにいい動きだったからさ。つい」
「うう」
「ほら、あそこにアイスあるぞ。食うか?」
「食べる」
食べ物に弱い穂乃は、あっさり食いつき、立ち上がった。
自販機でアイスを買う。
「美味しいの」
「身体を動かした後のアイスはいいもんだろう」
「うん」
次に、クレーンゲーム。
「あれがいいな」
「あのたこ焼きのぬいぐるみか。よーし」
パンチングマシン。
「どおおおらああ」
「わっ凄い」
魔力供給の影響で、あっさりランキングに載ってしまった。
他のゲームもいろいろと遊び、適当なところで、外へ出る。
「そろそろ昼飯だな。あそこにするか」
適当なファミレスで飯を食う。
穂乃は九頭竜よりも、沢山食べていた。
いままで、よほど食べ物に困ったことがあったのだろう。
細い体によく入るなあと思う九頭竜だった。
「美味いか? それは良かった。知ってるか? 人って、食べる姿が一番セクシーらしいぞ」
「えっ、そうなの。私せくしー?」
「ああ、せくしーだ。もうめろめろだ」
「そ、そんなに見ないで。さっき言ったことは取り消すから、許して」
目を手でかくし、恥ずかしそうにする穂乃だった。
それから、服屋に向かう。
その途中、それは起きた。
「大丈夫ですか。おばあさん」
「いたた、足をくじいたみたいだわ」
九頭竜達の目の前で、大きめの荷物をもった老人が転んだ。
痛そうに足を抑えている。
「良かったら、送りましょうか?」
「いいのかい? 悪いねえ」
「いえいえ。穂乃、荷物持ってくれないか? 俺はこの人をおぶるから」
「わかったの」
「家はこの先よ」
そうして、おばあさんの言うとおりに、道を進む。
意外と遠かった。
もう街のはずれに近い。
そこに、大きい洋館があった。
3階建てで、横にも広い。
「え? ここなんですか?」
「ええ。さ、どうぞ中へ」
九頭竜は洋館を見上げる。
その大きさに戸惑いつつ、玄関から中に入った。
三階まで吹き抜けになっていた。
おばあさんを部屋の椅子に座らせる。
「最近の若い人も、良い人はいるんだねえ。おーい」
そう言うと、家政婦のような初老の女性が来た。
おばあさんの指示で、茶菓子と紅茶を持ってくる。
「さ、どうぞ。お食べ。お礼にしては些細ですけれど」
「いえいえ、いただきます」
「いただくの。うん、美味しい」
モリモリ食べる穂乃。
九頭竜もつまむ。
「お嬢さん、可愛らしいわね。私の孫も、それくらいの年頃だわ。最近この街、なんだか騒がしいから、心配なのだけど。あなたたちも気をつけてね」
「そうですね。何かと」
騒ぎのいくつかに関わってるとは、言えない。
そのまま少しの間、洋館で談笑して休憩していると、異変がおきた。
九頭竜と穂乃の身体がしびれ、重くなる。
猛烈な眠気まできて、瞼が落ちそうだ。
「な、なにが」
そのまま、意識が落ちる。
最後に見えたのは、ぼうっとした、人形のような表情のおばあさんだった。
平和な時間は幕を閉じる。
九頭竜と穂乃は、三階の部屋の床に寝かされていた。
手も軽く縛られている。
そこに、ロングヘアでサイドを三つ編みにした少女が現れた。
緑色の、柔らかそうな服。手には、ハートマークのついたスティック。
魔法少女だ。
「随分あっさりつかまったなあ。私が直接会ってたら、バレバレだっただろうけど、ま、ただの人間を使えばこんなもんかな」
二人をみながら、独り言をいう少女。
「街で偶然みつけたのがラッキーだったなあ。修行中の子、なかなかいないんだもの」
特に、穂乃を見る。
匂いがかげそうなくらい、近づく。
どころか、しっかりと嗅いだようで、恍惚な表情の少女。
「うーんいい匂い。さあて、スティック探すかなあ。見たところ変身してないから、ちょこっと探すの大変そうだな」
手をわきわきさせる。
まず、靴を脱がした。
変身する前のスティックは鍵くらいの小ささだ。
何処に隠してあってもおかしくない。
足の先を指でいじり、靴下の中に無いことを確認。
スカートのポケットの中を確かめた後、めくって、中も見た。
「わっ。凄い下着」
ボディチェックのように胴を触り、胸、腋、上着のポケット。
「うふふ、柔らかい」
口の中や、髪の中まで探した。
「あっれー。ないなあ」
首をかしげ、考える少女。
「こっちの人間のほうかな」
おざなりに、九頭竜の体も探す。
「うーん。ないなあ。しょうがない、本人に聞くか。起きるまで遊んでよーっと」
少女はそう言って、出ていく。
先ほどの初老の女性が、部屋に入ってきて、監視を始めた。
夜、21時を過ぎた頃。
九頭竜の妹は、夕方頃からずっと家にいた。
しかし、九頭竜と穂乃は帰ってこない。
携帯にも何の連絡もない。
いつもはだいたい陽が暮れたら、一度は家に戻るのに。
時間がたつにつれ、気が焦ってくる。
一時間前からどんどん膨れ上がる不安に、耐え切れなくなり、羽加美に相談した。
思いの外声が必死になっていたのか、羽加美の対応はかなり親切だった。
すぐに来るという。
少しして、呼び鈴がなった。
「やっほー。大丈夫?」
「あの、九頭竜君が帰らないってほんと?」
羽加美と司だ。
「あ、羽加美さん。それに、司君」
「来る途中、もしかしたらいるかなって思って、司の家に寄ったんだけど、あいついなかったから、一緒に来たよ」
部屋に移動しながら、話す。
「うん、お兄ちゃん。まだ帰ってないんだ。こんなこと、あんまりなくて」
「落ち着いて。ね? 何処行ったか聞いてない?」
「ううん。朝は私が先にでたから」
「そっか」
羽加美は考える。
空から探すべきだろうか、それとも。
「あ、穂乃ちゃんの服がかけてあったよ。たぶん、私の服を着ていったんだと思う」
「服を買いに行ったのかな」
司が妹の話に乗る。
「ねえ、九頭竜って携帯もってるよね。GPS機能ある?」
「あっ、そういえば」
さっそく携帯を取りに行き、試す。
「でた。なんだか遠いところにいるみたい。そうか。GPS、全然気づかなかった」
「ただの思いつきだよ。見せて」
そう言って、場所を見る。
そして、ちらりと司を見る。
軽く頷く司。どうやら、同じ考えのようだ。
「いい、よく聞いて。私たちはこれからそこに行くけど、利衣子ちゃんは、ここで待っててほしいの。入れ違いになるかもしれないし、危ないかもしれないから」
「ええ、私も行きたい」
「駄目、もう夜も遅いし。ちょっと迎えにいくだけだから、ね?」
真剣な表情だ。
「う、うん。でも、会えたらすぐ電話してね」
「勿論」
笑顔でそう言った。
そして、羽加美と司は玄関へ向かう。
しかしふと、穂乃の服が気になった。
なんとなく強い予感がしたのだ。
その服をまさぐる羽加美。
「なんで、こんな大事なもの忘れてるのよ」
そこには小さなスティックがあった。
夜の洋館。
ところどころランプが怪しく光っている。
好き放題遊んできた緑色の少女は、やっと戻ってきた。
まだ九頭竜達は寝ている。
また穂乃にいたずらしようかと、よだれを垂らしながら少女が近づいた時、二人は目を覚ました。
ちょうど薬が切れたようだ。
もちろんそれを狙って部屋に来たはずだが、
「ちっ」
何故か不服そうだった。
「ん、あ、ここはどこだ」
「んふう、もう食べられな……くないからもっともってきて」
「穂乃。そうだ、俺たち、お菓子を食べて、それから。おい、穂乃、起きろ」
「ふあい」
「どーもお二人さん。おめざめかなあ?」
「お前、その格好、魔法少女か。ってことは、狙いは穂乃か?」
「あ、うあ、許して」
九頭竜の後ろに隠れようとする穂乃。
しかし、手が縛られてうまく動けない。
「お前、あのおばあさんに何をした」
「普通に魔法をつかっただけさあ。ワード『支配』によってね」
「人を操って、やりたい放題してるわけだ」
若干声のトーンが下がる九頭竜。
「そうさあ。異世界といっても、随分と住みやすいよ。ここは。それより、スティックを出してくれないかなあ」
「え? あっ」
言われて、穂乃は家に忘れてきたことを今更ながら思い出す。
「渡すわけ無いだろう。自分で探すんだな」
かぶせるように言う九頭竜の言い草に、少女は穂乃の反応には気づいていない。
「やだなあ自分でするなんて。何事も人にさせるのが一番さあ。君が探してよ、もしくは、この子に在り処を吐かせてよ」
そう言って、九頭竜に近づく。
膝をつき、女豹のように、じわじわ顔を接近させる。
「何をする気だ」
「キスさあ。男となんてしたくないけど、支配するには仕方がない。本当は、そっちの可愛い子を支配したいところだけど、魔法少女は操れないんだ」
「なんだキスか。もう体験済みだ」
「そうかあ。きっと私のほうが旨いよ。何度もしてるからなあ」
「ふん」
最後まで余裕たっぷりな九頭竜は、唇を奪われた。
あまり見たことがない光景に、穂乃は目を離せない。
濃厚で、じっくりとしていて、焦らない、そんなキスだった。
やっと少女は口を離すが、九頭竜に変化はない。
「あれ?」
「あいつのほうが万倍美味いな。比較してみるもんだ」
「な、なんで。あ、まさか魔力供給? それで、魔法少女と同じように……」
「もういいから、縄をとけ」
「何を言ってるのよお。まだ状況は、何も変わってないのに」
「今開放したら、そのスティック、折らないでおいてやるよ」
「な、な、もういい。こいつを黙らせてっ」
少女が怒ったように言うと、中年女性が4人ほど部屋に入ってきた。
その時、ピンポンと、平凡なチャイムが鳴った。
どうやら誰か来たようだ。
「取引不成立だな」
そう言って、にやりとする九頭竜。
すぐに二人の口を塞ぎ、九頭竜達が助けたおばあさんに対応させる。




