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 九頭竜達が街を歩いていると、何やら騒いでいる者達がいた。

「なあーなんでそんな小奇麗な服きてんの? 金持ちなの?」

 茶髪や金髪でガラの悪そうな服装の男達が、燕尾服を着た高校生くらいの男の子に絡んでいるようだ。

「金持ちってことは、もしかしてお金恵んでくれるんじゃね?」

「だよなあーだって金持ちなんだもんなあー」

「君たちなに? お金なんて持ってないよ」

 絡まれている自覚があるのかないのか、あまり怯えた様子もなく答える。

「はあ? もしかして嘘ついてね?」

「だよなあー見るからにもってるもんなあー」

 しかし周囲の人間からみれば、見るからに危ない雰囲気だ。

「ねえ、九頭竜」

「ああ、わかってる」

 そう羽加美に応えて、九頭竜が声をかけようとしたところで、

「ふぐっ」

 茶髪のほうの男がふっとばされた。

「もう、うるっさいなー」

 見れば燕尾服の少年、秋夜は腕を突き出していて、そんな風につぶやいている。

 一瞬、場が静まり返る。しかしすぐに、金髪の方が反応した。

「おまっ、いまなにしやがった」

「ちょっと押しただけだよ。まだ何か?」

 秋夜はそう言ってじっと金髪を見る。それだけで、金髪は逃げていった。そしてふっとばされた茶髪のほうも。

「おい、もしかしてあれって魔法使い見習いか?」

「うん。もしかして気づいてなかったの?」

 小声で羽加美に尋ねると、そう答えた。

「それならそうと先に言えって」

「言おうとしたわよ」

 同じく魔法の世界の住人だった羽加美には、はじめからわかっていたようだ。

 そして向こうもこちらに気づく。こちらは司の格好でばればれである。

「あっ、あんたたちって同じ修行中の身だよね。僕とっとと修行終わらせたいんだよね。こっちの世界遊べるものないしさ。だから」

 秋夜が言葉を続ける前に、

「くっ」

 羽加美は変身を終えた。九頭竜も司も身構える。

「戦お」

 そう言い切ると、秋夜は九頭竜の元に駆け寄り、先ほどのように突き飛ばした。

「九頭竜君っ」

 軽く身体が浮いてしまったが、なんとか体勢を立て直す。鈍い痛みが残った。

「あれ。ああ、魔力強化してもらってるんだ。只の人間だとおもったのに」

「まて、ここじゃ人通りがある」

 九頭竜は息を整えつつ提案するが、

「別にいいじゃない。人間が何人いようがさ」

 秋夜はあっさりとはねのけた。

 元々少なかったが、先ほどの騒ぎからずっと見ている者もいる。物好きなのか。九頭竜としては、怪我と通報が心配だった。

「なにぼさっとしてんのよ」

 羽加美が秋夜に向かって駈ける。それを迎え撃つように、バスケットボールほどの弾を出現させ、投げた。

「わっ」

 砲丸投げのように飛んできたそれを、空に逃げて躱す。直撃すれば骨が無事ではすまなそうだ。

「え、飛べるの? なにそれ反則じゃん」

 魔法使いになろうという戦いだというのに、驚いている。羽加美に気をとられているうちに九頭竜は司に言った。

「司、本を出しとけ。それからあいつは見たところ接近タイプだ。ちょっと離れとけ」

「わ、わかった」

 言い終え、九頭竜は秋夜に突撃した。見たところ大した能力は持っていない。羽加美も空から近づいている。

 一気に決める。

 そう思った時、声とともにメイドが近づいてきた。

「秋夜ー。どうしたんですか」

 アルバイトからあがった璃子が戻ってきたのだ。何者かと思ったが、羽加美に新手の魔法使い見習いだと教えられ、九頭竜は納得する。

「お前たちもチームか」

 そんな九頭竜の声には答えず、璃子と秋夜は二人の世界に入ってしまう。

「姉ちゃん遅い。ほら見て、魔法使い見習いが二人、魔力強化された人間が一人。三人がかりで僕を襲ってきたんだ」

 先に戦おうと言い出したのはお前だろうと九頭竜は思ったが、黙って二人を注視する。

 いままで基本相手は一人だったが、二人が相手ともなると何が起きるかわからない。

 璃子が九頭竜たちをみやる。

「いいでしょう。秋夜に何かある前に間に合ってよかったです。ここで二人共倒せれば、私たちの修行も新たな展開がありそうです」

 不穏な気配を感じた途端、璃子が両手にそれぞれハンドガンを構えた。ワードによる銃の出現。事前に装填していた分だけ、弾も込められている。

「おいおいっ。司、伏せろっ」

 九頭竜はそう言って、とっさに伏せた。

 破裂音が何度も鳴り響き、それが消える頃には、璃子の銃から白い煙が上がっていた。

 幸い九頭竜には、腕と足の服をかすめただけで直接当たってはいない。

 羽加美も司も無事なようだ。司は伏せたというより、音にびっくりして尻餅をついていた。

「やはり難しいものですね」

 どうやら、ただの人間である九頭竜よりほかの二人を多く狙ったようだ。しかし浮いている羽加美と、離れている司に当てるのは簡単にはいかないのだろう。

「秋夜、弾を。早く」

「ま、まって」

 秋夜が弾を出現させ、それを璃子が装填していく。

「まったく、秋夜が真面目になればこんなふうに手で込めなくとも、直接マガジンの中に弾を出現させられるはずなんですが」

 弾を一つ一つこめながら、肩を落とし言う。

 その様子をぽかんと眺めていた九頭竜だったが、はっと我に返り、立ち上がった。

「羽加美っ」

 そしてまた走る。弾込めの瞬間なんて、最も攻撃するチャンスなはずだ。  

「わかってるわよ」

 九頭竜が地上から、羽加美が空中から、それぞれ接近する。羽加美の蹴りが璃子に届くかと思われたが、璃子は銃で直接その足を受け止めた。

 しかし秋夜は、九頭竜の迫力にうろたえた。その隙を逃さず、九頭竜が腕を掴みさらに一撃を加えようとする。

 璃子はとっさに空いた方の銃を九頭竜に向け、撃った。

 狙いが定められていないので当たりはしなかったが、九頭竜はその音に手を離してしまう。それをみて璃子は羽加美の方にも一発撃つ。これもまた、空中という異質な場所にいる羽加美には当たらない。

 二人と二人はまたも距離を置く。

「ふん、そっちのメイドのほうは気合を感じるな。でも、秋夜とかいったか。お前はやる気があるのか?」

 九頭竜は秋夜に声をかけた。動きといい、能力の使い方といい、どうもお粗末で気概が感じられない。

「な」

「秋夜、敵の言葉に耳を貸してはいけません」

「お前がもっと頑張れば、姉との強力なタッグが完成するんじゃないのか? なんだそのざまは。それでは足を引っ張られる姉がかわいそうだぞ」

「な、なな」

「九頭竜、あんた何を……」

「もう少し鍛錬を積んだらどうだ」

「秋夜」

 璃子が再度呼びかける。

「うるさいっ」

 それがきっかけだったのか、何がきっかけだったのか、秋夜は叫んだ。

「魔法使いになれるっていうからこの世界にきたのに。なんだよいきなり三人も襲ってきて。鍛錬だとか練習だとかそんなことしたくないよ。僕みたいなやつにこんな、戦いだとか異世界での生活なんて向いてないんだ。もういやだよ。帰りたいよ」

「秋夜……」

「それが本音か? だったらもうそこで座っていろ。元の世界に帰れはしないが、すぐに全部忘れさせてやる。そうすれば少しはすっきりするだろう」

 座り込んでしまった秋夜に、九頭竜が一歩近づく。しかし、璃子が銃を向け道を遮った。

「させません。秋夜には手を出させません。二人同時にくるのなら、同時に撃ちぬくまでです」

「姉ちゃん」

「ふん」

しかし突如、異変がおきた。はじめに気づいたのは璃子、そして九頭竜と羽加美も振り返りそれに気づく。

 司のワード、『目録』が光ったのだ。

「美しきかな兄弟愛、しかし、勝つのは俺たちだ」

「なんですって?」

 司が朗読を始める。感情なく機械的で、それでいて全てを終わらせんとする迫力がある。

『アリとキリギリス。ある夏の頃、アリ達は冬に向けてせっせと働いていました』

 その朗読中に、秋夜が苦しみ始める。

「秋夜っ。くっ」

 璃子はすぐに元凶を察知し、撃とうとするが、

「おっと。司には手を出させん。俺の大事な相棒だ。撃ちたきゃ俺を撃て」

 九頭竜が守るように手を広げ遮る。

『そして、キリギリスはそんなアリ達を横目に、やりたい事好きなことだけをして生きていました』

「だが、俺を撃っても止まらんぞ。どうする? 共倒れになるか? ちなみにこの話が終わると、そいつは死ぬ」

「ね、姉ちゃん」

 司が読むたびに、秋夜の苦しみがましているようだ。もはや息も危うい。

『やがて冬が来ましたが、キリギリスは食べ物を見つけられず、』

「やめてください」

 そう言って璃子は銃を捨てた。

「もうやめてください。大事な弟なんです。お願いします。なんでもしますから」

『冬の厳しさに耐え切れず、キリギリスは』

「司、もういい」

 九頭竜がそう言うと、司は朗読を止めた。

「げほっ」

「秋夜っ」

 璃子が秋夜を抱き起こす。秋夜は気を失っているが、命に別状はなさそうだ。

 反対に意識を取り戻した司は、ぼんやりとその光景を眺める。

 そして羽加美が降りてくるのをみて、司も九頭竜の元へ駆け寄った。

「どうするの? 九頭竜」

 羽加美が尋ねる。スティックを折るのか、それとも。

「どうもしない。逃がす」

「ええっ」

「勝ったのに、いいの? 九頭竜君、魔法使いになりたいんでしょ?」

 九頭竜の発言に、羽加美が驚き司が不思議そうに聞いた。

「確かに俺の目的は魔法使いになることだ。だがこんな弱い奴らを倒してなっても、何にも嬉しくない。小さい魚はリリースが基本だ」

「……いいのですか?」

 璃子が訝しげに見て聞くが、九頭竜の考えは変わらない。弱いと言われても激昂して攻撃しないのは、強さか弱さか。

「いいからいいから。そいつ連れてさっさとどっかいけ。次にあったときは潰す。その時はもっと本気でこい」

「……」

 数瞬考え、璃子は秋夜の肩を抱きながら去っていった。その後ろ姿が消えた頃、羽加美が口を開いた。

「ねえ、もしかして、さっき見たあの映画に影響されてない?」

「なにがだ?」

「ほら、あの映画の姉妹と今の姉弟を重ねてる、とか」

「……あの映画はいい出来だったよなあ」

「それはそうだけどさ。じゃあなに、あの映画見てなかったら杖折ってたの?」

「そんなことないそんなことない」

「返事かるっ」

 そんな二人の様子をみて、司はくすくすと笑う。そして気になったことを聞いた。

「でもさ、あの二人のワードって、なんだったんだろうね」

「どうだろうな。姉の方は銃を出し、弟の方は弾を出していたようだが。銃、弾」

 少しだけ考え、

「まあ、なんでもいいか」

 と結論づけた。

 

 休みの日だ。

 いい天気だというのに、九頭竜は家でぼーっとニュースを見ている。

 公園の地面が燃えたり融けたりだとか、行方不明者がふえただとか、道路が壊されていただとか流れている。

 世の中物騒なものだと思った。

「ねえ、くずくん。おでかけしよ」

 穂乃がおずおず誘ってきた。

 妹はもう出かけている。

「おー。まあ今日はなんも予定ないからな。いいぞ」

「わあい」

「普段学校いってて、お前昼間一人だもんなあ。寂しいか?」

「ううん、平気だよ。今はとっても楽しいの」

「ならいいんだけど」

 いそいそ準備をはじめる。

 穂乃は街にいたら目立ちそうな、ゴスっぽい服一つしか持っていない。

「お前の服も買ったほうがいいよな」

「そ、そうかな。この格好じゃくずくん、一緒にいて恥ずかしいかな。世間の目も、許してくれないかな」

 若干気恥ずかしそうに言う穂乃。

「俺は別にいいんだけど、洗濯とかさ。そうだ、今日は妹の服借りちゃえよ。あいつ色々もってるんだ」

「いいの? 許してくれる?」

「たぶん大丈夫だよ」

 かくして、穂乃は姿をかえた。

 ミニスカにハイソックスにシャツと半袖の上着。

「ど、どうかな」

「おー、雰囲気変わってこういうのも、面白いな。そっちの服はクリーニングかな。ハンガーかけとけ。じゃあ、行くかー」

 二人は家を出た。

 太陽がまぶしい。

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