シーン五[襲撃]
シーン五‐一[襲撃]
明転(炎の色)、SE 炎の音
戦いの喧騒
山城家の屋敷
幸 沙都さま、こちらへ・・・
光や音による炎の表現
幸が手を引き、沙都と共に部屋へ入ってくる。
沙都 幸、何が起こっているのですか?あついです・・・
幸 屋敷に火がかけられました。外は火の海です。早く逃げなければ・・・
幸、部屋の外を覗き込むが、すぐに身を引く。
沙都 幸?
幸 既に、ここまで火が回ってきております。
沙都 火が・・・
幸 ・・・どうにかして沙都さまだけでもお助けしたいのですが・・・
沙都 幸、何が起きているのですか。
幸 隣の国の・・・桜海の国が攻めてきました。外を囲んでいるのがそうです。
沙都 おうみ・・・?何故です
幸 ・・・・・・ここも、後どれだけもつかはわかりません。
沙都 ・・・幸、父上は?
幸 先ほど確認いたしました時は、兵の指揮を採っておられましたが・・・
沙都 何か?
幸 これはおそらく、負け戦になるでしょう・・・
沙都 負け?負けてしまうと、どうなるのですか?
幸 それは・・・
成仁が、腹に傷を負って部屋へ入ってくる。
幸 旦那さま。
沙都 父上。
幸 どうされたのです。
成仁 桜海め・・・裏切りおったか。
沙都 父上、血が・・・
成仁 兵はもう近くまで来ていた。足止めも、いつまでもつか・・・
幸 なんと・・・
成仁 沙都、お前はどうする。父とここで死ぬか、桜海に命乞いするか、もしくは・・・
秋伯 秀の国へでも、逃れるか。
成仁 何・・・?
シーン五‐二[くれは]
秋伯、刀を持って部屋へ入ってくる。
秋伯 山城成仁。その命、頂戴しに参った。
成仁 桜海の・・・秋伯か。なぜ、このようなことを・・・そなたの父とは、和平を結んでおったであろう。それを・・・
秋伯 先に裏切ったのはその方であろう。
成仁 なんだと。
秋伯 お前が、秀の国と通じ、我が同盟国西岡を滅ぼさんと諮りしこと、すでに聞き及んでおる。
成仁 な・・・誰が、そのようなふざけたことを・・・
秋伯 しらを切るか。・・・くれは。
幸 ・・・はい。
秋伯 あれを。
幸 承知いたしました。
幸、懐から書を取り出し秋伯に渡す。
成仁、幸を見て茫然としている。
秋伯 これが、お前が秀の領主と通じていた証拠だ。
幸 秀の国との謀略の算段、すべてこの文に記されておりました。
成仁 幸・・・お前は・・・
くれは 桜海の忍、くれはにございます。
成仁 何・・・?
くれは 私が本邸仕えになったのは、三月前にございます。お忘れでしたか?山城殿。
沙都 幸・・・?
くれは ・・・・・・沙都様、すみませぬ。しかし・・・許せとは申しません。
秋伯 山城。この乱れし世、私とて、この程度のことならば、戦を起こそうとまでは思わぬ。和平を切り、盟友の助けるために動くまでよ。しかし・・・こちらとて、許せぬことはある。
沙都 父上・・・何かなさったのですか?
成仁 ・・・・・・
秋伯 心当たりが、無いわけはなかろう。
成仁 ・・・・・・わしの命はやる。しかし、娘だけは・・・見逃してくれ。
秋伯 娘の前では話したくないと言うのか。
成仁 頼む・・・
秋伯 春季はどうした。
成仁 ・・・・・・
秋伯 子に情けをというのなら・・・お前は、私の弟をどうした?男児とはいえ、春季もまだお前の子とそう変わらぬ歳。それを・・・お前はどうした。
成仁 ・・・・・・
秋伯 お前が血迷ったことをしようとしている事を知った私が、忠告のために・・・桜海の使者として行かせた弟を、お前はどうした。
沙都 父上・・・まさか、はるときさまを・・・?
成仁 わしは・・・
シーン五‐三[桜の木の下で・・・]
ハル 兄上。
秋伯 なに・・・?
ハルが現れる。
くれは には、ハルの姿は見えない。
成仁 お前は・・・いったいどこから・・・
沙都 ハル?
成仁 ハルだと?
秋伯 春季・・・?お前、生きて・・・
ハル いいえ。・・・今の俺は、桜に魂を住まわせてもらっているだけの存在です。
秋伯 桜に・・・?
ハル はい。
秋伯 ならば、やはりお前は・・・死んで・・・
くれは ・・・・・・
ハル 兄上、お願いがあります。
秋伯 なんだ。
ハル 姫を・・・沙都姫さまを、見逃して差し上げてください。
秋伯 何・・・?
ハル お願いします・・・
秋伯 ・・・・・・
ハル ここも、そう長くはもちません。
秋伯 しかし・・・その父親は・・・
ハル 姫に、罪はありません。・・・この思いは、くれはも同じはずです。
秋伯 ・・・そうなのか?
くれは え・・・?
秋伯 くれは、そなたも・・・この男の娘は助けてやりたいのか。
くれは ・・・・・・
秋伯 そうか。
くれは 秋伯様・・・
秋伯 山城、最後の情けだ。
成仁 な・・・?
秋伯 くれは、姫を連れて先に出ろ。
くれは は、はい。沙都さま。
沙都 え・・・でも・・・
くれは 沙都さまは、幸がお守りします。
沙都 でも・・・(外の炎と父、ハルを交互に見る)
ハル、外にむけて腕を振りかざす
なぜか炎が弱まる。
ハル 行け。今なら逃げられる。
沙都 でも・・・父上は?
ハル ・・・・・・
成仁 わしは・・・後から行く。お前は、先に行きなさい。
沙都 しかし・・・
成仁 これは、命令だ。
沙都 ・・・はい。
くれは 沙都さま(行こうと促す)
沙都 ハルは?
ハル え?
沙都 ハルと、また会える?
ハル ・・・・・・あの、桜の木の下で・・・
沙都 さくら?
ハル いつもの場所で、待ってる。
沙都 約束、ですよ?
ハル あぁ。
沙都 ・・・また、明日。
ハル 桜の木の下で・・・
くれは 行きましょう、沙都さま。
くれはに連れられ、沙都は二人で退場(庭方面から)
シーン五‐四[真相]
秋伯 ・・・山城。
成仁 好きにしろ。どうせ、この怪我だ。長くはもたない。
秋伯 ・・・なぜ、桜海を裏切った。
成仁 ・・・・・・
秋伯 なぜ、春季を斬った。
成仁 ・・・・・・
秋伯 なぜ・・・私は、春季一人で行かせた・・・
ハル 兄上・・・
秋伯 なぜ・・・
成仁 ・・・・・・貴様に、わしの気持ちがわかるわけなかろう。
秋伯 ・・・何が言いたい
成仁 あの大国秀から持ちかけられた話だ。断れば・・・滅ぼされるのはこの山城だ。
秋伯 なぜ戦おうとしなかった
成仁 貴様らと一緒にするな。我が国のような小国、奴らにかかればひとたまりもなかろう。
秋伯 ・・・・・・盟約よりも、保身を選んだのか。
成仁 それの何が悪い。
秋伯 ・・・それが、答えか。
成仁 なんとでも言え。時代は、常に流れている。わしは、その流れに身を任せたまで。
秋伯 これも、時代の流れだと申すか。
成仁 そうだ。
秋伯 悲しき考えだな。
成仁 ・・・わしもそう思う。しかし、国のために必要な決断と言うものがある。
秋伯 ・・・・・・
成仁 断れば秀に滅ぼされ、受ければ裏切り者と桜海に討たれる。
秋伯 それは・・・
成仁 あぁ、決まっているわけではない。しかし、容易に想像はつく。貴様もまた、秀の掌の上で踊らされているのかもしれぬな
秋伯 ・・・・・・
ハル 兄上。
秋伯 ・・・・・・
ハル 兄上。
成仁 弟が呼んでいるぞ。
秋伯 なんだと?
秋伯、ハルの方へ眼を向けるが、見えない。
秋伯 ・・・春季・・・どこへ行った?
成仁 貴様の目の前にいるだろう?
秋伯 何?
ハル ・・・時間切れ、か。
成仁 どういうことだ。
ハル 桜に借りた力も尽きかけている。・・・兄上に、逃げるように言ってくださらぬか。
成仁 桜海。早くわしを斬れ。さもなくば、共に焼け死ぬことになるぞ。
秋伯 ・・・春季は?
成仁 逃げろと言っている。
秋伯 ・・・・・・そうか。
成仁 (秋伯去ろうとして)斬らぬのか。
秋伯 どのみち死ぬであろう。
成仁 ・・・・・・
秋伯 誰かの思惑通りに動かされるのが気に食わぬだけだ。
成仁 ・・・礼を言う。
秋伯、何も言わずに去る
シーン五‐五[死に場所]
成仁 お前は逃げなくていいのか。
ハル 俺の魂は、あの桜とともにある
成仁、庭で燃える桜に目を向ける
成仁 すまない。・・・秀の誘いを断らなかったことに後悔は無い。しかし・・・そなたには、悪いことをしたと思っている
ハル、何も言わずに桜を見つめる
成仁、刀を置き座る。小太刀を取り出し見つめる。
成仁 ・・・もう一つ聞きたい。なぜ、あやつには姿が見えなかった?お前は今も、そこにいるのに。
ハル ・・・あんたに見えるようにしたつもりはない。
成仁 何?
ハル 俺はただ、兄上に・・・姿が見えるように力を使っただけだ。
成仁 ならば・・・なぜ・・・
ハル 死期の近い者には、見えると言うだろう。
成仁 ・・・・・・そうか。
炎が勢いを取り戻し、みるみる燃え広がる。
成仁 わしは、ここで死ぬのだな。
ハル ・・・死が、恐ろしいか。
成仁 お前も、こんな気持ちであったのか。
ハル ・・・・・・
成仁 教えてはくれぬか。死にゆくとき、お前は何を思った?
ハル ・・・(何かを言おうと口を開く)
SE 炎の音が大きくなってかき消すようなイメージ
照明溶暗
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