2-5 過保護な雷撃
「入りなさい」
コフィンに誘われ、アン、リョウ、シンは生徒指導室に入る。
「さて・・・」
コフィンはゆっくりと後ろ手でドアを閉めると、アンたちをゆっくりを見据える。
「アン!!!大丈夫だったかい!?怪我はっ!?どこか痛い所はないか!?」
ドアが閉まった途端、先ほどまでの冷静さは霞のように消え去ってしまったように、コフィンは慌てふためきながらアンの肩を揺さぶる。
「大丈夫だってお父さん、ほらリョウが守ってくれたし・・・」
アンは実の父親に対して、子どもを宥めるかのように対応をする。後半が尻すぼみになったのは決して父親の豹変振りが理由ではないようだ。
「おい、リョウ。コフィン先生って・・・」
アンの横で生暖かい目線を送り続けているリョウに、状況に着いていけなくなったのであろうシンは小声で話しかける。
「あぁ、いつもこんな感じだよ。過保護もいいとこだ」
「聞こえてるぞリョウ」
いつの間にか立場が逆転し、アンに肩を掴まれていたコフィンは目線もくれずリョウへ低い声を投げかける。
「お前がついていながらなんだこの失態はぁ!何のためにお前をティパールに入れたと思ってるんだ!!」
「魔法を学ぶ為だが?」
激昂するコフィンに、リョウは微塵も動じずに言葉を返す。コフィンが激昂する流れまでもリョウは慣れっこなのだろう。
「なにを生意気な口を!」
「もうやめてよお父さん!悪いのは絡んできた三年生の方でしょ!!」
「っく、確かにそうだが・・・こいつがしっかりしていればだな、そのお前だって・・・な?」
アンの指摘に、先までの激昂が嘘のようにコフィンは言葉の勢いを失っていってしまう。
「そーだそーだー大体生徒の監視は教師の役目だぞー」
勢いを失ったコフィンを冷めた目で一瞥したリョウは、ここぞとばかりに棒読みの野次を入れる。
「お前に言われるのは大変心外なんだが、その件については返す言葉も無い・・・」
「教師失格だーティパールの教師陣は子どもの監視もできないのかー」
「っこの、言わせておけば・・・!」
「そっ!そうそうそこなんですよコフィン先生!!」
止まないリョウの野次に再び怒りの火種が再燃しそうになったコフィンに対して、シンが慌てて話題を変えようとする。
「なんだ?」
「いくら上級生の威厳を誇示するって言っても、ですね。一方的に武器、魔法の使用を許可されてるってのはどうなのかなーと、思いまして、はい」
鋭い視線を投げかけてくるコフィンに、たじろぎながらもシンは質問をする。
「あぁその件だな。そのことについては、ここ数年教師の中でも何回も議題に上がっている」
コフィンは呆れた様な顔をしながら、どかっと椅子に腰掛ける。
「元来シンの言う通り、うちの学校では三年時から状況に応じた武器の携帯及び魔法の使用は認められている。これは学校創立時からの慣例だ。そもそも学校が設立した時分は戦乱が絶えなかったらしくてな」
「魔法を使用できる人間と使用できない人間のパワーバランスが不安定だった頃だな」
「その通り」
リョウの鋭い反応に、満足したようにコフィンが頷く。いつもは互いに憎まれ口を叩く間柄であっても、根本的には互いに認め合った関係を築いているのだろう。
ティパールが設立されたのは約200年前。
魔動結晶が発明され50年程が経った当時は、次第に魔法という力に対して、恐怖や畏怖という負の感情より『便利さ』といった正の感情が上回ろうとしていた頃だ。
ちょうどその頃、それまで圧倒的に少なく、都合の良い時にのみ頼られ、それ以外ではその力から忌み嫌われていた魔法使いの数が徐々に増え始めた。
その二つの要素が偶然にも絡み合って起きたのが、魔法使いとそれを支持する者達と魔法を忌み嫌う者達の間で起きた大戦。
ティパール大戦である。