2-3 友人との再会
(さて、中庭に行こうか・・・)
「あーらら、入学式から見せ付けてくれちゃってぇ。反感買っちゃうよ?」
中庭に向かおうとしたリョウの背後から、軽薄な声が投げかけられる。
「なんか用か?シン」
めんどくさそうに頭をかきながらリョウが振り返ると、新入生代表として壇上に立っていた赤毛の少年、シン=アルフォルが立っていた。
「久しぶりに会う幼馴染に大層なご挨拶じゃねぇのぉ?」
「それもそうか。久しぶりだなシン」
リョウが手を差し出すと、ニカっと笑ったシンがリョウの手を強く握る。
シンはリョウの幼馴染である。
リョウの両親がまだ生きていた頃、家族ぐるみの付き合いというものをよくしていた。コフィンに引き取られてから会ってはいなかったものの、今回同級生としてティパールに入学するということ学園長に書類を見せられる前から知っていた。
「しかし何でお前新入生代表の挨拶断ったんだ?中央の成績優秀な生徒が挨拶をするってのが伝統だったはずだろ?」
シンの言う通り、ティパールの入学式では中央の初等魔法学校において主席の生徒が代表の挨拶をするのが伝統であった。しかしコフィン伝えにその報告があった時、リョウは間髪を入れずに断った。
理由は単純明快。
「目立つのは嫌いなんだよ。それにお前が東から入学してくるのは知ってたしな。没落貴族の孤児より、名家のご子息が代表の方が外聞もいいだろう」
「そんなもんかねぇ」
リョウの指摘にシンは納得のいかない様子だ。
リョウ=クレセッドの実家、クレセッド家は国内でも指折りの魔法使いを有する名家であった。しかしリョウの両親が事故で無くなったことを契機に、その名声は地に落ち、今ではその名は没落貴族の代名詞とされている。
それに反してシン=アルフォルの実家、アルフォル家は国内有数の実業家の家系だ。魔動結晶を日常生活に適応させた形で製品化することで名を売ったアルフォル家。一日でアルフォル家の製品を見ないという方が難しいと言えるほど、その影響力は絶大である。
「なんにしろシンが新入生代表なら、文句を言える人間も少ないってことだ」
「変な恨みを買わなきゃいいけどなー」
「そんなの慣れっこだろ、大企業の坊ちゃんには」
「ハハハ、そりゃそうだ。にしてもリョウ、お前が変わってなくて良かったよ、安心した」
「そう…か?」
シンの屈託のない笑顔に、リョウは少し戸惑いながらも懐かしい温かさを感じた。
「その自分のことには鈍感なとことかなー。ってか早く行かなくていいのか?中庭で彼女が待ってるんじゃないか?」
「彼女じゃない。コフィン先生の娘だよ。一緒に暮らしてるが兄妹みたいなもんだ」
「あーあの『雷撃』の、言われてみりゃ銀髪が父親に良く似てる」
「そうゆうこ…」
『やめてくださいっ!!』
リョウが相打ちを打とうとした時、入学式の会場であった体育館の裏手にある中庭から女子の大声が響いてきた。
「なんだなんだ?」
「アンだ」
他の生徒と同じく呆気にとられているシンの横で、リョウは瞬時に声の主を判断していた。
そして、次の瞬間リョウは走り出していた。
「おっおい!待てよリョウ!!」
まだ入学式の会場内に残っていた他の生徒達の間を縫うように駆け抜けていくリョウ、シンは何人かにぶつかりそうになるものの、何とかリョウに着いて行き、中庭にたどり着いた。