2-2 入学式
「今日この良き日。諸君は晴れて、我が学院の生徒となった」
講堂内に老人の声が響く。
古今東西、式と言う物には老人達の有難い話は付き物だ。
欠伸をかみ殺しながら眠たそうに目をこする者。壇上に立つ老人に熱い視線を向けつつ、話に聞き入るもの。態度の良し悪しはあれども、どこか皆そわつき期待と興奮、そして少々の不安が入り混じる表情をしている。
[国立魔法学院 ティパール学院]
春の訪れを感じさせる四月の第一週月曜日。
国でも最高峰の魔法学院の入学式が催されていた。
「やっぱりこうやって見ると、普通のおじいちゃんだよね。学園長って」
入学生としては真面目に(と言っても表面上だけだが)話を聞いていたリョウの横から、アンが小声で話しかけてくる。
「まぁ、今となっちゃ平和な世の中だからな。あの日が前線で戦うような必要があったのも何十年も前の話だ」
視線は壇上から外さずにリョウも小声で答える。
入学式の場だからと言って、ここでアンに返事もしないようなものなら、家に帰ってから怒涛の責め苦に遭うのは経験上明らかだ。
「そういえば、今朝会った人って学園長でしょ?」
「よく分かったな」
アンの鋭い勘に驚いたリョウは目を丸くして、顔をアンに向ける。
「そりゃリョウのことだもん。なんでも分かるよ?私」
驚いたリョウの顔に満足したように屈託の無い笑顔を見せるアン。それを見たリョウは少し困ったような微笑を浮かべた。
『それでは、新入生代表。シン=アルフォル』
「はい!」
名前を呼ばれ一人の男子生徒が壇上に上がる。
燃える様な短髪の赤髪。まっすぐ前を見据える瞳は、身に宿す熱意をそのまま体現したかのように輝いている。
「新入生代表断ったんだってね、リョウ」
「コフィン先生から聞いたのか?」
「そりゃあねぇ、怒ってたよー?『俺が推薦したって言うのに、あいつは恩を仇で返すのかー!!』って」
実父であるティパール学院の教師、コフィン=ティアスの真似をしながらアンはケタケタと笑っている。
「俺がそうゆうの苦手だって先生も知ってるだろうに」
「その先生って呼ぶのも気にくわないみたいだよー?お父さんって呼ばなきゃー」
リョウ=クレッセッドは幼少の時、両親を亡くした。その時身寄りの無くなったリョウを引き取ったのが、コフィン=ティアス。
当時アンの母親も他界していたため、コフィンは男で一つでリョウとアンを育ててくれた唯一無二の恩人である。
「良いんだよ、これで伝わるんだから」
『以上、新入生代表の言葉とさせていただきます』
拍手と共に、赤紙の男子生徒が降壇していく。
『これで入学式は終了。新入生は午後からホームルームのため各自の教室へ向かうこと』
教師のアナウンスを受け、新入生達は三々五々散っていく。
「さて、昼飯でも食うか」
ホームルームは昼休みを挟んで午後からだ。他の新入生達も各々昼食を取るはずだろう。
「そうだね、私お弁当作ってきたから中庭に集合で良い?」
「分かった。それじゃ先に中庭に言って待ってるよ」
「はーい。浮気しちゃだめだよ?」
「馬鹿なこと言ってないで早く行って来い」
リョウがあきれた顔で言うと、アンは笑顔で去っていった。