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その5

ミッシェル視点

 目が覚めると部屋は真っ暗で、夜だと思った。以前の軟禁生活では魔術光によってのランプがつけっぱなしだったから久々の暗闇といったところだろうか。カーテンを開けると窓の外はテラスになっていた。外は月明かりのほかに街の明かりもあり思っていたよりも明るかった。おそらくここは3階くらいの高さだろう。テラスへとでて下を確認してみた。無理をしたらここからにげれるかも?逃げ切れる自信はこれぽっちもないけど。一応私が皇帝の病気を治す方法らしいし、しかも不仲な国に侵入してまで私をさらってきたのだから全力で追いかけてくるんだろうなぁ。無理無理。絶対無理だわ。かといっていいなりになるのもしゃくなのよね。


「こんばんは」


「こんばんは」


「元気ないみたいだね」


「そりゃこんな外国にいきなりきて元気にはしゃぐわけないでしょ」


「でも君ってずいぶんはしゃいでいたってきいたけど?」


「あの時はまだ子供だったのよ……今が大人になったとも到底思えないけどね」


「確かに凹凸が足りないよね」


「うるせぇ!! これからが成長期だい!! ってあんただれよ!!」


 いまさらだが普通にしゃべってた自分が恐ろしい。もっと警戒心とかそういうのないのかな私。というかいつのまに部屋に入ってきたんだ!こんな夜分に乙女の部屋にさ!!


「ごめんね。ちょっと昼によったんだけど、寝てたからさ」


「そりゃこれでも精神的にきてたみたいだし、ぐっすりだったわ」


「うなされてたみたいだけどね」


「あんたなんでそんなこと知ってんのさ!」


「え?だってずっとみてたし」


「へ、変態!!」


「ありがとう」


「褒めてなんかないんだよ!」


「いいよ。わかってるから。つんでれって奴だろ?照れなくてもいいんだよ?」


「話がかみ合わんわ!で?あんただから誰なんだよ!」


「ん?僕はこの国の王様だよ」


 月明かりが男の顔をようやく映し出す。その顔は普通の村人Aって顔だった。なんか普通にパン屋とかの息子でパン屋を継ぐのが嫌で家を飛び出すのだけど両親の事故がきっかけで夢をあきらめ、実家に帰り最後には面倒を見てくれる幼馴染とくっついてハッピーエンドを迎えそうな顔だった。


「おもしろいねそれ。そんな人生も楽しいかも」


 男――皇帝は笑った。


「で?その皇帝様が何の御用で?」


「客人には挨拶は基本だろ?」


 基本でもこんな夜中はあり得ない。絶対にわかっているこの男の笑みにイラついた。部屋に光が差し込んできてわかったのだが豪華絢爛な服がおもいっくそ、似合っていない。馬子にも衣装とはいかないようである。本当にこの人が皇帝なのであろうか。


「失礼だな。僕は本当に皇帝だよ?」


 ひらひらとマントをたなびかせる。真っ黒なマントだと思ったが根本は赤かった。


「これ、ひどいだろ?僕のお気に入りだったのにさこんなに汚れちゃったんだ。さっきちょっとうっかり暗殺されそうになってね。殺し方をちょっとしくったんだぁ。あーあ、もともとの赤色で目立たないかなってさ、最初はおもってたんだけどねー」


 だんだん黒くなってきちゃったんだよねぇと口をすぼめていう姿がいかにも今日は雨で憂鬱ですねとでもいうかのようなノリで私は寒気を覚え、だから模様のように黒くなっているのか。と冷静に思うしかなかった。


「洗濯したら落ちるかなぁ?」


「難しいんじゃない?」


「う~ん。そっか仕方がないね」


 マントが宙に舞い一瞬で燃えてしまった。一瞬の炎にうつった皇帝の顔はなんともさびしそうだった。


 背中がぶるっと震える。思えば薄手のワンピースっぽいものしか自分が着ていないことに気付いた。


「皇帝陛下は炎がお得意なんですか?」


「あれ?どうして急に敬語?くだけた感じではなしてよー僕の周りってさ性格に欠陥ありまくりの連中しかいないからさ、こうして普通におしゃべりとかできないんだー」


 にこにこしている皇帝はやっぱり平凡そのものの男でマントがなくなってもド派手な恰好とのギャップは激しい。


「いえ、今までの無礼をお許しください」


「うーん困ったなぁ。じゃあ、敬語をやめるか打ち首かどっちがいい?」


「おっかないこというのね」


「うんうん。それでいいよ。フレンドリーな王様が僕のモットーだからね」


 フレンドリーな王様が打ち首なんて口にするとは思えないんだけど。


「僕が得意なのは炎なのかって話だったよね?僕はそうだねぇ、得意というよりは炎魔術は好きってだけかな?コントロールができなくて城を火の海にしかかったことがあるくらいだし、得意なのはどっちかっていうと魔術よりも呪術だしねー」


「呪術?」


 聞き捨てならない発言があったような気がしないでもないが今の私にはこちらの言葉がひっかかった。呪術なんてきいたことない。この世界にきて魔術が存在するってことには驚いてさすがファンタジーと感心したんだけど。それにしても呪術とはまた不穏な言葉だな。


「えー?呪術知らない?君にもかかってるみたいだけど――って、あれ?これって言っちゃいけなかったのかな?」


「は?!私って呪術ってのがかかってるの!?」


「うん。しかもすんごい強力なのが。僕も大概呪術には自信があるけどさ、荒いかけ方なのに強固だね」


 かけた人、相当化け物だよ。と終始ご機嫌な皇帝。だがどうでもいい。私に呪術がかかってる?


「いったいなんの呪術だっていうの」


「つまらなくなっちゃうから教えてあげなーい」


「はぁ?教えなさいよ」


「やだ」


「なんていってほんとはどんな術がかかってるかわからないんでしょ?」


「うん。その通り」


 嘘だ。絶対こいつ知ってる。だけれども教えてくれる気はさらさらなさそうだ。私は話題を元に戻すことにした。


「で?どうして皇帝陛下がこの部屋にいるんですか?」


「だからさっきもいったじゃん。あいさつだよ。あ・い・さ・つ」


 この男は私をいらだたせることしかできないのだろうか。いっそ首でも絞めてやろうか。


「本当にあいさつだけなら、もう終わったでしょ?かえってください」


「えーいっしょに寝ようよ」


「断固拒否します!」


「いいじゃんいいじゃん。なにもへんなことしないから。ね?」


「平凡男の上目使いなんて、効果ないんじゃ!!」


「ひどい!いま全世界の平凡を敵にしたよ!」


 このままじゃらちが明かない。どうしたらこいつを追い出せるだろうか。つーか皇帝って病気じゃなかったわけ?こんなにも元気そうじゃない。


「これでも熱が常時40度ぎりぎりなんだけどね」


「ならいっそう自室でゆっくりしてください。私もいい加減ねむいんで」


「だからさ!僕ひと肌が恋しいんだよね!!」


「あーもう!!いいですよもう勝手にしてください。めんどくさくなってきたわ」


 ベットに潜り込みなるべく端で体を丸めた。するとすぐにあったかいというよりか熱いと感じる体温が私を包んだ。なにかってに人のことを抱きしめてるんだと文句の一つでもいってやりたかったがどうせイラつくだけだとあきらめた。


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