その3
祭りから一夜明け、今日もまたいつもと同じ日が繰り返されるなぁとぼんやりと考えていた。まだ朝ごはんには早いが目覚めてしまった。どうしようか。どうしようといってもここですることなんて本を読むくらいしかできないけどね。
「ふあ~」
ああ、二度寝なんてのもいいかもな。
「ずいぶんのんきそうなのね」
鈴を鳴らしたような凛とした声が響く。私は驚いて振り返った。
「……綺麗な人」
「はあ?なにを当然なこといってるわけ?」
振り向いた先にいたのは髪が自ら光っているのではないかと錯覚してしまうほど見事な金髪をくるりとカールさせた、いわゆる美女が立っていた。誰?
「……これが巫女ねぇ」
それにしてもすごい格好の人だな。大概この世界の人の服って複雑なものが多いけどこの人の服ってそれ以上にごてごてしてる。なんていうのかなゴスロリ?に近いものを感じる。
「あの、‘元’巫女です」
「あっそ。でもそう思ってるのは自分だけかもよ?」
「どういう意味です?」
「あんたに教える義理があると思う?」
眉をしかめる顔も美しい。美人っていいなぁ。私もこんな美人に生まれたかった。これだけ美人だったら私は自分の力で逆ハーレムになっていただろうに。
「貴女誰なんですか?」
その質問にいかにもめんどくさそうといった顔をした美人さんは私に近づくと私のみぞおちめがけて……そこで意識を失った。
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「陛下」
「ん?」
「大好き」
「ああ、私もだ」
陛下の暖かい手がゆっくりと私の頭を撫でる。上を見上げれば微笑む陛下と目があった。
「陛下、私幸せです」
うれしそうな陛下との距離がだんだんと近づいて――
なんて懐かしい夢をみているんだ。夢の中で思う。こんな生活をそういえば送っていたなぁって感じていたら場面がかわる。
「どうしてなの!! 陛下!!」
「汚らわしい存在のくせに近づくな!」
すがり付こうとした私の両手が近くにいた宰相の手によって切り落とされる。手がぽとりと落ちた。断面が綺麗だったからなのか一瞬の沈黙の後、一気に血が噴出した。激痛が走る。
「な、んで……」
「貴様のような汚らわしいものが陛下に触れるなどと。許されるわけがないだろう」
宰相の目には以前のような私にむける熱情なんて欠片もなくてただ淡々と冷ややかに見つめていた。嫌だ。こんな結末なんて認めない。でもどうにもならなかった。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
!!
流れる血は止まらない。ここで私は死ぬのかと悟った。死んだほうが楽になるだろうしそれでもいっか。もうこんな目を見ていたくない。こんな冷たい目をみて……
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久々に見たあの日の夢に頭痛が激しかった。思わず両手をみる。あの時飛んだはずの両手は私の元にちゃんとある。あの時意識を失った私は目覚めるともうすでに両手はついていた。神経もつながっている両手はリハビリなんてせずともすぐに動かすことができて驚いた。さすがファンタジーの世界。
「って、それよりもここどこ?」
頭にくわえておなかも痛い。そういやなんか美人な人が現れて、それでみぞおちを殴られたんだったっけかな?ぺろりと服をめくればおなかが大変なことになっていた。私は見なかったことにして、あたりを見回した。
私が普段軟禁されている場所よりか広くて清潔感は格段に上だ。ベットもふかふかな布団が敷かれているし、机や椅子なんて家具もあった。軟禁生活が長いのであやうく忘れかけているがそういやこんな部屋で普通は暮らすのよねぇ。家具なんて久々に見たのでちょっとびびってしまう。
「おめざめでしょうか」
しげしげと机を眺めていたら突然声をかけられて思わず飛び上がってしまう。振り向くとなんの表情もない、人形かといわれればうなずいてしまうような青年がいた。
「巫女様。お隣のバスルームをおつかいください。着替えはこちらに」
いや、私巫女じゃないんですけどと訂正しようとしたが無理やりバスルームに押し込められてしまった。状況がまったくつかめない!