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義妹とクラスメイトから迫られる~義妹の信頼を積み重ねるために行動していたら、クラスメイトからも好かれました~  作者: 夢見る冒険者


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閑話:桜との勉強会

19時25分。設定していたアラームが小さく震えるように鳴り出した。その音を聞いて、私はスマホを手に取る。アラームを停止し、自分の身なりを再度確認する。


一応お風呂に入ったし、部屋着じゃなくて、ちゃんと外に出られる服を選んでいる。万が一ビデオ通話になってもいいように、最低限のスキンケアもした。表情は……暗くないよね。うん、大丈夫。ナチュラルメイクも崩れていない。髪も整っている。そうやって、ひとつひとつ確認して、そっと頷いた。


だって————少しでも、意識してほしいから。


そんなことを自然と考える自分に、くすっと笑ってしまう。


(私も、やっぱり千夏達の影響を受けているんだな……)


自然と口からこぼれ出て、納得した。彼女たちと出会ってから、確実に変わったことの一つがこれだ。ナチュラルメイクをするようになったこと。


、ナチュラルメイクはするようになったことだろう。少しでも連に好感を持って始めたんだっけ……まぁ、当の本人は全然気にしていなくて……他の人の目を引いてしまうだけになっている。きっかけは、少しでも連に好感を持ってほしかったから。


……なのに。当の本人は、きっと気づいていない。むしろ、他の人の視線ばかり集めてしまっている気がする。そこが少し、難しい。


(連にだけ意識してもらいたいのにな……)


なんて漏れ出た言葉に一人赤面する。これから一緒に話すのに、既に意識してしまってる……。そろそろ時間だ。私は少し焦りながら、彼が作成してくれたルームに入れるようスマホを操作すると……既に彼が入室していた。


私の入室に気づいた連が、ふわりとこちらを見る。いつも通りの優しい笑みを浮かべて挨拶してくれる。


「こんばんは、桜」


そう、優しい声が聞こえてくる。夜の遅い時間、いつもは寂しい部屋なのに、今日は大好きな人の声が聞こえる。それがたまらなく嬉しかった。


「こんばんは、連」


私が告げると、嬉しそうに連が笑ってくれる。というか、自然過ぎて気付かなかったけれど、カメラオンになってる!!


思わず彼のことを見つめてしまう。それと部屋に置いてあるものも。机の上は綺麗に整頓されていて、奥に見える本棚には沢山の書籍が収納されている。あ、あれ————私も持っている!!あっちの本は……なんて別のことについつい、気を取られていた。


にしても、ラフな連もやっぱりカッコいい。いつも以上に、自然体な彼なのに、机に向かう姿は真剣だった。いつもの優し気な笑顔とのギャップで更にカッコよく見える。自然と高鳴る気持ちを落ち着かせるために、そっと深呼吸をする。呼吸音は聞こえないように少しスマホから距離を取って。


すぅー……はぁー……。すぅー……はぁー……。


何度か繰り返すうちに、高鳴っていた胸がようやく落ち着いてくる。冷静になって思うのは、こちらはカメラオフで彼のことを一方的に見つめる形になっているということ。そのことが、少しだけ後ろめたくて。


「私もカメラオンにした方がいい?」


思い切って聞いてみる。


「ん? ああ、別に気にしなくてもいいよ。俺がしたくてしてるだけだから」


くすっと小さく笑いながら、彼はそう言った。安心させるみたいに、やわらかく目を細める。オンにしてもいいように準備はしていた。けど、いざ話すと緊張して、恥ずかしい表情を見られたくなくて、ついカメラオフにしていた。


気合を入れすぎているって思われないかな、とか。もし涼花ちゃんもいたら、やましい気持ちが見透かされてしまいそうで、結局カメラはオフのままにしていた。気遣うように笑ってくれた彼の優しさに寄りかかるみたいに、私は話題を変えた。少し申し訳ないと感じながら。


「奥に見えるのって本棚?」

「ん?……あぁ、そうだよ」


視線を少しだけ後ろへ向けながら、彼は頷きながら説明してくれる。


「毎月10冊は本を読む様にしているんだ。Web上の物と違って、一つのテーマを深く掘り下げるのに適しているから。それに、伝え方の参考にもなるからね」


まるで大したことじゃないみたいに、さらりと言う。けれど……普通に考えて、すごいことだと思う。そんなことを思いながら、私は気になったことを口にした。


「それって昔から続けているの?」

「そうだな……小学4年生の時からずっとだね。まぁ、最初は3冊とかだったけど……どうしても人と関わるうえで必要になってくるから」


少し大人びた彼の横顔に、まだ知らない一面を見た気がした。積み重ねてきた時間の厚みとか、当たり前のように努力を続けられる強さとか。画面越しなのに、それがはっきりと伝わってくる。


もう少し聞いてみたい。そんな想いがありつつ。冷静な自分がそっと制止する。流石にこれ以上は雑談の範囲を超えてるよって。


流石に勉強会と銘打ったのに会話ばかりをしているのは迷惑だし……なにより、普段から集中力がないとは思われたくなかった。私はほんの少し、背筋を伸ばす。


「話してくれてありがとう。連が博識な理由とか、落ち着いている理由が少し分かった気がする。それと……ごめんね、勉強を妨げちゃって。私も進めるね」


そう返答すると、連はふっと柔らかい笑みを浮かべ、視線を机に落とした。少し疑問に思いつつ私も勉強を再開する。それからは、互いに黙々と問題を解く時間。話すのは、丁度一時間半に一度話す程度だった。


「連の方は今、どんな感じなの?」

「今は数学をやっていて、2次関数の実数解のところかな、桜の方はどう?」

「私も同じところやってる。その問題の問4かな」

「……やっぱり桜の方が計算早いよね。俺の方は、その問題の問3だよ」

「そういう連は暗記系が得意でしょ」

「……確かにそうだな、男女なら普通逆になりそうなのにね」

「たしかにそうだね」


なんて二人して小さく笑う。ほんの少しの息抜き。それだけなのに、不思議と満たされる。話していない時間でも、連が走らせるシャーペンの音や、ページを捲る音に一人じゃないと思えるからだった。


時々、音が聞こえなくなる時は、「あ、今悩んでるのかな」なんて思えて。手が止まるのは私だけじゃないんだって、少し嬉しく感じる。少し話し、私たちはまた机に向かう。


それから30分位した時だった。私の家の玄関がガチャリと音を立て、お母さんの声が聞こえる。玄関から私の部屋の方へ歩いてきてガチャリと扉を開け、声を掛けてくれる。


「ただいま、桜」

「おかえりなさい、お母さん」


いつも通り答えると、お母さんは画面に映る連のことを見つめて驚いた。


「もしかして、誰かと通話中だった? ごめんね」

「通話中っていうか、一緒に勉強中してる最中、かな」

「へぇ~、今の時代はそうやって一緒に勉強するのね」


感心したようにお母さんが頷く。その声に気づいたのだろう、連がこちらに向き直って挨拶をする。


「初めまして、鏡連と申します。夢咲さんにはいつもお世話になっています」


そうかしこまったように挨拶をする。……むっ。桜でいいのに。なんて、少しむくれてしまう。お母さんの前だからこそ、丁寧に挨拶してくれるのは分かるけど、少し寂しくも感じていた。けれど、母の反応で我に返る。


「えっ……もしかして、こっちも映ってる?……それとごめんなさい、勉強の邪魔をしてしまって」

「いえいえ、全然邪魔じゃないですよ。むしろ、息抜きにります。それと、こっちだけカメラがオンになっているので、そちらは映ってないはずです」

「そうなの?」

「えっと……多分、そう」


慣れていないせいで、どうしても返事が曖昧になる。その返事に不安になったのだろう。お母さんは私の方に視線をやり、私の格好に気づいた。いつもより気合の入った格好に。


お母さんの視線がゆっくりと上から下へと移動する。そして、ふっと意味あり気に笑い、何かを察したようだった。……少し、恥ずかしいかも。


「そっか……あなたが連君なのね」


お母さんは改めて、連君の事を見つめる。そしてふと、スマホの画面を覗き込みながら言った。


「このカメラのマークを押せばこちらも映せるのかしら?」

「え、えぇ、一応映せますけど……桜さんの許可は……?」


驚いた連はとっさに、普段通りの下の名前で私を呼んでくれる。それが嬉しくてつい、にやけてしまう。その様子を母がどこか嬉しそうに見ていた。きっとまた私が笑って過ごしていることが嬉しいんだろうな。優しく細められた目を見て、そう感じた。


母はカメラをオンにして改めて連のほうに向きなおった。そして、彼に向かって静かに頭を下げる。


「桜から話は聞いてます。貴方のお陰で、楽しい学園生活が送れていると。色々と桜の為に行動してくれたことも。だから母として言わせてください。桜の為に行動してくれてありがとうございます」


そう、深く深く頭を下げる。その様子に連は慌てつつ彼も椅子から立ち上がって、慌てていた。


「あのっ、頭を上げてください。そんな大した事してないんで」

「そうなの?球技祭にテスト対決までしてくれたんでしょう」

「確かに僕自身ができる範囲では行動しました。……けど、俺だけじゃなくて千夏や雫も力を貸してくれました。彼女達がいたから、桜さんと正面から話せたんです。……いつでも支えてくれると分かっていたから」


真っ直ぐにこちらを見つめながら、そう伝えてくる。その力強い視線に本心からの言葉だと納得する。確かに千夏も雫がいてくれたお陰で素直になれた部分は大きい。……けど、連だって同じか、それ以上に寄り添ってくれたのに、そんなに謙遜しなくても……。なんて思ってしまう。


そんな気持ちが見透かされたのかな……連はこちらを真っ直ぐに見つめる。視線が絡んだ瞬間、心臓が大きく跳ね、自然と背筋を伸ばしてた。えっ……なになに。


髪、変じゃないよね。顔、赤くなってないよね。そんな焦りをよそに、連は静かに続ける。


「なにより桜さんがいつも真っすぐだから、俺達は友達になりたいって思ったんです。自分の気持ちに素直で芯が通っている彼女だから、隣にいたいって思ったんです」


そしてお母さんの方を真っ直ぐに見つめ、続ける。


「そんな風に育ててくれたお母さんの存在も大きかったんだと思います。だから、誰か一人じゃなくて、関わったみんながいたからだと、僕は思います」

「……そう」


お母さんは少し肩を震わせながら、頷いていた。その背中を見て思った。きっとお母さんも不安だったんだろうって。ずっと一人だった私を心配してくれていたんだって分かった。少し気持ちを整理したお母さんが口を開く。


「それじゃ、私が長居して勉強を妨げるのもあれだし。この部屋から出て行くね」

「……うん。でもあと30分したら私も行く。連君もそれでいい?」

「うん。もちろん」


優し気な表情で彼は頷いてくれる。お母さんが挨拶をして部屋を出て行く。それから続きをして、区切りがいいところで解散した。


「今日はありがとね、連」

「こちらこそ、集中して勉強できた。ありがとう、桜。それと……また明日」

「うん、また明日」


名残惜しさを隠すように、笑って通話を切った。画面が暗くなると、急に部屋が静かになる。その余韻を抱えたまま、お母さんのいるリビングへ行くと、私に気づたお母さんが優し気な表情で伝える。


「彼、いい人だったね」

「うん、良い人」


私は自信を持って頷く。するとお母さんはふっと柔らかい笑みを浮かべる。


「そっか、桜は、ああいう優し気なイケメンがタイプだったのね」


なんて告げられる。確かに格好いい。でも————惚れたのは常に前を向いているところだと思う。だから


「顔ってよりも雰囲気が好きなんだ。なんていうか……木々のさえずりが聞こえてきそうな、あの安心する感じが」


自分でも少し照れくさい例えだと思う。けれど、あれ以外に言葉が見つからない。その表現にお母さんはくすっと笑った。


「なんか、難しいこと言うね。少しお父さんに似てる」

「えっ……ほんとう!?」

「えぇ、ほんとうよ」


お母さんは嬉しそうにそう呟く。


「でも、そっか。確かに彼を好きな人は多そうね」

「うん、多い」

「でも、負けたくないんでしょ?」

「うん。絶対に負けたくない!!」


そう心から宣言すると、お母さんはどこか嬉しそうに頷いた。


「頑張りなさい、桜」

「うん!!」


母と向かい合い、他愛ない話を続ける。今日あった出来事。連と一緒に勉強したこと。球技祭の思い出。それから、千夏と雫のことも。


母は何度も頷きながら、相槌を打つ。ときどき小さく笑い、ときどき目を丸くしてみせる。


「そっか」「よかったね」


たったそれだけの言葉なのに、胸の奥にやわらかく沁みていく。ふと見る母の表情は、いつもより嬉しそうだった。その表情に、私まで自然と笑みがこぼれる。今日という一日を分け合うみたいに、私たちはゆっくりと夜を過ごした。

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