涼花の決意
お兄ちゃんとのデートを終え、揺られる電車名の中、二人寄り添いながら帰った。ずっとふわふわした気持ちに包まれていて、心地よい浴槽にずっと浸かっているような気分のまま布団に入る。
瞼を閉じ、自然と浮かんでくるのは、ゴンドラ内で煌く夕陽に照らされたお兄ちゃんの顔。その表情は、柔らかくて、優しくて————そして、どうしようもなく格好よかった。
……やっぱり、お兄ちゃんはズルいな。肩にそっと体重を預けたとき、服越しに感じる体温を思い出しながら、布団の中で小さく身を丸める。足をバタバタさせて、気分はずっと落ち着かなくて……つい、隣の部屋の方をじっと見つめていた。
昔みたいに、一緒に寝たい、なんて言うのは……だめ、だよね。でも、諦められない気持ちも湧いてくる。
普段は、誰よりも頼りになって、優しいくせに、自分のことになると少し自信なさげで。その不器用さが、どうしようもなく私の独占欲を刺激する。もっと私を見てほしい。もっと私に頼ってよ————って、つい思ってしまう。
恋愛に関してお兄ちゃんが奥手なのも分かっている。どっちが正しいのかなんてわからない。妹でいるべきなのか、一人の女性として見てほしいのか。
それでも、どうしても、"私を見てほしい"という気持ちだけは、消えてくれなかった。デートに誘ってくれて、「涼花が一番大事だ」なんて言ってくれる。
初めて、私に弱音を吐いてくれたあの瞬間。今すぐ抱きしめたい、離したくないという感情が一気に押し寄せてきて、諦めようとしていた心は一瞬で揺れ戻って、むしろ手放せないほど強くなってしまった。
だから私は、私なりに精一杯あがいてみようって決めた。
もしかしたら、お兄ちゃんは結婚しないっていう選択もあるのかもしれない。それなら、私がもっと魅力的になって、お兄ちゃんが目を離せない存在になれたら。そうしたら、いつか「好きだ」って言ってもらえるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に抱いて、私は今日のデートに挑んだ。最初に小さな女の子に声をかけられた時は、正直驚いた。友達に見られたかも、と一瞬焦ったけれど、可愛らしい小さな女の子で。その子は私たちを「お似合い」だと笑いながら言ってくれた。
お兄ちゃんは、自分なんか釣り合わないって思っているみたいだけど。少なくとも、私にはそうは思えなかった。だって私は、胸がぎゅっと締めつけられるほど、あの時間が嬉しかったんだから。
何より、その子の前で言ってくれた"世界で一番愛してる"という言葉。その一言が嬉しすぎて、頬が緩むのをずっと必死で抑えていた。
だらしない顔なんて見せたら、小さな子にすぐ指摘されちゃうだろう。だから私は、お兄ちゃんの腕をぎゅっと掴んで、別の感情を引き出すようにして誤魔化してたんだよ。……ねぇ、気づいてた?
その後の服飾店では、一瞬だけど胸にも視線を向けてくれたよね。いつもなら絶対そんなところ見ないのに。他の人に対しても、そういう視線にはとても気をつけてるお兄ちゃんが、"私には"女性らしさを感じてくれたことが、本当に嬉しかった。
それに、脚にも視線を向けてくれて……。でも、そこはもう少し細くなったら見てほしい部分だけど。ニーハイは少し攻めすぎかなって思ったけど、お兄ちゃんの視線が向いたときは、正直ドキッとした。
だから抱きついちゃった時に、それが武器になるならって、胸を押しつけたりして。でもそこは反応が無くて、少し悔しくて。でも"かわいい"って言われたら、嬉しさが勝ってしまう。
もし、本当に付き合える未来があるなら、そういう細かい好みも聞いてみたいな。なんて、一人妄想してはニヤけてしまう。でも遊園地では、結局いつも通りのお兄ちゃんで。それが、やっぱりどこか腑に落ちない。
二人きりで回る遊園地は、本当に楽しかった。お兄ちゃんと同じ目線で乗れたメリーゴーランドも、ジェットコースターで思いきり笑っちゃったのも全部楽しかった。
でも一番記憶に残っているのは、観覧車で隣に座った、あの時間だった。胸の鼓動がうるさいくらいに高鳴って、同じ景色を見て、同じ時間を過ごしていることが、ただただ嬉しくて。あぁ、このまま時間が止まればいいのに、なんて思ってしまった。
お兄ちゃんは、あのときの私の言葉を"妹としての言葉"だと受け取ったんだろうね。だけど私は————お兄ちゃんが好きな、ただ一人の女の子として、伝えていたんだよ。
帰りの電車で隣に座りながら、さりげなく触れるお兄ちゃんの温かさに包まれて、その想いは胸の中で、また大きくなっていく。
今日はきっと、幸せすぎて、ぐっすり眠れるんだろうな————そんなことを考えていた。




