デート開始
「おはよう、お兄ちゃん──」
そう出迎えてくれた涼花の今日のファッションは、白いシャツに胸元の大きな紺色のリボン。そのリボンには水色のラインが入っていて、清楚で可愛いのにちょっとだけ大人びた雰囲気を纏っていた。
下は紺色のスカート。シンプルなのに、彼女の体型を綺麗に引き立ててしまって……正直、他の男子には絶対見せられない。うちの妹、可愛すぎでしょ。内心では拍手喝采で、まるでパレードが始まった時の子供みたいに胸が躍っていた。
けれど、口から出たのは冷静を装った言葉だ。
「今日の服装、似合ってるね。涼花」
すると涼花は、ぱっと花が咲くみたいに微笑んで、
「お兄ちゃんこそ似合ってるよ」
と返してくる。そうか?と思って自分の服装に視線を落とす。黒いスウェットにグレーのパンツ。ラフだけど、腕をまくって腕時計を合わせたシンプルな格好だ。
「ほんと、似合っているよ」
強調するように、もう一度涼花が言う。
「ありがと」
そういって、涼花の頭を撫でようとして止める。せっかく綺麗にセットした髪を崩してしまうから。代わりに今できる精一杯の笑顔を返す。涼花はそれに驚いたのか、ふいっと体ごと逸らしてしまう。
(……お兄ちゃん、カッコよすぎ)
何か小さく呟いたが聞き取れない。こういった時は無理に聞いても教えてはもらえないので、涼花が落ち着くのを少しだけ待っていると、こちらを振り返り、
「それじゃあ行こうか」
そう、柔らかな笑みを浮かべて手を握ってくる。
「うん。行こう」
俺は頷き。そうして、二人で家を出た。
***
ショッピングモールに着くと、朝の九時四十分だというのに、すでに多くの人で賑わっていた。家族連れが多く、小さな子どもの手を引く親や、ベビーカーを押しながら笑い合う夫婦の姿が目に入る。
(俺たちも、外から見たらあんなふうに"仲のいい家族"に見えるのかな?)
そんなことをぼんやり考えていたとき――
「お姉ちゃん、すっごくきれいだね」
小さな女の子が、涼花のスカートをちょん、と引っ張るようにして声をかけてきた。どうやら開店前で手持ち無沙汰になったらしい。近くを見渡すと、両親は乳児の対応で手が離せないようで、哺乳瓶を用意しながら少し慌ただしそうだ。その間に涼花を見つけ、思わず駆け寄ってきたのだろう。
涼花はにっこりと笑うと、女の子と同じ目線になるように、そっとしゃがみ込んでお礼を伝える。
「ありがとう」
――俺は涼花のこういうところだ好きなんだろうな。誰かに自然に気づかえるところが、相手目線に立てるところが本当に素敵な部分だと思う。その優しさに女の子は安心したのか、さらに続ける。
「お姉ちゃんたち、デート?」
「うん、そうだよ」
涼花が答えると、女の子は目をキラキラさせて身を乗り出してきた。
「とっても仲良しなの?」
「うん、仲良し。こうやってくっつきたいくらいにはね」
そう言うなり、同じくしゃがんでいた俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。驚きつつも、少し足を動かして、衝撃が伝わらないように支える。女の子は俺の顔をじっと見て、無邪気な声で尋ねた。
「お兄ちゃんは、お姉ちゃんのこと、好きなの?」
……小さい子って、いや、年齢関係なく“恋”ってものに興味があるんだろうな。俺は優しく微笑んで答えた。
「そうだな。俺は涼花のことが大好きだよ。世界で一番、愛してる」
そう言った瞬間、涼花の腕の力がぎゅっと強くなった。少し痛いくらいだ。それでも表情は崩さず、俺は女の子の目をまっすぐ見つめ続ける。しばらくして、涼花の腕にこもっていた強さが、ふっと和らいだ。
気持ちが落ち着いてきたのか、あるいは会話に加わりたくなったのか――今度は涼花も、控えめに頷きながら話に参加してくる。そんな優しいやり取りが続いていたちょうどその時、ところで、女の子の両親もこちらに気づいたらしい。
「すみません……!」
そういって、ぺこぺこと頭を下げてくる。俺は安心させるように手を振って笑顔で応える。
「いえ、こちらこそ。こんな可愛らしい子と話せて、むしろ和みました」
そう答えると、両親はほっとしたように笑い、女の子の手を引いて元の場所へと戻っていった。涼花の方も手を振って、去っていく小さな背中を見送る。
「かわいい子だったね」
「そうだな」
和んだ雰囲気でいると、前の方が動き出しているのを感じる。どうやら気づけば開店時間になっていたようだ。開店前から少し温かな気持ちにさせてもらった少女に感謝しつつ、俺たちもショッピングモールの中へと足を進めるのだった。




