デートの約束
いつも通り、涼花が入れてくれた紅茶を口にして家でくつろぐ。隣では、涼花がお菓子をつまんでは口元をほころばせている。その何気ない仕草を見るだけで、癒される。この光景を目にするだけで頑張ろうと思えるんだから、不思議だよな。
そんな俺の視線に気づく様子もなく、涼花は楽しそうに体を揺らしながら次のお菓子を口へ運んでいた。
「涼花は、前に出掛ける提案したことを覚える?」
「もちろん。いつ誘ってくれるのかって待ってたんだよ」
そういって、少し頬を膨らませながら、拗ねたように言う。でも、怒っていないのは分かる。ホントにいつも気を遣わせて悪いなって思う。
「良かったさ、今週の土曜とかどうかな?三枝のショッピングモールとか」
「もちろん行く!!……楽しみだな」
ぽす、と俺の肩に寄り添うみたいに体重を預けてくる。やっぱり軽いなって思う。同時に、かすかに甘い香りがしてきて、同じシャンプーとか洗剤を使っているのに不思議だと思う。
「具体的に何かしたいってのはあったりする?」
俺がそう問いかけると、少し考えてから涼花は口を開いた。
「そうだね……服を見てみたいかも。新しい夏服が欲しいし……少し早いけど、水着とかも」
「女の子だけで行くのは危ないからその時は……いや、涼花が気を付けているなら大丈夫だろけど……」
そう言うと、涼花がくすくすと笑った。
「安心してよお兄ちゃん。家族旅行のときとか、友達と行くとしてもボディーガードは任せたいし」
そう言われてホッとする。海とか言って誘拐でもされたらと考えると、来るなと言われてもついて行く気がする。まぁ、涼花の場合は自分である程度何とかしそうだし、危険にならないように立ち回るだろうがそれでも心配なものは心配だ。
「逆にさ、お兄ちゃんは二人で何かしたいことないの?」
「そうだな……近くに遊園地があるから、帰りに寄ってくとか。カラオケで涼花の歌聞くのもいいし。あ、リューエルってお店がオープンしたからそこで食べてもいいし、それと……」
「待って待って! 多いよお兄ちゃん!」
涼花はそう言いながらも、楽しそうにくすくすと笑っている。声が弾んでいて、身体の小さな振動まで伝わってくる。楽しみにしているのは俺も同じで、もし、日曜も空いているようだったら、連日で一緒に出掛けたいと思っているくらいには楽しみにしている。
とはいえ、最近は友人と過ごすことも多いみたいだから、あまり無理は言えないんだけど……。
「じゃあさ、ショッピングしたあと、そのまま遊園地に行こうよ」
「うん、行こう!」
そんな風に楽し気に週末の予定を立てていく。涼花と一緒に何かをする瞬間が一番満たされているような気がする。ある程度話がまとまったところで、自然と学校の話題へと移っていく。
「2ヶ月経ってけど涼花の方はどう?3年だとそろそろ総体とか受験とかで忙しくなる時期だろ?」
「うん。でも皆自分のことに集中している感じで問題とかはないかな。むしろ、推薦とかが決まった後は大変だと思う」
「確かにそうだな。涼花も毎日頑張ってるけど問題はなさそうか?」
涼花は俺の肩に預けていた頭をそっと離し、スッと真面目な顔に表情をする。その表情があまりに整っていて、いつものように息をのむ。――本当に、人形みたいに綺麗だな。
我が義妹ながらどれだけの人を夢中にさせてきたんだろうか?そんなことをぼんやり考えていると、
涼花が静かに口を開いた。
「そうだね……現状でも去年の問題なら、490点は確実に取れるかな」
「なら、安心だ」
そう、肩の荷をおそしていると、涼花が心配そうにこちらを見つめてくる。
「お兄ちゃんの方こそ大丈夫なの?桜さんや望未ちゃんのことで、いろいろ大変なんでしょ?」
「確かにそうだな。でも大丈夫だと思う。いざとなれば大翔や有明達に頼るし」
「そうだね。あの二人とお兄ちゃんならどんなことも出来ると思う」
「やっぱり涼花に認められるのは嬉しいな」
「なにそれ」
そう言いながら、涼花はそっと俺の肩に頭をあずけてきた。涼花がこうやって信頼してくれるから俺はいつも前を向けるんだと思う。だって、迷っていた筈なのに今なら、なんとかなるって確信に変わるんだから。
いつも背中を押してくれるからこそ俺は、涼花の力になりたいんだ。胸の内が満たされていると、涼花がふと思い出したように口を開いた。
「にしてもお兄ちゃんのクラスに可愛い子集まりすぎじゃない?」
「そうかな?他のクラスを見てないからわからないけど」
「だって、六大美女の二人がクラスにいるんでしょ?」
それに苦笑してしまう。不思議そうに俺の方をちらりと見上げる。
「よく知ってるな。最近有明から聞いて知ったけど……涼花は誰から聞いたんだ?」
「千夏さんだよ。桜さんと望未ちゃんが選ばれてるんだって、楽しそうに話してた」
「なるほどね」
女性でも意外とそういう情報を話すんだな、とふと思う。東雲さんが望未のことを詳しく知っていたように、もしかすると、こういう話題はむしろ女子の方が詳しかったりするのかもしれない。
「どうりで綺麗だなって思った。……お兄ちゃんでも、やっぱり二人と一緒にいられるのは、嬉しいの?」
「そうだね。でも……涼花の兄で居られる方が、ずっと嬉しい」
「……そうなんだ」
少しだけ意外そうに目を瞬かせる涼花。もしかして、同級生よりも義妹と一緒に居られることの方が嬉しいというのは気持ち悪かったりするのだろうか?そう、不安な気持ちが湧いてくるが、気にしている様子はなくてほっとする。
「今週の土曜日楽しみだね」
「あぁ、楽しみだ!」
涼花の表情はここからだとあまり見えなくて、でも嬉しそうに鼻歌を歌っている……土曜日は、思いきり楽しませたい。自然と、そんなふうに思った。




