クラスメイトから詰められる
翌週。教室の後方――左後ろの席から、俺はいつものようにクラス全体を眺めていた。学校で一番眺めたい景色はどこかと問われたら、俺はここからの眺めだと迷わず答えるだろう。
入学初日の緊張した雰囲気とは違い、打ち解けている様子が窺える。程よくグループも出来上がってきており、二人〜多くても五人ほどのグループが出来上がってきていた。
あちらこちらで楽しそうに談笑してる姿を見るだけで今日も学校に来て良かったと思える。
「連は相変わらず後ろからの景色が好きですね」
そう声をかけてきたのは有明だった。いつも通りきっちりと制服を着こなして、穏やかな表情を浮かべている。
「まぁな、できるなら仲良いクラスの方がいいだろ?」
「今は若干浮き足立っている様に見えますけどね」
有明が見つめた視線の先には、数人の男子生徒がいる。その視線の先には桜と望未、千夏と雫が楽しそうに笑っている姿が見えた。その光景につられるように、笑顔になる。
問題は男子の方ということだろう。話しかけるタイミングを窺っているようにチラチラと視線を向けている。女性っていうのは視線に敏感だから多分気付かれているんだろうな……特に望未はそういった傾向が強いように思える。
「連君は話しかけなくていいんですか?」
「俺が入ったら嫉妬を一身に受ける気がする」
「確かに、否定はできませんね」
くすくすと笑ったあと、有明はふっと真顔に戻り、こちらを見つめた。
「ちなにみ、連君は夢咲さんと春風さんどちらの方が好きなんですか?」
いつもの軽い揶揄いのつもりだろう、そう思って顔を向けると、真剣な眼差しが返ってきた。俺は二人について考える。
「う〜ん。同じくらいかな。二人ともに尊敬するところがある。それに俺じゃ釣り合わないだろ?」
「そんなことはありませんよ、連。君は自分が思っている以上に凄い人物です」
真っ直ぐな声だった。いつも思っていた疑問――なぜ有明は、俺をこんなにも高く評価するのか。聞き返すより先に、有明は続けた。
「仮の話です。もし、連が自分の気持ちに気づいて……それでも躊躇してしまう時は、僕に相談してください。絶対に、何とかします」
「できれば、相手を傷つけたくないんだけどな」
「それでも、僕は君の望みを叶えます」
それは有明が初めて告げる本音の部分に感じた。何か心境の変化があったのだろうか?若干焦りのようなものを感じる。
「君が僕の可能性を広げてくれたように、君の可能性を僕が広げる。縛られている姿は連には似合わないですから」
「それって……どういう」
「今は秘密です。ただ、覚えていてください。君には僕と大翔がいるということを」
「……わかった」
そう答えることしかできなかった。有明の表情は、いつになく真剣だ。冗談めかした雰囲気はまるでなく、何かを決意した人間の目をしていた。そんな沈黙を破ったのはクラスメイトの戸上だった。
「おい、なんか夢咲さんと望未さん距離が近くないか?」
いや、雫と千夏もだろ。と心の中で返しつつ答える。
「確かにそうだな」
「連、なんか知ってるだろ?」
これに返答するのは面倒だが、後で発覚した方が問題になると考えて端的に返す。
「日曜日に勉強会をしたのは知ってる。けど、詳しいことは千夏達に聞かないと分からないぞ。千夏達に聞けばいいだろ?」
そう言うと戸上はわずかに狼狽える。まぁ、流石に好きだからとか好意を持っているとは答えずらいだろうな。これで、この話は終わり……そう思っていると、横やりが入ってくる。
「それについては、私も詳しく聞きたいかな、連」
少し圧のある声でこちらに鋭い視線を向けるのは、東雲さんだった。まさかの登場人物に冷や汗をかく。現状は日曜日の出来事しか言っていないわけで、仮に土曜日のことをバラされた場合は、学校中の男子(大翔と有明以外)を敵に回すことになる。
「何を聞きたいのかな?」
息を呑みながら、彼女の目を捉えてしっかりと答える。
「どうして私を呼ばなかったの?」
少し怒った風な彼女に安心しつつ、俺は用意していた回答を答える。
「今回は雫と望未と勉強会をしている時にそういった話になったんだ。どちらかというと桜の交友関係を広めたかったから望未を読んだ形になる」
「へぇ~、逃げ道を作るのは上手いね。自分は参加しておきながら」
「おい、どういうことだ」
戸上、今は黙っててくれ。流石にここで失言をするわけにはいかない。自分の脳をフルに活性化させて、何とか乗り切る言い訳を探す。明確に分かるような参加していないという嘘はボロが出る。現状で一番重要なのは土曜日のことが露呈することだろう。なら、
「確かに俺も参加しているが、帰り際だぞ。その日は別の用事があったし」
「それは、どんな?」
「そっちは、あんまり言いたくない」
「もしかして、別に彼女でも居るの?」
「えっ……」
そう言った瞬間、有明の目線だけがこちらをビクリとこちらを見る。いや、器用なことをするなと思っていると……。
「へぇ~、連って彼女いたんだ」
戸上が楽しそうに告げる。いや、誤解に繋がるから確証がないことを叫ぶのはやめような。それと何でそんなに嬉しそうなんだろうか?人の幸せを願えるということは、案外こいつは良い奴なのかもしれない。勝手に流布しない限りは……。
おかげで、教室のあちこちから視線が向けられる。いや、それは言いすぎだったか、白峰さんは全然興味なさそうだし。逆に桜や望未、雫は固まったように動かなかった。思いっきりこちらを向いたまま、微動だにすらしない。
「えっと……いないからな」
「だよねー。そうだとおもった」
「なら、何で聞いたの?」
「なんとなく」
いや、あってるんだけどね。あっているけど何で聞いたんだろう。地味にダメージが加算される。東雲さんは私を省いた罰だと言わんばかりの楽しそうな笑顔でこちらを見ている。
「それで、何が聞きたいの?」
「次は私も誘ってよねってこと。それと罰として今週末付き合って」
「今週は無理だな。義妹との予定を入れるから」
「はいはい、来週でいいから。予定あけてよね」
「わかった。分かった」
なんで、朝からこんなに疲れることをさせられていたんだろう……そう思っていると、今度は戸上がこちらに詰め寄ってくる。
「会っていたってどういうことだよ」
「ちゃんと説明するから」
その後も先生が来るまで、俺は終始質問攻めにあい、ただひたすら答え続けるしかなかった。――いつになったら解放されるんだろうか?
ぐったりとしながら横目で隣の方を見る。気づけば、いつの間にか有明の姿は消えていた。こういった時は助けてくれないんですね、そんなことを想いながらただ答えるのだった。




