表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/37

閑話ー義妹の本音ー

お兄ちゃんの部屋の明かりは、もうとっくに消えている。だけど、私の胸の奥は、ずっとくすぶっていて眠れない。


(……お兄ちゃんが、誰かを好きになる)


そんな、当たり前の未来なのに、どうしてこんなにも怖く感じるんだろう。誰かと手をつないで、笑い合っているお兄ちゃんの姿を想像するだけで、胸の奥がざわつく。息が苦しくなる。


私は、義理の妹。血は繋がっていない。――それは、知っている。法律的には、結婚だってできる。そういう話を雑誌で読んだこともある。だから、望みがまったくないわけじゃない。


でも……そんな理屈が、私の心を救ってくれるわけじゃない。


(もし私がこの気持ちを伝えて、お兄ちゃんに嫌われたら?)


そう思った瞬間、手がかすかに震えた。気まずくなって、目も合わせられなくなって……そんな未来だけは、絶対に嫌だ。私は、お兄ちゃんの隣にいたい。たとえ“妹”という立場でも。今のままの関係が壊れるくらいなら、想いは伝えない方がいい――


そう、自分に言い聞かせるたびに、胸がきしむ。だって、それは本当の気持ちじゃないから。もっと近づきたい。もっと、特別になりたい。「妹」ではなく、「ひとりの女の子」として見てほしい。


でも、その願いを口に出す勇気は、まだない。ようやく安心できる父親ができた。お母さんが笑うようになった。頼れるお兄ちゃんができた。その関係を壊すのが、ただ、ただ、怖い。私は、ずるい。独り占めしたい。そばにいてほしい。だから勉強を頑張ってきた、お兄ちゃんが私だけを見つめてくれると知っていたから。


お兄ちゃんが女性のことを意識するようになったのはきっと卒業式に本気の告白をされたからだ。兄の幸せを願っているのに、その邪魔をするように勉強を頑張る。この矛盾だらけのこの想いを、私はまだ、胸の奥にしまい込むことしかできない。


(……もし、“妹”のままでも、そばにいられるなら――それで、いい)


そうつぶやきながら、私は枕元のランプを静かに消す。自分を納得させるように、いつもやっているように繰り返し呟く。部屋の中に、暗闇が満ちていく。でも、胸の奥のざわめきは消えないままだった。


(……“妹”のままでいいなら、ずっとそばにいさせて)


心の奥で、そっと願いながら、私は目を閉じる。静かな夜の風が、木々を揺らす音がかすかに聞こえた。カーテンの隙間からこぼれる月明かりが、私の部屋をぼんやりと照らしている。その静けさの中で、ひとしずくの涙が、そっと頬を伝った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ