過去の想い出
何やら楽し気な声が聞こえてくるなと思いながら、お菓子と追加の紅茶を運んでいく。義妹と分担しながら皆にカップを配る。
「どうぞ」
そういって千夏の前にカップを置くとじーっと何かを見つめている。何かあるのかと視線をやると涼花が写っている。疑問に思っていると、口を開いた。
「にしても涼花ちゃんってホントに気が利くよね。こんに可愛くて優しいと男子が放っておかないんじゃない」
問われた涼花は、一瞬だけ固まった後、微笑んで答える。
「そうですね。でも全て断っています。男性のこと苦手なんで」
「そうなんだ。じゃあ、好きな人がいたこともないんだ」
「それは、教えられないです」
そう唇の上に人差し指を持ってきて、魔性の笑みを浮かべる。千夏は吸い寄せられるように涼花を見つめている。
「千夏?」
俺が声をかけて肩に手を置くと、はっと我に返ったように動き出す。
「ごめん、あまりの魅力に固まっていた」
そう素直な感想が返ってきて、俺は苦笑する。
(これは、同性からもモテそうだね)
……呟いていたことは聞かなかったことにしよう。いざという時は、千夏を押さえる必要があるな。なんて冗談半分に思いながら、残りの人にカップを配っていく。ちらりと涼花の方を見ると、彼女は何事もなかったようにいつも通りだった。
皆にコップを配り終わると、順番に涼花が紅茶を入れている。その姿を千夏はずっと目で追っていた。まぁ、大丈夫だろうと思いながら席に座ると、雫がこちらを向きながら聞いてくる。
「それで、連君はどうなんですか?告白されたりとかは?」
「まぁ、数回ならあるよ。断っているけれど...」
雫からの質問に先程の状況を察する。なるほどな、恋バナをしていたからあれほど盛り上がっていたのかと納得がいく。何とか追及を逃れる方法はないかと思いながら、視線をさまよわせるが回答が思い浮かばない。その隙に次の質問がされる。
「男性だったら、告白されたら付き合うって感じじゃないんですか?好みじゃなかったとか?」
「好みじゃなかったというよりは、学業とかの方を優先したいって感じかな。それは今も変わらないよ」
そう伝えて話を終わらせたつもりだったが、皆の表情にはまだ聞き足りないという雰囲気を醸し出している。なので、すかさず質問を返す。
「そういう、雫の方はどうなの?」
「私は告白すらされたことないですよ、暗いですし」
「へぇー、意外だな可愛いからモテると思っていた」
「か、かわっ...」
素直な感想を言っただけなのに、周りからの視線が一斉に突き刺さる。
「連って意外にもそういう事普通にいうんだね」
「本当だね。普段は”全然”言わないのに雫だけは特別扱いなの?」
「私も言われた経験が少ないなー、お兄ちゃん」
責め立てるような視線を感じ、うろたえてしまう。唯一何も言わない望未に目を向けると、苦笑しているのが見えた。
……これが女子会ってやつか。参加したことがないから分からないけれど...などと視線を宙に逸らすことしかできない。
...助けて。誰に願ったかも分からないけれど、ふと有明の顔が思い浮かぶ。――あいつ、こうなるのが分かってたから来なかったのか!!そう納得しかけたところで、鋭い視線を浮かべた全員と目が合った。
「もちろん、みんな可愛いと思ってるよ」
「適当に言ってるわけじゃないんだよね?」
千夏の鋭い指摘に、思わず息を呑む。恥ずかしいよ、恥ずかしいけれど、この場を乗り切るためにはそれぞれの魅力を言語化する必要があるのだろう。
「もちろんだよ。千夏は活発な所が、桜は新鮮な反応が、雫は時折見せる笑顔が、そして望未は仕草が可愛らしいって思う。涼花に関しては、いつも寄り添ってくれる時に見せる、ふとした優しい笑みが好きだな」
おそるおそる皆の様子をうかがうと、髪をいじったり、頬を緩めたりしている。――どうやら、ひとまず追及は収まったらしい。そう胸をなでおろした瞬間だった。
「じゃあ、この中なら一番誰が好みなの?」
声の主に視線を向けると、千夏が満面の笑みでこちらを見ていた。...ちなつ。なんてことを聞いてくれたんだ。いや、回答なんて一択しかなかった。
「もちろん、涼花に決まってる。天使のように優しい心と、女神のような美しさを兼ね備えてるんだから」
そう胸を張ってこたえる。これ以上の質問は許してください。内心で謝っていると、まぁ仕方ないかという表情で千夏が一息つくのが見えた。
「まぁ、涼花ちゃんだけは特別扱いしているようだし、ね」
そう言って一旦追及を避けることに成功する。本当に心臓に悪いのでやめて欲しい。
「まぁ、恋バナはさておき、望未が向こうでどんな風に過ごしていたのか気になるよね」
「わ、私」
そう驚きながらも笑顔で答えてくれる。
「みんなと変わらないとは思うよ。普通に友達ができて、喧嘩しながらも仲を深めるって感じかな」
「へぇ~、望未ちゃんとかも喧嘩するんだ」
「するよ。アイドルをやってると、どうしても遊べないことがあって、私たちとどっちが大切なのって小学生の時はよく喧嘩してたな」
「そのお友達とは喧嘩したまんまなんですか?」
雫の問いに、望未は笑顔で首を振った。
「ううん。最終的には私を応援してくれて、言い寄ってくる人相手から守ってくれた」
「信頼してるんだな」
「うん!!」
元気に返す彼女の姿がまぶしかった。本当に大切に出会えたんだって嬉しくなる。
「やっぱりアイドルとかだと恋愛は大変だよね。仲のいい男子とかは嫉妬されまくってたんじゃない?」
「そんなに仲が良かった人はいなかったから大丈夫だと思うよ?学校にもファンの人はいたから、基本は女子と話していたし」
「いや、徹底しすぎだろ」
「そう、かな?」
何となく理解した。どうして彼女が向こうで人気だったのかを。徹底的なまでに自分を律していたんだろうな。
「じゃあ、こっちでもアイドルやるの?」
彼女は少し考えた後、首を振った。
「ううん。私が目指してたところまでは行けたから、もう未練はないよ...それに応援してくれた人も向こうにいるから」
懐かしむような微笑みに、自然と視線が吸い寄せられる。――かつて一人だった少女が、大切な人たちに出会い、変わっていった。その事実が、なんだか嬉しくて。ふと、アイドル姿の彼女をもう一度見てみたいと思ってしまった。
きっと最初はダメな所もあって、不器用ながらに頑張る姿に、日々成長する姿に元気をお貰えたんだろうな。なぜだか、そんな姿が鮮明に想像できた。
「どうしたの連君?」
ボーッと見つめていたからだろう。心配するように彼女がこちらに視線を向けてくる。
「なんでもないよ」
「そう?」
アイドル姿を見たい、なんて言えるはずがないよな...それじゃあ、クラスの男子と変わらないし。もっと今の望未のことを知っていこう。そう思うのだった。




